fuushin さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
文化としてのアニメーション作品のひとつ。世界は分かり合えるはず。
ステキな作品に出会いました。
先輩レビュアーさんに感謝です。
アニメーションが、文化の一翼を担うに十分なポテンシャルを持っていることを感じさせてくれる作品です。
シンプルな作画と表現性にあっても、深く、ゆたかな情緒性を滲ませる作風です。
本作は、パントマイマーほどの仕草にもないのですが、娘と父が巡らせるもどかしい想いは、ささやかながらも十二分に表現されていて、そこに鋭い痛みを感じるほどです。
それは、楽しい夕餉と微笑ましい団欒を保てなくなってしまったという推測がそう予感させるのかもしれません。
いやがうえにも娘に定められ、彼女が歩んできた人生に、いつしか気持ちは絆され、あたたかく見守りたくなりました。
やがて、物語のほうから手を伸ばしてきて抱擁を求め、そして温かみのあるエナジーを胸の中に供給してくれるかのような面持ちになりました。
作画は、影絵のように描かれていて、表情を窺い知ることは難しそうです。
それは、物語に没入できるのか、心のうちに一抹の不安の兆しを呼び起こさせますが、また反対に、郷愁の先に控えている永遠(とわ)の安寧を深く感じさせるものにもつながっているようにも思えます。
表情をあえてスポイルすることで、人物像に自由を与えており、観る人のそれぞれのヒストリーとストーリーを自在に織り込めるように配慮されていて、どなたの情感をいかように膨らませても、安心して鑑賞に堪えられるように演出されていると思います。
色の演出は、セピアとブラックの2色に限られています。
父との別れが、娘の心から鮮やかな色彩を、根こそぎ奪い取っていったからなのでしょうか。
あるいは、父への憧憬と焦燥の想いの強さが、世界そのものを褪色させてしまったのでしょうか。
でも、ほのかな熾火に照らされていて、消しようのない愛着を未だに残しているようにも思えます。
しかしながら、ときに表わされるわずかな色彩もあり、自転車のベルの音を取り交わすさまにも、父の記憶を呼び覚まそうとしている娘のささやかな嗜(たしな)みのようにも思えます。
もしかしたら、父との絆を確かめる、心ならずのお作法なのかもしれませんね。
私は、自転車のベルの音に絆されました。
その響きには、娘から父への呼びかけの想い焦がれる切ない祈りが滲んでいるようにさえ感じられ、何度か耳にするたびに、娘のつまされる思いに感傷が膨らみ、しばし、たそがれに浸ってしまいました。
リンの音から得た心象は、幼いころに、自転車の後ろで励ましてくれた父の面影をどこかで感じとり、センチメンタルに耽ってしまったからだろうと思います。えっと、ちびっと恥ずかしいかな。
でも、魂がほんのりとした温かさに包まれたような気持ちになりました。
大判の絵本もあるようなので、紙芝居として捉えても良いでしょうね。
物語の冒頭と末尾に流れるアコーディオンのメロディーは、本作の魅力を引きだすレトリックとしては秀逸です。
また、伴劇は、物語を美しく修辞し、彩を添え、味わいを深めさせてくれています。いずれも記憶に残っているメロディー。懐かしいです。
絵本のほうには、文字がちゃんと載っていますので、作品を深めるに参考になさってもいいかもしれません。
アニメーションは大衆娯楽ではあるけれど、文化の一翼をたしかに担っている。そんなふうに感じさせる作品でした。
皆さまも、ぜひご覧になっていただき、それぞれに感じ取っていただければ嬉しく思います。
どうか本作が、皆さまに愛されますように。