たばこ さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
緻密に作りこまれた良作 (7/8 追記)
物語
文句なしの5点。本作は大別して3つのテーマで語ることができる。
1)クオリア・人間の自意識
2)マスメディアやインターネットを含めた「情報化社会」
3)政治におけるパワーゲーム
これら3つのテーマが「笑い男」というひとつの事件を軸に緻密なプロットで語られ、かつ、アクションを多用することで視聴者に飽きさせない工夫も凝らされている。
特に、1)のクオリアや人間の自意識に関するテーマに関しては、われわれに根源的な問いを投げかける。それは、
「自意識を特定する、われわれの身体、あるいは記憶、感覚などを、外在させたとき、果たして何が「人間 vs その他」を分かつ境界となるのだろうか。」
である。分かりやすい例が、人間 vs 機械の2項対立である。具体的には、主人公の素子 vs 戦闘機械タチコマ、の対立。まず、素子は、脳および、脳基幹のみを残し、すべてが義体によって構成される存在であり、自意識を特定する唯一の確かな手がかりは「左手の時計」のみである。実際、素子が人間らしさを見せることはほとんどなく、まるで、任務遂行のみのために作られた無感情なサイボーグかのような振る舞いをする。彼女は人間の強固な自意識が極限まで薄められた存在として描かれる。
一方、タチコマはその対極に位置し、極限まで人間に近づいた機械として描写される。本来、喜怒哀楽の感情を持たないはずの彼らは、実に人間らしい言動や振る舞いをする。とりわけ、バトーを救うために自爆を試みる終盤のシーンが象徴的である。機械であるはずの彼らが、自らの意思でバトーを救うために立ち上がる決断をし、彼を救うため自爆する。そして自爆の直前に、彼(ら)は「涙」を流す。つまり、彼らは、自己犠牲を(命令されずに)選ぶことができる自我・自意識を獲得したのである。
このように、限りなく人間らしい機械であるタチコマが、素子にとっては、自己のアイデンティティーを揺るがす存在として看過できなかったのであろう。(だからこそ、彼らを解雇し、ラボ送りにした)。
こうしたテーマからは、単にいちアニメとしては看過できない深遠な問いかけを視聴者に投げかける。
音楽
わざわざ特筆する必要も無いのかもしれないが、こちらも文句なしの5点満点。
(2012/2/22)
●レビュー紹介(2012/7/8追記)
攻殻って作品はほんとにヘビーなファンが多くて、かつ、解説なんかもネットを探せばそこらじゅうに転がっているから、もう「しゃぶりつくされた感」が半端じゃないんだけど、そういう中でも結構光るレビューがあったりする。
まずはこれ。
ワタ氏「スタンド・アローン・コンプレックス」
http://www.anikore.jp/review/236293
スタンド・アローン・コンプレックスってのは、中々ピンと来ない概念というか現象というか、なので、攻殻を見た人でも実は意外と良くわかっていなかったりするんだけど、このレビューではこの現象を分かり易く説明している。特に、ちょっと前に流行ったタイガーマスク現象を事例にひっぱってくるあたり、その意味をちゃんと咀嚼できていないとこういう例えは中々出てこない。
もうひとつは、これ。
SIN1026氏「Stand Alone Complex」
http://www.anikore.jp/review/178953
まだ本人に転載の了承を得ていないけどw
これは攻殻の「クオリア」を中心にレビューしていて、人間の個がいったい何なのか、どういう風に攻殻の中で扱われているのかを、いくつかの疑問を提示することで考察している。
特に、
「少佐はなぜ女性型の義体なのか?」
っていう疑問を投げかけていて、これも良く考えてみると面白い。いや、もちろん、少佐は義体化前は女だったから、女性型の義体なんだというのは簡単だけど、実はそんなに当たり前のことじゃなかったりする。
例えば、バトーのようなガチムチの筋肉をまとった義体でもよかったはずだ。というか、公安9課という職業柄むしろそちらのほうが理に適ってさえいる。しかし、少佐はそうはしなかった。女の義体という不合理な選択肢を敢えて選んだ。なぜか。
ここら辺を考えていくと、例えば映画版の結末ともなんとなく繋がってくることがわかる。答えは無いんで、各自が結論を出すしかないんだけど、おそらく、
●自意識を特定する、強力な手がかりの一つに「性差」がある
ってことなんだろうな、と。
ま、いずれにせよ、両レビューとも一読をすすめる。