ostrich さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
小さいが確実な上昇
本当に久しぶりに特定の監督にハマった。山田尚子監督だ。
監督作品を一通り鑑賞して確信したのは、彼女はたぶん、名前で客を呼べる監督になる、ということだ。
もちろん、現時点でもアニメファンや映画ファンの間ではそういう位置を得ていると思うのだけど、それ以上の存在、たとえば、宮崎駿のように誰もが知っている存在になると確信した。
本作は監督作品巡りの終りに鑑賞した。
鑑賞前の時点で上記の個人的な前提が出来上がっていたので、本作は山田監督が大作家になる過程の作品に見えた。それに伴って、評価も彼女の作家的成長が主軸になった。
おそらく、本作で山田監督が挑戦したのは「家族」と「社会」を描くことだったと思う。この二つは「けいおん」でほとんど描かれていない要素で、だからこそ、登場人物たちの関係性が純化され、ヒットの要因にもなったと思うのだが、そこに留まることはある種の不健全さも伴う。
実際に我々が生きているのは学校や部活を含んだ「社会」であり、「けいおん」で端折られた部分の比重はとても大きいはずだからだ。
だから、本作の挑戦は非常に真っ当、かつ、前向きだと感じた。
ただ、手法として「けいおん」の延長線上だったため、「社会」つまり本作における商店街の「けいおん化(ユートピア化)」で終わってしまった感は否めない。
もちろん、それが悪いとは言わない。いや、それどころか、私は「けいおん」も本作も好きなのだけど、この時点ではここまでが限界だったのかな、と思ったということだ。
その後の山田監督は確実に描く範囲が広げていて、今はユートピアではない世界も描いている。これからも作家的成長を続けるだろう。
その成長曲線で言うならば、本作は幅は小さいが確実な上昇という感触を持った。
それにしても、次作が楽しみな監督を発見するのは本当に嬉しい。