たわし(爆豪) さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
内面宇宙SFの佳作
原作は日本SF大賞を受賞したようですが、残念ながら読んでません(笑)
SFには大きく分けて科学的に綿密な考証で現実味のある設定を辿る「外宇宙」と、人間の精神的な世界感の謎に踏み込む「内面宇宙」を示すものがある。
「ペンギンハイウェイ」は間違いなく後者のSFであり、旧ソ連SF映画「惑星ソラリス」や「コングレス未来学会議」などのスタニスワフ・レムの小説や「クラッシュ」「結晶世界」などのジェームズ・グレアム・バラードのSF小説の世界観に類似している。
中でも、設定や画面構造が「惑星ソラリス」「ストーカー」でお馴染みアンドレイタルコフスキーの映画そっくりに作ってあり明らかに影響されているのと、世界観はバラードの「結晶世界」、シュルレアリズム絵画の引用などスノッブの効いた映像はあからさまである。
作画には正直粗が見えるとこもあるが、この作品をわずか30歳という若さで監督した石田さんは非常に頭が良いエリート主義的な人間だと思う。
何よりも映像の引用がわかる人間にはわかるように説明なしに配置するところに作家として映画監督としての力量があり、詩的で叙情的な世界観は非常に見応えのある映像表現だった。おそらく、その若さと力量で言ったら、細田監督や新海監督を上回ることができており、この人が一番ポスト宮崎駿に近い。
他の監督と違いきちんと脚本を絵に落とし込むことができているだけでなく、わかりにくい世界感を無理なく表現できている。これは対した腕前だ。
映画としては最近のネットフリックスで公開したナタリー・ポートマン主演のSF映画「アナイアレーション(絶対領域)」にかなり酷似しているが、あちらが大人向けにハードな脚本に寄せているが、「ペンギンハイウェイ」は日本人が親しみやすいように少年とひとりの女性の出会いを通じたジュブナイルになっている。どちらが好みかは人によって違ってくるだろうが、原作を含めて旧共産圏のSF作品が今の時代にここまで映像化されるのも非常に珍しいものだ。
この夏観たアニメの中では一番面白かったし、おすすめの一本である。