World さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
少年時代の思い出。
幼少の頃、自分がこの世界の全てだった。
ブラウン管を通せば、何者にもなれた。
世界は素晴らしいものだと、当然のように信じていた。
素晴らしい未来が待っているんだと、夢や希望に胸が一杯だった。
だが、実際には。
細かな歯車が無数に連立していて、想像の何倍も世界は複雑で、それほど面白くないものだった。
遠くから見た夜景が美しいように、身近に感じれば感じるほど、幼少の頃のピュアなフィルターを介して見ていた景色との解離に、つい霹靂としてしまう。
歯車になりたくないともがけばもがくほど傷付き、諦めてその一部となろうと努力すれば、余計に磨り減っていく。
つい、あの頃は良かったな。と考えてしまう。
そんなノスタルジーが、この作品にはある。
この作品は、ノスタルジーを美徳として認めている反面、そこに固執してしまった場合の末路を暗に提示している。
何故なら、過去は字の如く過ぎ去ったもの。求めてはいけないものだからだ。
思い出は、二度と手に入らないからこそ、美しく感じるのだ。
求めれば、いずれ気付いてしまう。変わったのは世界ではなく、自分なのだという事に。
だからこの作品のノスタルジーを感じさせるシーンでは、それに伴う色合いや音楽等の全てが、暖かい印象を与える反面、どこか寂しい、儚い雰囲気を感じさせる。
未来と過去の狭間で、作品内の人々の心情は揺れ動く。
その過程で、何故「昭和」は素晴らしかったのか、それでも何故未来に生きようと思うのかを、私たちに教えてくれる。
もっといえば、何故思い出は美しいのか。
何故未来へと進んでいかなければならないのかを、教えてくれる。
子供の頃、見て泣いた。
大人になった今、見てまた泣けた。
素晴らしい作品です。