キャポックちゃん さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
階段脇の絵には何が描かれている?
【総合評価:☆☆☆☆】
押山清高のテレビアニメ『フリップフラッパーズ』は、随所にちりばめられた伏線を読み解いて、はじめてその真価がわかる作品である。もっとも、その伏線は必ずしもわかりやすいものでなく、漫然と見ていると看過してしまう。例えば、ヒロインのココナは、ちょっと古ぼけた日本家屋に「おばあちゃん」と住んでおり、朝食には納豆を食べる。ところが、一歩外に出ると、カラフルな路面電車が走り石造りの住宅が並ぶ、ヨーロッパの古都を思わせる街並み。学校の校舎は、異様に広大な敷地に建つ壮麗な建物なのに、内部の職員室や保健室は、何ともせせこましく日本的な雰囲気を漂わせる。「ここはどこ?」と思ってしまうのだが、こうした不調和な描写は、すべて伏線なのだ。
そうした伏線の一つが、校舎階段の脇にある大きな絵画。木々に囲まれた沼か川に、何かが浮かんでいる。はじめのうちははっきりしないが、しだいに、シェークスピア『ハムレット』に出てくるオフィーリア水死のシーンであることがわかってくる。
オフィーリアは、愛するハムレットに父ポローニアスを誤殺され、狂気の内に心を閉ざしてしまう。無心に歌を歌いながら花を摘んでいたが、川べりの柳に花輪を飾ろうと登ったところ、枝が折れて川に落ちる。裳裾が広がっていったんは水面に浮かんだものの、やがて衣服が水を含んで重くなり、川底へ引きずり込まれた。その姿は、ガートルードの口を借りて語られる。
しばらくは人魚のように川面に浮かびながら
古い歌をきれぎれに口ずさんでいました、
まるでわが身に迫る死を知らぬげに、あるいは
水のなかに生まれ、水のなかで育つもののように。
(『ハムレット』4幕7場、小田島雄志訳)
この情景は多くの芸術家にインスピレーションを与え、さまざまな絵画作品が描かれてきた。最も有名なのが、ラファエル前派の画家ミレイの油絵で、水を張ったバスタブにモデルを浮かべて描いたと言われるオフィーリアの姿は真に迫り、見る者の心を揺さぶる。『フリップフラッパーズ』の絵画は、こうした伝統を踏まえ、差し迫った運命に気づかないまま安逸な生活に溺れる人間の実像を象徴している。