「ヴァイオレット・エヴァーガーデン(TVアニメ動画)」

総合得点
94.3
感想・評価
2569
棚に入れた
10490
ランキング
5
★★★★★ 4.2 (2569)
物語
4.1
作画
4.5
声優
4.1
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

sekimayori さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 3.0 作画 : 5.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

違和感を伴った人間賛歌

京都アニメーション制作。
兵器として生きてきた少女が、代筆屋として働く中で人間性を回復し、過去の自分と向き合う。
シンプルで力強い人間賛歌でした。

ただ個人的には、終始、上滑り感を覚えてしまったんです。
キャラクターにも、彼らが織り成す物語にも。
原因は、作劇方法への違和感です。
具体的には、キャラクターの感情の描き方が肌に合わなかった。
「物語で感情を裏付ける」よりも、「描写それ自体で感情を押し付ける」ことを優先しているように感じました。
高い評価に反して意外と好み分かれるのでは……?ってのが正直なところ。

一方で、絵による感情描写への強烈なこだわりには、驚嘆するしかありません。
作画やレイアウトへの偏執的なこだわりによって、キャラクターの内面を雄弁に描き出すアニメーション。
京アニの表現力の到達点を見せてくれる、贅沢な一作でした。


以下、超長すぎるだけの感想。

■何が語られたか
{netabare}自らを「兵器」と規定していた少女が、「人形」としての在り方を通じて、「人間」として再生する。
そういう単純で、それゆえに強固な物語でした。
「愛してるを知りたいのです」とのセリフが繰り返されるため、テーマが愛に限定されていると思い込みがちなのですが(終盤まで私もそうでした)。
実際はもっと広く、感情を持って人として生きるとはどういうことか、を描いていたと思います。

もう少しブレイクダウンしましょうか。
人形って不思議な存在ですよね。
材質は兵器と同じく無機物。
違いは、それが人の形を模しているという一点。
それだけで、我々は人形に愛着を感じ、彼らに意味を付与して語りかけます。

ヴァイオレットが就く、「自動手記人形(ドール)」という仕事。
依頼人の伝えたいことをアウトプットするという意味では一見受動的・人形的な存在。
他方で、3話の教官は、「相手の心を掬い上げることが良きドールの資格」と語ります。
つまりドールは、自ら依頼人に働きかける、能動的な存在として規定されている。
人間を人形になぞらえる、矛盾に満ちたネーミングこそ、この物語の鍵でした。

語りかけられる者としての人形。
語りかける者としての人間。
そのはざまに立つのがドールであり、ヴァイオレットでした。
ヴァイオレットは兵器扱いされつつも、少佐との生活の中で体験を、感情を蓄積してきた人間です。
(※彼女は感情が無いのではありません。
1話から、少佐への執着や、その不在に対する不安感が見て取れます。
ただ、感情のレパートリーが少なく、感情表現の方法も知らないだけ)
依頼人たちが自分に向ける人間的な感情を浴びるうちに、人形の中で凝り固まっていた人間性がほどけ、流れ出す。
愛と言う美しい感情を知り、同時に、自分が愛を奪ってきたという残酷に絶望する。
それを乗り越えて、今までの生の上に、二本足で立って歩んでいく。
「人形」と言うギミックを媒介に、まさに「人間」的な営みを素直に取り上げてくれたことには、非常に好感が持てます。{/netabare}


■どう語られたか
{netabare}制作陣が目指したのは、とにかく映像表現によって登場人物の内面を伝えるんだ!という一点だと思います。
そこから、シンプルな物語への共感を引き出そうとした。
実際に、心情を画面で語るための作画・演出技法は、素晴らしいものでした。
キャラに俳優顔負けの演技をさせる、統制された描線。
繊細なレイアウト、ちりばめられた隠喩、美麗な心象風景。
一つ一つのカットを読み解くことで、キャラの感情がくっきり浮かび上がってきます。
レビューに画像貼って語れないのが本当にもったいないくらい。
ぜひ、気に入った話数は周回視聴してキャラの心情を丁寧に追っていただきたいです。

他方で、その感情に至る背景や心情の変遷には、あまり比重が置かれていなかったように思います。
「過程よりも結果を重視する」的なアレ。
そして、これが個人的にダメだった。
物語のテーマを損なっているようにすら感じられた。
感情の基礎になるキャラクターの体験の蓄積や、社会との関係性がおざなりにされているような感触があったんです。
それで人間が描けるのだろうか?

どういうことか。
まず、各話が時系列上で不規則な飛び石のように配置されていた。
結果、エピソード間でのヴァイオレットの情緒面の変化が唐突に感じられます。
また、その人格形成の中枢となる戦争での体験、少佐との日々が、小出しにぼんやりとしか明かされない。
本作は、ヴァイオレットが本来持っていたはずの人間普遍の感情を再獲得していく物語です。
だから、視聴者が幕間を補完すべき部分もあるでしょう。
とはいえ、ここまでのチラ見せレベルだと、ちょっと彼女の個性を無視しすぎているというか…
「人間として、こういうシチュエーションではこう反応すべきだとインプットされた。だからそう演じている」
そんな哲学的ゾンビにも思えてしまいました。

それと並行して、社会状況の描写が漠然としすぎている。
これは、ヴァイオレットの人生の核となる戦争の描写に顕著でした。
与り知らない原因によって始まり、局地戦で戦って、気が付けば終わっていた、という程度。
結局は、彼女が殺人を犯し、少佐を失ったという単純な2点に還元されてしまう。
戦争に対する他のキャラクターの反応もみな一様に個人的。
ルクリアはまだしも、軍人である大佐の戦争に対する認識すら、弟を失ったことが大半で、違和感を覚えます。
戦争自体が語られる場は、最終盤でのあまりに稚拙な叛乱における対話のみ。
それ以外にも、銃後だったとはいえあまりに陰の無い街、気候と風俗文化がちぐはぐな地方など、舞台設定も煮詰まっていない印象。
意図的に極めてミニマルな物語として作られたのでしょうが、社会的な生物である人間を描こうとするなら、キャラの置かれた社会的文脈は避けて通るべきじゃないと思う。

そして何より、出来事と感情をつなぐ線が細い。
人間がある出来事をどう理解し、どのような感情を持つのか。
キャラクターたちの個人的な体験も、彼女たちが生きる社会状況も漠然としているなら、そこは丁寧に描かなければならないはず。
にもかかわらず、物語が圧縮されすぎていた。
描かれる雄弁な感情を裏付けるには、少し頼りなさすぎるエピソードたち。
キャラクターがそれを咀嚼できているか疑問に感じてしまうほどの「間」の無さ。
これらが要因で、視聴者として、キャラの感情に追いつくことができませんでした。
絵で描かれる表情を観て、ワンテンポ遅れてやっと同じ感情に至れる、というか。
(かと思えば、画面で示せている出来事や感情を改めてセリフで説明してくれる、ありがた迷惑も散見されたり…
視聴者のリテラシーに対する信頼度が一貫していない印象)

人は他人の笑顔を見ればうれしくなるし、泣き顔を見れば悲しくなります。
ミラーニューロンの機能とも言われますが、本作はキャラの感情描写でその神経を直接殴ってくるような作風。
でも、物語ってそういうものでしょうか。
相手の感情に合わせた反応をすることが、人間的な共感なんでしょうか。
視聴者はミラーニューロンの奴隷ではないし、キャラクターは哲学的ゾンビであってはならない。
私はそう思ってしまいます。
感情を持って人として生きることを描こうとした物語としては、本作は片手落ちな印象を拭えませんでした。{/netabare}


個人的に惜しい!って感情が大きいせいで、かなり愚痴の割合過多になってしった…
美しいテーマと作り手の熱量の込められた力作だと思います。
ベタに5話とかもう4回観たからね、周回視聴の価値はある。
私が無感動な人間すぎるのと、たぶん1クールアニメに色々求めすぎてるんだろうな…
ちなみに本作はNetflix独占配信、京アニの海外展開の試金石。
海外でこの作劇方法が(Kyo-Ani Fanboy以外に)どう評価されるのか。
それによって、良くも悪くもメッセージを持たない「技術屋さん」である京アニが、今後どのような方向性に舵を切るのか。
楽しみですね。


59点

投稿 : 2018/12/12
閲覧 : 445
サンキュー:

33

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