「大人のためのグリム童話 手をなくした少女(アニメ映画)」

総合得点
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感想・評価
7
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ランキング
7909
★★★★★ 4.4 (7)
物語
4.5
作画
4.4
声優
4.4
音楽
4.4
キャラ
4.3

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けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

【エロありグロあり】物語、映像、音楽、何もかもが規格外でここ10年で観た映画の中で一番ショッキング【スカトロあり】

原作はグリム童話ですがグロテスクな描写があるため非常に大人向けな一作と言えます


とある山奥に住む木こりの男が突如現れた悪魔から契約を迫られる
「家の裏の林檎の木をよこせば黄金を与えよう」
男はあまりの好条件に契約を交わしてしまう
しかし、林檎の木の上には木こりの一人娘である少女が木登りをしている真っ最中であったのだ…
木こりの家の水車から耐えることない黄金が噴き出し始めた
だが、大変な契約をしてしまったことに気付いた木こりとその妻だったが悪魔は早速少女をさらいに来る
しかし純潔な少女に悪魔は近づけなかった
悪魔は少女を穢れさせる為に孤立させ、少女の助けをしようとする妻をも残忍な方法で殺す
やがて体が穢れきった少女だったが目の前で母親を殺された悲しみのあまり流した涙で手だけは洗われていた
「手だけが穢れていない!」と悪魔は木こりに少女の手を斧で切り落とすよう命じる
悪魔に付きまとわれる事に疲れきっていた木こりは遂に愛娘であるはずの少女の両手に斧を振りかざした!
…悪魔にも悪魔に取り憑かれた父親にもうんざりしていた少女は両手を亡くしてもまだ生きることを諦めていなかった
悪魔から逃れるため、両手の無い少女は父親を置き去りにして一人逃避行へと旅立つのだった…


フランスのアニメ作家、セバスチャン・ローデンバック監督は故・高畑勲監督の『かぐや姫の物語』の筆作画の美しさに感銘を受け、この『手をなくした少女』をなんとかして筆作画アニメ映画として作ろうと数年前から準備していたそうです


が、『かぐや姫の物語』がそうである様に、この手法は金と時間と人材だけをとにかく消費するウルトラスーパービックバジェットだけに許された手法なので、当然フランスのこじんまりとしたアニメタの手に負えるものではありませんでした


それでも諦め切れなかったローデンバック監督は数年の試行錯誤の末にたった一人で長篇アニメ映画を作る脅威の方法を思い付く
ラフな筆作画の原画を清書しない、中割も入れない、という誰がどうみても【未完成映像】でしかない今作の映像に“クリプトキノグラフィー”という手法だ、と実にそれらしい名前を付けて今作を発表したのです


ぶっちゃけラフ過ぎて人物がタダのシルエットか棒人間か何かのように描かれているカットが大半を占めており、その反面やたら気合をいれて表情が描き込まれたカットが混在してたり、と果たしてこんなことが長篇アニメで許されるのか…とあっけにとられてしまいました
そもそも中割が入ってないカットが多すぎるので、キャラが動くとキャラが明滅してしまい、回線障害を起こしたオンラインゲームの様で人によってはかなり観ることに苦行を強いる作品とも言えます


オイラは「作画崩壊」という言葉とそれを安易に使う人が大っ嫌いなのですが、何かに付けては作画崩壊と声高に叫ぶ人からすればこの映画の映像はもはや作画と呼べるものですらないといったところでしょう


しかし実に面白いことに、この抽象的な“未完成映像”に音楽や台詞を足しただけで人間の想像力は「これは立派な映画だ」と脳内で補完してしまうんです
これには監督自身が一番驚かれていたよう


「アニメとは詰まるところ絵だ」と、誰かが言っていましたがオイラも同意権です
しかしながら今作にはその絵が無いんです!
なのにアニメ映画として成立している、実に面白い矛盾が発生しています


この映画に飽きることなく最後まで付き合える理由はその物語性にもあります


少女に襲い掛かる辛すぎる不幸の連続
決起し、旅に出る少女の冒険
そして襲い来る悪魔の罠をかわしての大・大・大逆転劇
こんなにカタルシスに溢れた作品も中々ありません
クライマックスは必見です


また、これほど作画に手を抜きまくった作品にも関わらず、やたらめったには描写しないエグいカットが今作の中では普通に何度も出てくるのが不思議でもあります
無残に殺害される母親
少女の両手の切断
少女が糞尿を堂々と排泄する
少女のSEX
少女の出産
手の無い少女が這い蹲る様に生活する様子
などなど、とにかくちょっと目を背けたくなる様なカットの多いこと多いこと(笑)
監督は間違いなく【ド変態】ですね
これでいて監督は今作を「子供に向けて作った」と言い放ったのですから正気を疑いましたw
少女の声を演じたアナイス・ドゥムースティエの芝居の迫真さとも相まって(色んな意味で)凄い作品に仕上がったと思います


さらに今作を際立たせているのはやはり音楽の力の偉大さです
それも壮大なエピックとかではなく、まさかの“エモコア”です
暗い内容の作品なのでコレが不思議とマッチしてるんですわ
思わず最初の5秒で鳥肌が立ちましたね
エンドロールで流れる主題歌も良い意味で意味不明過ぎてこの映画のショッキングさに拍車をかけてます


普段オイラが紹介するアニメ映画を一流シェフの手による高級料理のフルコースと例えるならば、今作は間違いなくどこか知らない国の知らない民族が精一杯のもてなしとして用意した全く見たことも聞いたこともないゲテモノ料理と例えることが出来るでしょう
ですがものは試し、騙されたと思って是非口にしてみてください
映画の食わず嫌いは一番良くないことだと思うのがオイラです
まあ兎にも角にも、驚いて欲しい、というのが本心です


ちなみに今作の内容、原作に準拠した構成になってはいるものの、ラストシーンだけは今作オリジナルだそうです
原作だとそのまま家族と一緒に城に帰るところを、少女を現代的な女性像に解釈し直されてあんな終わり方になったそうですよ

投稿 : 2018/10/03
閲覧 : 517
サンキュー:

8

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