Progress さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
人生の辛酸
水曜どうでしょう感ね・・・
映像化の流れとしては、「茄子 アンダルシアの夏」の続編となる本作。
本作のテーマは前作のような青春や故郷への郷愁溢れたものではなく、
苦味や酸味のあるコーヒーのような作品。
レースはいつも辛い。マルコ・ロンダニーニはジャン・ルイージ・チョッチへそんな言葉を掛けました。
マルコがなぜ自殺を選んだのか、それはわかりません。
この作品内ではその理由にはっきりと触れるシーンはありません。
マルコ、なぜ、は必要ではありません。チョッチがマルコの死に対してどう向き合うかです。
次のチームと契約が見えず、先の見えない不安。親の誘いに乗ってしまいそうな、金のために辞めてしまいそうな自分に対しての苛立ち、才能への諦め。マルコの死の理由をどこかチョッチの苦しみの中に探してしまう自分がいます。
日々重なっていく生きることで生まれる苦しみとチョッチが向き合うのを見て、
チョッチの味わった苦味や酸味を感じるかもしれませんね。それを深みというのなら、コーヒーとにているかもしれません。
以下、雑感です。
アンダルシアの夏に比べて、かなり描写がクッキリスッキリしている印象を受けます。
北海道テレビの人とか出ていますが、主役の大泉洋さん出演する「水曜どうでしょう」という番組の関係者です(笑)
舞台が日本で非常に紅葉や天気の描写が美しいです。
前作の名言をいくつか取り込んでいるので、前作を見ないとそのシーンの意味がわかりづらいですね。
ペペがどこにいったって?ちゃんといます。ロードレース描写は前回に負けていないと思います。
特に導入のロードレースはかなりアニメーション的な楽しさを感じられます。
前作を見てからの視聴をオススメします。
【追記】
・ザンコーニについて
途中棄権したあの勝利について。
「今回の勝利は、マルコ・ロンダリーニに捧ぐ、お前ならそういうと思ったんだがな」
これはペペがチョッチにレース後に言った言葉です。
チョッチが以前の心境ならそんな事もいったかもしれません。チョッチの心境の変化は後述します。
ザンコーニがあの勝利を、マルコに捧げたのでしょうか
レース前に千手観音像に赴き、人生の重荷を降りたいと願ったのでしょうか。
人生の重荷を降ろしたマルコと、レースの重荷をおろしたザンコーニ。
それがザンコーニがマルコの理解者であることを天国のマルコへ伝えるためか、それともマルコへの叱責なのか、定かではありませんね。
・チョッチの変化について
チョッチはマルコが「レースはいつもつらい」と言っていたことに、自分との回答が違ったことに、住む世界が違うんだと、自らを腐していました。
(マルコの葬儀に参列しなかったのは、それが理由なのでしょう)
自分が辛い方向でなく、レーサーを辞めるという楽な方向に流れることに、苛立ちを感じていたチョッチ。そんな自分とはマルコやザンコーニを比較してますます腐る。
レース後、チョッチとマルコは千手観音像を見に行きます。
「人の一生は重荷を負うて長き道を行くが如しだ、お前さんたちの仕事とそのものだな」
という和尚の言葉に対し、チョッチは
「いや、人生は楽しく幸せであるべきだ」
と返しました。
マルコがレース(つまり人生)を「(重荷により)いつも辛い」といっていたのに対し、チョッチはいつもトップを走るマルコへの羨望を捨て、この答えを導き出したのかもしれませんね。
レースとは、楽しく幸せであるべきだ、そうチョッチが改めたなら、マルコとの人としての境界を引き、自分というものを見つけたのかもしれません。
・最後に
ザンコーニがマルコを理解させるための代弁者だったと考えてみます。
人生は辛いものだ、ドロップアウトするものだ、とレースでマルコの悲劇を体現した姿を比較対象とし、
レースを走りきったチョッチは人生は楽しく幸せなものだと言う。
生きていれば、レースを続ければ、楽しいことだってあると、それを見つけたチョッチだからこそ言える答えだと感じます。
これこそ、生の肯定、悲劇ではなく、喜劇でしょうね。