World さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
キャラクターに命を吹き込む
「クラナドは人生」という言葉は、よく目にしていました。
素晴らしい作品だということを揶揄した言葉だと思っていましたが、なるほど。正しくその通りですね。
誰しも、自分自身が人生の主人公です。
「自分」から見た他人は、あくまでもその人の一部分でしかなく、その人自身にとっても、主人公は自分であり、人それぞれのストーリーがあります。
そして、その一部分が重なりあって、また新たなストーリーが作られていきます。
そんな、人と人同士の、複雑で繊細で、でも所々大雑把な関係性を描き出した作品です。
まさしく、人そのものを描いた作品です。
素晴らしいです。
この作品のキャラクターのアイデンティティは、正しく自分自身の人生そのものです。
現実の人間と同じです。
どんな親の元、どのような愛や教育を受け、何を選択して生きてきたのか。
自らの生い立ちによって、この作品のキャラクターの人格は形成されています。
そして、それは一人一人違うものです。
それによって、そのキャラクターたるものが確立されています。
つまりは、まるで実在するかの様に感じることが出来るということです。
なので、キャラクターに共感するという次元ではなく、その人物自体に心から共感する事ができます。
笑っていたら、嬉しい。泣いていたら、悲しい。いじいじしていたら、ムカつく。自分を見失っていたら、頑張れ。と思う事が出来る数少ないキャラクター達です。
ですので、キャラクターが、自らの感性で動き、物語が進んでいきます。
最早それは筋書きではなく、キャラクター一人一人の人生の一部分がこの作品の物語です。
良い悪いの観点では捉えることは出来ません。
どの様な展開も、キャラクター一人一人の選択によってなされているからです。
良い悪いではないのです。そうか、そうなったか。なのです。
そんなキャラクター達を形成する為に、序盤から終盤手前までは、短編集の様な形で進んでいきます。
なので、正直見ていて少し退屈でした。
これといったエピソードはありません。
ですが、その短編一つ一つに、伏線ともわからないほどの細かな物語のピースが散りばめられていて、気付けば入り込んでいます。
伏線だとわからない。つまりは、無意識の内に情報が頭に入っていて、それがいつの間にか勝手に作用するということです。
社会的動物である人間の、素晴らしい部分のみを描き出した、名作です。