「少女☆歌劇 レヴュースタァライト(TVアニメ動画)」

総合得点
72.2
感想・評価
272
棚に入れた
976
ランキング
1189
★★★★☆ 3.7 (272)
物語
3.5
作画
4.0
声優
3.3
音楽
3.8
キャラ
3.7

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 3.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

舞台少女の寓意

 夕暮れ時。学園に隠されたエレベータの扉が開く。エレベータに乗り降下すると秘密の地下劇場が姿を現す。そこでは聖翔音楽学園・俳優育成科99期生の9人が剣劇を繰り広げている。勝者には「トップスタァ」への道が開かれるというオーディション。主催者と思しき、言葉を喋るキリン。華麗に舞う少女たち。秘密裏に行われる意味深で謎めいた舞台は作画・演出ともにクオリティが極めて高く、観客である私たち視聴者を非現実の世界に心地よく誘います。テレビでアニメを見ている時間を、贅沢なひとときに感じられるほどに。

 「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」はアニメやゲームに先駆けてミュージカルが上演され、舞台を演じる俳優がそのままアニメの声優を担当するという新しいタイプのメディアミックス作品です。そこから連想される商業的なアイドル系萌えアニメかと思いきや、意外にも尖っていて芸術点の高いアニメに仕上がっており、大変気に入りました。とても優れたエンタメなのでジャンル的に毛嫌いしている方も騙されたと思って見てください。

 舞台の持つ華やかさと不可侵性。とりわけレビューシーンの表現力は素晴らしく、キャラクターや舞台装置を自在に動かせる、アニメーションでこそ可能な演出とアクションを存分に味わうことができます。ただ残念なのは、キャストは舞台公演も行うという制約から声優としての経験値が低いメンバーが多く、純粋な声の演技力ではやや厳しく感じてしまう場面もあることでしょうか。


 さて、そろそろ本題に入ります。本作のシナリオについて、よく意味が分からずモヤモヤしている方が多いのではないしょうか。わかります。

レビューとは一体何なのか?
大場ななの願望は何を意味するのか?
キリンの正体は?
アタシ再生産ってどういうこと?
そして最終回はどう解釈すれば良いのか?

 ただの雰囲気アニメと高を括ることなかれ。その問いに全て答えてみせましょう。

{netabare}
 謎のオーディションについて、キリンは舞台少女たちが己の「キラめき」を賭けて戦い、奪い合うものだと言います。最終的にすべてのキラめきは唯一人の勝者が手にし、敗れた者は喪失すると。なにやら物騒な設定に感じられますが、よくよく考えるとこれは現実と何ら変わりない。

 役者の世界でスター性のある者は舞台にしても映画にしてもアニメにしても、主役級を演じることが多い。その一方で、大多数の者は台詞がほとんどない脇役に甘んじている。それどころか仕事をもらえずバイトで食いつなぐ人も大勢いるでしょう。人気や実力のある者が主役の座を射止め、スターとして輝く。その周りにいる2等星や3等星は注目してもらえない。舞台でスポットライトを浴びるためには虎視眈々と主役の座を狙い、スターから今のポジションを奪い取らなくてはいけない。当然狙われる側にも矜持があり、主役の椅子をそうそう簡単には明け渡してはくれない。プロの役者になれば、そんな厳しい世界が待っているのです。

 今は学園の中でも寮でも仲睦まじく生活している99期生の9人も、卒業してプロになればライバルとして少ない椅子を巡って争う運命にあります。舞台少女を目指して養成学校に入っている以上、当然彼女たちも意識はしているはずです。地下劇場で行われるレビューは彼女たちを待ち受けている未来であり、将来への不安を映し出したファンタズムともいえます。

 舞台少女の一人、大場ななはまさにその不安感に捉われて身動きが取れなくなった人物です。彼女はオーディションの勝者となるが、合格者に与えられる特権を使って思い出の99回聖翔祭の「スタァライト」を幾度となく繰り返してしまう。このうる星やつら2ビューティフルドリーマーを彷彿させるループ展開は、鋭い所を突いている。俳優に限らず人気のある花形職業は競争率が高く、成功し夢を実現するのはほんの一握り。大抵は己の才能の限界、現実とのギャップ等に打ちのめされて業界を去っていく。バナナが99回聖翔祭をループさせるきっかけとなったのも同級生が2人退学したことでした。失意の中、舞台少女の夢を諦めてしまう仲間は間違いなく増えていく。世の中で取り上げられるのは成功者ばかりですが、実のところ多くの人にとってプロとアマチュアのあわいの時 ― 夢を目指す仲間達と青春を過ごしていた頃こそが最も楽しく、輝いていてる時間なのです。わかります。

 本作のストーリーの中核にあるのは「競争原理」です。芸能やスポーツなど実力がものを言う世界では高みをめざす競争があってこそ業界のレベルは維持される。アマチュアと大差ないものを見せたところで、観客はお金を出してくれないでしょう。競争原理は物語の最後まで貫かれる。成長のない繰り返しを望んだバナナはひかりに敗れ去り、オーディションに合格しながら「華恋のキラめきは奪えない」とトップスタァの座を放棄したひかりは不毛なレビューを一人で演じ続けることになった。最終回、ひかりは意を決し、華恋とレビュー(決闘)を行い最後のキラめきを奪い合う。本作はオーディション、すなわち競争原理を肯定する形で終わります。否定するはずがないのです。なぜなら、舞台少女を演じる中の人、声優こそが、激しい競争の世界に身を置く者だからです。

 ひかりと華恋が最終章「星罪のレビュー」を演じている間、キリンは突然こちら側を向いて語り始めます。自分は舞台を愛する観客にして運命の舞台の主催者であり、今舞台少女を見守る私たちと一緒に彼女たちの煌めきを見たいのだと。この発言の意味するところはひとつ。すでにご指摘している方がいる通りキリンは古川監督ご自身、そうとしか考えられません。そしてこの作品が「舞台少女=声優」であり「キリン=監督」というメタフィクションの構図になっているということです。

 大塚明夫さんの著書「声優魂」には声優業界がいかに厳しくて食えない業界か書かれています。氏は「声優になるのだけはやめておけ」と口酸っぱく語っています。仕事の量に対して過剰すぎる声優志望者がいるため異常な競争率になっており、憧れだけで目指すのは絶対にやめろ、と。ご存知の方が多いとお思いますが、たとえ人気声優であっても仕事が勝手にやってくるわけではなく自ら足を運び、オーディションを受けて合格しなければ役を演じることはできません。そもそも所属事務所のメンバーの中から選抜されなければオーディションすら受けられない。まさにキラめきを奪い合う世界です。

 ひかりと華恋は剣を取り戦うことを選ぶ。競い合わなければ観客を魅了するキラめきは生まれない。舞台少女、もとい声優は華やかなの舞台の裏で、何度もオーディションを受けては落選し挫折を味わっている。声優を続けられるのはチャンスのたびに「何度でも燃え上がって生まれ変わる者」だけなのでしょう。たとえば準ヒロインのひかりを演じた三森すずこさんは元々は宝塚を目指していたが落選した経歴がある。そのキラめきを失ったところから舞台女優を経て、今は声優として活躍しているのはご存知の通り。まさしく「アタシ再生産!!」でしょうか。

――スタァライト。それは熾烈な競争の世界で生きる声優たちを称えるメタフィクションの物語。

わかります。
{/netabare}

投稿 : 2018/11/17
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