cabinmild さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 3.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
名作。ただし、見るのに覚悟は必要。
小説原作、略称「銀英伝」。宇宙を舞台に繰り広げられるヤンとラインハルトという2大傑物の英雄譚として描かれていますが、その実政治(思想)シミュレーションとしての側面が強いです。
2018年春に公開されたリメイク版は、リメイクなりの良さもありますが、現段階では本当に触りの部分しか描かれていませんので、そちらで興味を持ったら本作に手を伸ばしてみるのもアリかと思います。
娯楽の域を超えて、政治哲学的な様々な問いを投げかけてきます。999とかと違ってストーリーが110話通して地続きであるため、頭でしっかりと追いかけていかないと物語に取り残されます。気軽には見られません(笑)
しかし観終わった後の感慨はひとしお。頭を使う物語だけあり達成感すら覚える心地よい余韻は、他の作品に類を見ない域に達しています。逆に言えば、流して見てしまうとそれほど楽しめない類の作品。冗長でくたびれただけだったという感想に辿り着くことは想像に難くありません。タイトルに「覚悟」という強い言葉も用いたのもそれが理由です。冗談抜きで山に挑むが如くの意識で視聴されることをオススメしますし、その気概に応えてくれる作品です。
一大叙事詩として様々なテーマが内包されていますが、全編を通して言わんとするところは「一つの正義に対して、逆の方向に同じだけの質と量を持った正義(アンチテーゼ)が必ず存在する」ということではないでしょうか。54話にて、ラインハルトとの問答の中でヤンの発した台詞です。当たり前のようでいて、それがつい忘れさられてしまいがちであることは、本作がくどいほど示してくれます。徹底しているのは、その考えについてさえヤンは自ら「私がそう思っているだけで、信念というほどのことではありません。あるいは宇宙には、唯一無二の真理が存在し、それを解明する方程式があるとも思います」と述べることです。
その証左とも言えますが、本作にはほぼ“悪役”が登場しません。一部心を壊した人間は登場しますが、それを除けば各登場人物の思想と行動原理が明確です。その気になれば全ての人物サイドに立って物事を考えられる構図となっています。故に「シミュレーション」。例として、 {netabare} 劇中最も暗躍したであろうルビンスキーも「権力に縛られることを良しとせず、自由を愛した商人」と捉えれば理解できる部分があります。 {/netabare} 地球教は「自己回転を始め独り歩きし始めた集合体」であり、記号としての側面が強く役ではありません。
劇中、完全悪として描かれたのはトリューニヒトただ一人くらいのものだと思いますが、 {netabare} 最終的に彼の政治構想が、主人公サイドと同じものに帰着したことは、 {/netabare} 正義に対する痛烈な皮肉ととれ、初見で主人公サイドの立場であれこれ考えを巡らせてきた身からは、思わず苦笑いがこぼれました。
骨太なテーマもさることながら、各キャラクターもいちいち格好いいです。軽快で優雅な台詞回しが徹底されているので全キャラクター魅力的な部分はあるのですが、個人的なお気に入りはシェーンコップとポプランです。(リメイク版でもシェーンコップだけはこっちに寄せてほしかったなぁ…)
そんなわけで、重厚で優雅な本作、気軽にオススメというわけにはいきませんが、その分上質な時間を提供してくれるポテンシャルを持っています。その可能性を生かせるかどうかは観る者次第で、覚悟を持って鑑賞に臨むことが、本作を堪能する“コツ”だと思います。