fuushin さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
60年前の人の心に触れることを、愛おしく思ってくれますか?
観終わったあと、三つの作品を思い出しました。
「あの花」、「さよ朝」、そして黒澤明作品のオムニバス映画「夢」のなかの「鴉(カラス)」です。
「あの花」は、超平和バスターズの失われた "和" の気持ちを、6人の涙で埋め戻す作品でした。
「さよ朝」は、"愛するがゆえ" の逆縁の孤独感を、深く胸に秘めて、穏やかに受け容れる作品でした。
本作にも家族の喪失、孤独、別れが描かれています。
でも、語るべきテーマ性は、めんまやマキアとは少し違うような気がいたします。
「鴉」のほうは、"こんな夢を見た" というテロップのあと、黒澤氏の描く物語が始まります。
・・・「私」は、ある美術館で、ゴッホの「アルルの跳ね橋」の絵を鑑ているうちに、知らず識らずのうちにその絵の中に入っていく。やがて「カラスのいる麦畑」でゴッホその人に出逢い、胸中に抱えている苦悩に触れていくことになる・・・。
実は、本作から「夢」までは28年。「夢」から「カラスのいる麦畑」までがちょうど100年。
世代でいうと、本作から「夢」は一世代前、「カラスのいる麦畑」までは四世代前なんです。
案外、昔の人とか過去の出来事というのは、明日のことほどには関心がいかないものです。
ましてや自分が生まれる以前のことは "歴史" のお話。
たとえ、通り一遍の知識で理解できたとしても、当時の実相に触れたり、活き活きとした息吹を感じることは不可能です。
本作に登場する6人の仲間も、彼らの家族も、瞳美にしてみれば60年前の人で、お婆ちゃん、お爺ちゃん。
でも、彼らは、17歳の今を生きていて、カメラや絵筆を手にし、青春を謳歌し、家族と暮らし、生まれ育った街を闊歩しているのですね。
そこへ突然、二世代も後の未来から送られてきた「孫娘」を、いったいどんなふうに受け止め、どのようにして受け入れていくことが望ましいのか、ということを私は想像してしまったのです。
琥珀からの手紙にどんなことがしたためられていたかは、魔法使いの直系にしか明かされません。それは大切な秘密です。
ですから、「孫娘」も理由や目的は分かりませんし、接する仲間も分かりません。
お互いが戸惑うなかで、手さぐりをしながら、それぞれの糸を撚りあわせていくような物語なのですね。
そんなわけですから、これは観る人の感受性や想像力を問うてくる作品だと思います。
キャラの心情に歩み寄って、能動的に思索し、積極的に共感する姿勢が求められるでしょう。
この「孫娘」はどうするんだろう、6人の仲間はどうするんだろう、物語はなにを見せてくれるのだろう、そういうことではないのです。
視聴者たる私だったら、未来から来た「孫娘」にどうするんだろう。
そういう視点です。
物語のキャラたちはみな、強く主張することはしません。
「孫娘」も、過去に囚われ、今を思いあぐね、未来を見通せないでいます。
そんなストーリーを知ろうとすればするほど、「孫娘」の心情に寄り添おうとすればするほど、もどかしさを感じ、じれったさを背負い、彼女が望ましく思えるようになるその時まで、一緒になって魔法旅行を旅しなければなりませんね。
「大丈夫よ。なんたって私の孫だもん。」
祖母の琥珀が若い瞳美に話しかけ、若い琥珀に祖母の柚葉(ゆずは)が語りかけます。
祖母が孫に寄せる信頼というものは、どうやら世代を超えて引き継がれ、紡がれるようです。
でも、若い琥珀も、瞳美も、大人の階段を上り始めたところ。
祖母の言わんとする「大丈夫」は、ちびっと楽天的にも聞こえたかも知れませんね。
まほう屋は、心のサプリを扱います。
それは、星砂を使う人の心に、やさしく寄り添い、小さな幸せを願う気持ちにそっと手助けをする "エンパワーメント" です。
さあ、時間魔法を使って、瞳美を、若い琥珀に会わせることにしましょう。
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琥珀と瞳美の60年の時の差。
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色が見えなくなっているのは、瞳美のDNAから発せられる警鐘です。
ところが、彼女の気持ちは、"どうでもいいこと" として向き合おうとはしません。
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さて、ここで、少し趣向を変えて、ホンモノの和歌を二首、紹介させていただきますね。
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6人の部員たちは、瞳美の出自を知ることで、彼女の今を応援し、やがて未来へと送り出そうとする機運を、共同して作りだそうとします。
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長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作が、皆さまに愛されますように。