キャポックちゃん さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
エル・プサイ・コングルゥって、どういう意味?
『STEINS;GATE』は、愛する女性を助けようと懸命にもがく岡部倫太郎の姿が視聴者の共感を呼んだようだが、私にはストーリーから外れた小ネタの方が気にかかった。2ちゃんねる風のネットスラング(「ぬるぽ←NullPointerException」「ガッ」)や、現実から微妙なずれを見せる描写(牧瀬紅莉栖はどんな研究をしているのだろう、脳科学と一般相対論は分野が大きく異なるし、そもそも理論家は白衣など着ないのだが)などだ。
中でも印象に残ったのが、さまざまな厨二病的言辞を弄する岡部が、つながっていない電話に語りかけるとき、最後に決め台詞として使う「エル・プサイ・コングルゥ」。原作となるPCゲームのライター・林直孝のインタビュー(DENGEKI ONLINE News 2009年11月20日)によると、「全く意味のない言葉」とされる。しかし、本作に登場する他の言葉は、「シュタインズ・ゲート(石の扉?)の選択」にせよ「アトラクタフィールド(アトラクタもフィールドも正式な物理学用語)」にせよ、全く無意味ではなく、何らかの元ネタがある。とすると、「エル・プサイ・コングルゥ」も、どこかから引っ張ってきた可能性が無視できない。
実は、この言葉が意味を持つコンテクストがある。理論物理学の一分野である素粒子論では、運動方程式を決定する基本的な物理量としてラグランジュ演算子が使われ、ラテン文字のエル(L)で表される。素粒子論では、いくつかの場(フィールド)が取り上げられるが、その一つとして天才物理学者ディラックが提案したのがスピノル場で、ギリシャ文字のプサイが使われる。スピノル場のラグランジュ演算子は、エルに添え字としてプサイが付いた形となり、エル・プサイと読まれる。
一方、「コングルゥ」に該当する英語には、「~と一致する」を意味する “congrue” がある。つまり、「エル・プサイ・コングルゥ」とは、(三単現の s がないので)「スピノル場のラグランジュ演算子は~と一致すべし」という意味になる。ラグランジュ演算子が何かと一致すると、それに応じて、どんな物理現象が起きるかが決定される。もしかしたら、ある特別なラグランジュ演算子になると、時間遡行が可能になるのかもしれない。
この解釈の難点を言えば、 “congrue” という英単語は、現在ではまず使われない古語であること。もっとも、数学では、「合同」の意味で “congruence” という用語が頻繁に使われるので、数学の好きな物理学者が、ちょっと気取った言い回しとして、「エル・プサイ・コングルゥ」を使うこともあり得ないわけではない。
ゲーム『STEINS;GATE』のシナリオを構想していたライターが、アイデアを求めて物理学の専門書をパラパラめくっているうちに、偶然、この部分に目が留まり、何となく語呂がよくて使ったものの、どこから引っ張ってきたか忘れてしまった…そんな推測も成り立つような気がする。