キャポックちゃん さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
島田満の遺作
名脚本家・島田満(みちる)の遺作となった作品である。
島田は、80年代に人気アニメの脚本を次々と執筆したことで知られる。私も、心惹かれたエピソードのクレジットに、伊藤和典や金春智子らと並んで島田満の名が頻繁に現れることに気づき、脚本家の重要性を認識するきっかけとなった(当時はミツルという男だと思っていた)。特に好きなのが、『うる星やつら』の第119話「かがやけ! あこがれのブラ!!」や第145話「キツネのかた想い 恋すれどせつなく…」で、繰り返し何度も見た(純情キツネがカワイイ!)。『魔法の天使クリィミーマミ』の第37話「マリアンの瞳」、『ダーティペア』の第23話「不安だわ…!? うちらの華麗なる報復」も面白い。
島田脚本の最高傑作は、1995年に『世界名作劇場』の枠で放送された『ロミオの青い空』(全話の脚本を執筆)だろう。登場人物の人間性をくっきりと浮き彫りにしており、教条的な原作小説より格段に優れている。中でも、副主人公のアルフレドは、原作と大幅に異なる知的で高潔なキャラに変更され、見る者に鮮烈な印象を残した。
その後は、『るろうに剣心』『金田一少年の事件簿』『ワンピース』などで健筆を振るったようだが、私はあまり見ていない。唯一興味を持ったのが、シリーズ構成も担当した『ななついろ★ドロップス』(2007年)。18禁エロゲーを、気恥ずかしくなるほどの純愛物語に作り替えるという大技を見せた。10年代に入ってからは、(『リトルバスターズ!』(2012年)が楽しめなかったせいもあって)あまり注目していなかったが、最後に素敵なアニメを遺してくれた。それが、魔法学校に集う少女たちを描いた『リトルウィッチアカデミア』である(シリーズ構成を担当)。
この作品は、若手アニメーター育成のためのプロジェクト「アニメミライ2013」に出品された短編(未見)に始まるシリーズの一編。短編が好評を得たことから、クラウドファンディングで資金を調達して劇場版『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』(2015年)が制作され、さらに、2017年にテレビアニメが放送された。島田は劇場版から参加。劇場版も悪くないが、何といってテレビ版が秀逸である。
『ハリー・ポッター』シリーズが爆発的な人気を呼んだこともあって、日本のサブカル作品でも、「魔法学校」という設定が頻繁に使われる。ただし、私の見る限り、成功と言える作例は少ない(『ハリー・ポッター』の映画化作品も、私は全く評価していない)。そもそも、魔法という反則的な技を使うからには、それに見合うだけのストーリーの論理性・整合性が必要なのに、そこまで気を配った脚本が見当たらないのだ。『魔法少女まどか☆マギカ』『空の境界』では、魔法が持つ潜在的な脅威や、それに伴う精神的負担に目が向けられた。だが、(魔法を容認する社会体制を暗黙の前提とせざるを得ない)魔法学校を舞台にする場合、作中で魔法をどう位置づければ良いのか? 並の作者は、魔法を「便利な裏技」として描くことしかできない。
テレビ版『リトルウィッチアカデミア』で、島田は、善と悪の闘いとか家族の愛といった薄っぺらなテーマに逃げることはしない。彼女が描いたのは、魔法がもたらす「人生のアイロニー」である。夢を与えてくれるものが夢を奪い、最も敬愛する人が自分を最も傷つける。そんな事実を突きつけられて、なお前向きに生きるためには、何が必要なのか。すべてを鮮やかに解決してくれる“魔法”があるわけではない。心温まる展開でありながら、どこかほろ苦さを残す物語は、子供よりも、むしろ大人の心に染みる。
2017年に島田が58歳の若さで急逝した後、多くの人が追悼文を著したが、中でも、映画監督・金子修介の文章に泣きそうになった(『金子修介の雑記 "Essay"』2017年12月17日|livedoor Blog)。一緒に食事をしたとき、どちらもSF好きで「夏への扉」の話で盛り上がったといった些細な思い出の端々に、島田の生き生きした面影が浮かび上がる。映像化されなかった作品も多いようで、中でも、島田満、伊藤和典、じんのひろあきという超豪華脚本陣によるオムニバス映画『ウルトラQ ザ・ムービー』では、夢と夢が合成する「夢中デ眠ル」という怪獣の出ないエピソードを書いてもらったという。この企画が実現されなかったことは、何とも恨めしい。