「りゅうおうのおしごと!(TVアニメ動画)」

総合得点
81.6
感想・評価
846
棚に入れた
3808
ランキング
403
★★★★☆ 3.6 (846)
物語
3.5
作画
3.7
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5
物語 : 3.5 作画 : 3.5 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

作品と商品。

アニメーション制作:project No.9
2018年1月 - 3月に放映された全12話のTVアニメ。

原作はGA文庫(SBクリエイティブ)のライトノベルで原作者は白鳥士郎。
監督は、柳伸亮。

【概要/あらすじ】

九頭竜 八一(くずりゅう やいち)は6歳時で2つ歳下の空 銀子(そら ぎんこ)と、ほぼ同じ時期に、
プロ棋士・清滝九段の内弟子となり、小学生時点で優れた才能を見せて奨励会に入り中学校3年生のときに、
15歳2ヶ月で史上4人目の中学生棋士としてプロ入り。高校には進学せず現役棋士として収入を得ている。
そして、竜王戦を制して16歳4ヶ月で史上最年少の将棋タイトル保持者となる、八段で現・竜王位である。
しかし、タイトル戦後から公式戦11連敗を喫し、スマホでエゴサーチをするとボロカスに叩かれ続けている。
姉弟子の銀子は女流棋士戦無敗で、女流二冠(女王、女流玉座)とルックスから“浪速の白雪姫”
と呼ばれ将棋ファンからはアイドル的大人気なのに。

関西将棋会館のすぐ近くにあるアパートに八一が帰宅すると、何故か小学生の女の子が待っていた。
八一から見てすごく可愛いJSである彼女の名前は、雛鶴 あい(ひなつる あい)

「約束通り、弟子にしてもらいにきました!!」

話を聞くと、彼女との出会いは約3ヶ月前の竜王戦の最終局に遡るという。
経緯を確認した上で、あいの棋力を確かめたいと将棋盤を取り出す八一。
弟子入り試験との名目でコテンパンに負かせて見込みなしということで、お帰り願おうという作戦だ。
おぼつかない駒の並べ方は初心者そのものだったが、あいの才能は驚愕すべきものだった。
女子小学生との駒の打ち合いに、八一は当初の目的を忘れて勝負師としての喜びに心が震えていた。

【感想】

同じ原作者で以前にアニメ化された『のうりん』が資料やネタを寄せ集めての継ぎ接ぎコラージュであり、
2ch(現5ch)の、やる夫スレそっくりな空気や漫画のパロディやネットで有名なギャグのごちゃ混ぜ感が、
あまり好きではないことから視聴前の期待値は低かった。
そして一話目を観たところ、意外にも面白く感じられた。

が…しかし!皆様のレビューを読んでみると、

①ロリ媚び将棋アニメ

②原作小説(コミック版のみも含む)既読者からは不満

みたいな?なのでヤングガンガンで連載中の漫画版と並行して進めて観てみることにした。

同じ原作から作り出されたのに漫画版とアニメでは確かに印象が違うし、
漫画版と比較すれば個人的にはアニメはイマイチに思える。

実在モデルがいたり、ネタを作者にぶち込まれた奇人変人揃いの棋士たちによる宴みたいな?
でも、将棋への思いは熱く猛っている連中揃いなんだぜ?な人たちを楽しむのが漫画版としたら、
アニメ版は比率配分でロリコン将棋アニメとしてのセールスポイントが前に出すぎかな?
原作を駆け足で5巻まで1クールにまとめて終わらせるためにいろんなエピソードを切って、
シーンごとの台詞やリアクションを削ぎ落として詰め込んでるせいで物足りない。

ラノベ特有の脚色の癖が強いものの、棋士たちのおかしな個性には実在モデルがいることが多く、
八一の師匠である清滝鋼介九段の将棋会館での奇行の数々(アニメではカット)は、
変人として有名な永世名人・米長邦雄(元女流棋士・林葉直子の師匠)のエピソードの流用であるし、
神鍋歩夢六段(中二病)は、3期連続で羽生を制しタイトルを保持する佐藤天彦名人(貴族)のオマージュキャラである。

取材したり資料を本やネットで集めて組み合わせてキャラやストーリーにまとめるのが原作者の作風であり、
将棋指しの生き様を知るのに棋士や女流棋士の著作を読んだ影響のままに作品に反映していく。
ギャグであれシリアスであれ将棋ネタ満載のラノベを、『頑張って書いたのに』と原作者が漏らすほど、
尺の都合とはいえ、アニメでは濃い部分(とクドい部分)が容赦なくシナリオカットの嵐なのだ。

特に、ロリコン萌えアニメとして強調された構成の都合上での被害者筆頭は姉弟子・空銀子であり、
姉弟子が八一に十年間積み上げてきた少女としての棋士としての想いの数々、
主に八一との会話で漫画版で再現されている可愛らしい表情や仕草、

「○は…○と○の、となりにいるから」

原作3巻の名台詞として取り上げられる、銀子が某キャラとはじめて“家族”になれた回想シーンが、
アニメでは無くなっていて、前半の様々な描写の積み重ねを削られた上でピンポイントに原作展開をなぞるから、
ヒステリックと暴力がアニメでは大部分の女が何言っているの?という一面が印象づけられる完全な脇役扱いである。
原作と漫画版だと切なげで重たい空気を纏った少女。もうひとりの主人公といえるぐらい良い描写をされてるのだが。

他に八一の対局相手の描写が浅く将棋そのものが、あっさりと感じる。
天才と比較しての才能の差に絶望しながら心折れずに研究を重ねて将棋指しを続ける者の強かさなど、
泥臭くも熱い棋士の生き様を表す描写、棋士としての相手を敬うモノローグなどアニメでは削られているのだ。
アニメでは棋盤をよく描くが、将棋に人生を懸ける人間の熱量を踏み込んで描けてないように思える。

もっとダメなのが八一と日本将棋連盟会長の賭け将棋という名対局がアニメではシナリオ変更で無し。
主人公は作中でも才能だけなら羽生善治モデルの名人に迫り、足りてないのはトップクラスの棋士との切磋琢磨。
そこは主人公の天才性と高い実力をを見せるのに欠かせないのに、アニメではカットされているので、
“幼女とイチャイチャしてるロリコンメガネ”が前面に出すぎて、天才棋士としての印象が薄い。
アニメ化にあたっての路線決定で主人公が犠牲になるのは、相当なことだと思う。

まだ発展途上中な実力だが、才能だけならプロの中でも圧倒的な天才主人公の格を示す積み重ねを削ったうえで、
終盤で、“将棋の神”と称えられる最強の名人との七番勝負は比較的きっちりやるのだからバランスが悪い。
しかも、八一が名人に三連敗の後に精神的に追い打ちをかけられるシーンをまるごとカットしたために、
精神的に傷つき荒廃した要因が描写不足な八一が、周囲に当たり散らす酷い八つ当たり君にしか見えないところに、
このアニメの作りの雑で甘い部分が見受けられる。描写の積み重ねとは話の説得力を補う意味があるのだ。

キャラを肉付ける会話の細かい部分や将棋シーンを尺の都合で削り尽くして描写不足気味にしているくせに、
JS研優遇でロリコンを釣るシーンはカットしないのだから、客寄せとしての萌え媚びが最優先というところか?
売るためのロジック。1クールアニメのシナリオ構成パターンにはめ込んでしまって、
将棋の世界であがき続ける人たちの群像劇と言った原作の良さが何割か損なわれているのではないか?

将棋に魂を売った棋士たちの群像劇のはずだが、キャラデザや作画が日常萌えアニメの定型どおりであり淡白。
其の点、漫画版では鬼気迫る感情を表情に込めていろいろ表現してるし、
対局中は狂おしいほどに勝利への渇望を表す者もいてアニメで目にするよりピリピリしている。
アニメの作画がほんわか風味なので登場人物の焦燥や孤独や心の闇を表現するのに向いてないのではないのか?
これは、原作では客寄せとして最初はプッシュしてたが途中から控えめになったロリ萌え路線を押したアニメと、
将棋漫画として勝負を熱くすることに注力したコミカライズの表現の違いだろうが。

原作を読むと散見される天才や強者に対する劣等感や嫉妬といったネガティブな要素、
若くして竜王の座を手に入れた主人公・八一の対局への冷ややかな感想・容赦ない批判などが、
視聴者にストレスを与える足枷だと制作陣が判断したのだろうか?かなり控えめに扱われている。
話を盛り上げる要素なので個人的には好ましくない判断だとは思うが、
ライトなロリ萌えアニメ路線には、厳しい描写は売るためには邪魔だったんだろうなと?

アニメ版は、ロリ萌えと良い人っぽさを前に出しすぎて小奇麗にまとめすぎてて、
人間の二面性といった、えげつない感じが意図的にか表現されきっていないので物足りない。
特にアニメ最終回最後の八一のモノローグは原作を読んでいれば、違和感がある台詞である。

アニメ版で喜んでる人もイマイチに感じてる人も、原作者も絶賛のコミックスの7巻か原作9巻を読んでみると、
このアニメに足りなかったものが沢山見えてくるかもしれない。

言っても仕方ないし無い組み合わせであるが、漫画版を絵コンテ代わりにP.A.WORKSあたりがアニメ化していれば、
脇役をピックアップしてコアでもっと熱い将棋アニメになっていたのではないか?と考えてしまった。

結局のところ、原作の見栄えするシーンを切り貼りして、師匠の粗相などアニメ映えしないシーンは全削除。
情報を整理してメインライン以外をズバッっと切り落とす今の1クール制限の中でのアニメの作り方が、
心理描写を半ば省略している風に見えてしまって原作の良さをあまり表現できていないと思うし、
其の上でロリコンが喜ぶシーンだけは絶対に残すので作品の中でのロリ比率が高まってしまった。
監督自体が見栄え重視でアニメに加工する技術はあれど販促のプロモーションアニメの延長止まりであって、
原作の精神性の再現に重きを置かないという点で、少々残念なアニメ化内容だったと思わざるを得なかった。

いい加減、尺不足を口実に原作をダイジェスト浪費する現在のアニメ業界の慣習をどうにかしろ!
と言いたくなる。もうちっと丁寧に原作の内容を拾ったアニメが増えてほしいと思った。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2018/11/17
閲覧 : 471
サンキュー:

67

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