「月がきれい(TVアニメ動画)」

総合得点
94.0
感想・評価
1811
棚に入れた
7635
ランキング
8
★★★★☆ 4.0 (1811)
物語
4.1
作画
4.0
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

ピピン林檎 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

初々しい中学3年生《文学少年×陸上少女》の初恋物語

(2019年3月)誤字修正

第1話を見終えた時点では、主人公の少年&少女がいまいちパッとしない容姿(キャラデザ)と性格(キャラ付け)で、展開も何となく月並み、そして全体的な作画も何だか地味で、これ本当に面白くなるの?と不安になりましたが、第3話の途中で、村下孝蔵の「初恋」が流れ出すあたりからグッと作品内容に惹き込まれてしまい、そのあとは最終回まで、ほぼ中弛みなしで一気に見切ってしまいました。
(※但し、第6話の後に放送/配信された「前半抄」はただの総集編なので見なくてよいと思います)


◆岸誠二監督は《青春&恋愛もの》でも有能!

岸誠二監督といえば、上江洲誠(シリーズ構成)氏と組んでのバトル系ファンタジー作品、具体的には、

(1) 『蒼き鋼のアルペジオ-ARS NOVA-』 ※個人評価(TVシリーズ ★ 4.3、劇場版1 ★ 4.0、劇場版2 ★★ 4.5)
(2) 『結城友奈は勇者である』 ※個人評価(TVシリーズ第1期 ★★ 4.7、第2期 ★ 4.2)

・・・といった人気作・面白作を連発している方、というイメージを個人的に持っていたのですが、ファンタジー設定の一切ない普通の《青春&恋愛もの》でも、こんなに面白くて尚かつ感動も出来る作品を作れる方だったんですね。
もともと高く評価していた同監督をさらに見直してしまいました。
(※『瀬戸の花嫁』とか『暗殺教室』とか、まだ見てない同監督の有名作品が多くあるので、いずれそれらも視聴してみたくなりました)

そして、本作のシリーズ構成・脚本(全話)を担当した柿原優子氏は、私がこれまで見た作品だと、『劇場版 そらのおとしもの 時計じかけの哀女神』(※個人評価 ★★ 4.5)の脚本を初めとする『そらのおとしもの』シリーズ全作や、『ちはやふる2』(※どちらも人気の原作付き作品)のシリーズ構成を手掛けられた方ですが、本作のようなオリジナル作品でも確りした話づくりの出来る方だということを今回知りました。


◆設定&プロット自体は『true tears』と相似かも?

本作は内容的には、岡田磨理氏がシリーズ構成を担当し、P.A.WORKS初の元請アニメとなった『true tears』(2008年)と非常によく似ていると思いました。
具体的にいうと、
{netabare}
(1) 少年の方は、純文学を志望して雑誌等に投稿を繰り返している。
 →『true tears』の少年は、絵本作家兼詩人志望で投稿を繰り返している。
(2) 少女の方は、陸上部に所属して大会に出場して活躍している。
 →『true tears』のヒロインの片方は、バスケット部に所属して、練習試合で活躍している。
(3) 上記の少年&少女には、それぞれ横恋慕する第三者がいて、それぞれ話の途中で、その第三者から告白を受けて、結局その相手を振ってしまうことになる。
 →『true tears』の場合も、少年がまずもう一人のヒロインから付き合いを申し込まれ、もう片方のヒロインも別の男性(もう一人のヒロインの兄)から交際を申し込まれるが、それぞれ最終的にはその相手を振ってしまう。{/netabare}

・・・そして、ここが肝要なのですが、
{netabare}
(4) 本作も『true tears』も、主人公の少年は、地元の有名な祭りで伝統芸能の演者を任されており、本人もそれに誇りをもって熱心に練習に励んでいて、そのことが彼らがヒロインの少女のハートを射止める決め手となる。
(5) さらには、作品のクライマックス自体が、少年が大役を果たす祭りの当日に設定されている。{/netabare}

・・・私は、『true tears』の方も ★ 4.3 と、私個人としてはかなり高めの評価を与えていますが、同作と比較しても本作の出来の良さは明らかではないかと思います。
具体的に言うと、
{netabare}
<1> 『true tear』に出てきた少年に横恋慕する第三の少女(今川焼屋の愛ちゃん先輩)のような蛇足の設定がない。
<2> 同じく『true tears』に出てきた実の妹に偏った愛情を持つバイク野郎のイケメン兄貴のような変な設定がない。
<3> 『true tears』の幼馴染の少女の場合は、少年への執着心が行き過ぎて視聴者がちょっと引いてしまう描写があるが、本作のヒロインはそこまで我執が酷くなく、むしろ微笑ましく見える。{/netabare}

・・・ということで、相対的にみて本作の個人評価を『true tears』より上にすべき、とまず判断しました。


◆太宰好きの文学少年というダサイ設定が最後に活きてくるなんて・・・

あと、本作への個人的な注目ポイントとして、やはり主人公の少年の小説家志望があります。
ここで、本作の各話タイトルをチェックすると

◎各話タイトル出典
{netabare}
第1話 「春と修羅」       宮沢賢治(詩集)
第2話 「一握の砂」       石川啄木(詩集) 
第3話 「月に吠える」      萩原朔太郎(詩集)
第4話 「通り雨」         宮本百合子(中編小説?←未読の為不詳)
第5話 「こころ」         夏目漱石(中編小説)
第6話 「走れメロス」      太宰治(中編小説)
前半抄 「道程」         高村光太郎(詩集)
第7話 「惜しみなく愛は奪う」 有島武郎(評論集)
第8話 「ヰタ・セクスアリス」  森鴎外(短編小説)
第9話 「風立ちぬ」       堀辰雄(中編小説)
第10話 「斜陽」         太宰治(中編小説)
第11話 「学問のすすめ」   福沢諭吉(文学作品ではなく啓蒙本)
第12話 「それから」      夏目漱石(中編小説){/netabare}

このように、いずれも近代日本文学の有名作品なのですが、何か非常にダサくてセンスの悪いチョイスです笑。
これはあくまで個人意見ですが、明治以降の日本文学の最高傑作といえば

(1) 短編なら、森鴎外『文づかひ』 (※最高にロマンチック!)
(2) 長編なら、島崎藤村『夜明け前』(※最高にドラマチック!)

・・・なのにそれらを完全に抜かして、こんな太宰治とか宮沢賢治とか石川啄木とか、どうでもいい作家の作品ばっかり。
おまけに作中に時折入る主人公の少年の「心のつぶやき」が太宰治の小説からの引用ばかりで、ほんとにこの少年はダサイなあ、こんな奴が純文学なんか分かるわけないだろう(苦笑)。

・・・とそう思っていたら、第6話で{netabare}出版社の編集者がわざわざ少年に「君は純文学に全然向いてない。ラノベ作家目指してみたら?」とダメ出し{/netabare}していて、どうやらこのチョイス自体が少年の純文学への不向き加減を演出するネタなのかも?と気づきました。

で、結局少年は{netabare}その編集者の勧めに従って、少女との出来事を題材とした自作をネット投稿し、それが少女の引っ越しという大事な節目に彼女の目に触れることで、少年の本心も彼女に確り届いて{/netabare}・・・ということで、最初は陳腐にみえた少年の小説家志望という設定が、最終話まで来て確り回収されて、これはお世辞抜きに上手いシナリオだと思ってしまいました。

・・・ということで、本作のクライマックとなった川越祭の一件に加えて、この最終話の伏線回収が良かったことで、本作の個人評価を、『true tears』より2ランク上の ★★ 4.5 とすることにしました。

因みに、中学生の少年×少女の《青春&恋愛もの》だと、私の個人評価の一番高い作品は、『凪のあすから』(★★ 4.7 ※岡田磨理シナリオ、P.A.WORKS制作)となりますが、ファンタジー設定のない作品に限定すると、本作が最高評価になります。
それにしても、視聴前は思ってもみなかったほどの高評価になってしまいました。


◆視聴メモ
{netabare}
・第1話視聴終了時点
少年が古書店で買う本が太宰治『女生徒』って・・・何か微妙・・・笑。
・第2話視聴終了時点
主人公の少年が自分で思ってるほどには文学少年っぽくないのが残念な気がする。
この作者?は、文学少年イコール「純文学を読むことが好きで自分も小説家を目指している少年」、という解釈をしているっぽいけど・・・必ずしもそうじゃないんだよなぁ・・・。
・第3話視聴終了時点
少年が手水を作法通りちゃんと使っているシーンは◎
ここらは岸監督ならではの拘(こだわ)りかも。
・第6話視聴終了時点
出版社から「君は純文学に全然向いてない。ラノベ作家目指してみたら?」と強く勧められてて笑。
まあ、そうだよね、やっぱり。
・第8話視聴終了時点
川越祭をはじめとする地元の情緒が各所で描かれていて好感度は高い。
・第12話視聴終了時点
最終回のまとめ方はさすがに巧い。
とくに、ここでようやく少年の小説家志望という設定が活きてきた点は◎{/netabare}


◆制作情報
{netabare}
監督         岸誠二(※オリジナル作品)
シリーズ構成・脚本  柿原優子
キャラクターデザイン loundraw(原案)、森田和明
音楽         伊賀拓郎
アニメーション制作  feel.{/netabare}


◆各話タイトル&評価

★が多いほど個人的に高評価した回(最高で星3つ)
☆は並みの出来と感じた回
×は脚本に余り納得できなかった疑問回

====================== 月がきれい (2017年4-6月) ==================
{netabare}
第1話 春と修羅 ☆ 中学3年の始業式(クラス発表)、寝ぐせの少年、ファミレスでの鉢合わせ、LINE ID交換
第2話 一握の砂 ★ 体育祭(茜の落とし物、捜してくれた彼、LINEメッセ交換進展)
第3話 月に吠える ★★ 春期陸上競技会(茜の自己ベスト更新)、神頼みとお囃子稽古、交際申込 ※挿入歌「初恋」
第4話 通り雨 ★ 修学旅行(京都)、待ち合わせ、返事
第5話 こころ ★ つきあい始め、図書室と塾の一幕、古書店での逢引き・手の温もり、親友(千夏)の気持ち ※挿入歌「やさしい気持ち」
第6話 走れメロス ★ 出版社からの連絡、夏期陸上競技会(茜の成績不振)、出版社のダメ出し、千夏の告白宣言 ※挿入歌「3月9日」{/netabare}

前半抄 道程 ☆ ※第1-6話の総集編、新規シーンほぼ無く見なくてもよい回
{netabare}
第7話 惜しみなく愛は奪う ★★ 遊園地グループデート(安曇の彼女宣言、千夏&比良失恋) ※挿入歌「旅立ちの日に」
第8話 ヰタ・セクスアリス ★★ 注目の二人、夏休み、お囃子稽古見学、縁結び風鈴(川越氷川神社)・初キス ※挿入歌「夏祭り」
第9話 風立ちぬ ★ 秋学期(進学先の悩み)、茜一家引越し?、秋期陸上競技会 ※挿入歌「fragile」
第10話 斜陽 ★★ 10/20-21川越祭(山車)、比良の告白、安曇の独占欲と本気 ※挿入歌「未来へ」
第11話 学問のすすめ ★ X'masデート(手編マフラーとハンカチ)、推薦合格と受験勉強、家族の応援
第12話 それから ★★ 不合格(遠距離確定)、地元高合格・千夏の告白、卒業、茜の不安、引越し、ネット小説投稿と発見{/netabare} 
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★★★(神回)0、★★(優秀回)5、★(良回)6、☆(並回)2、×(疑問回)0 ※個人評価 ★★ 4.5

OP 「イマココ」
ED 「月がきれい」

投稿 : 2019/03/26
閲覧 : 780
サンキュー:

36

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