ぺー さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
そのフラグ 折らせてください 心から
原作既読
良い。すごく良い。
2クール分の全22話。
原作単行本11巻分をアニメでは22話でと過不足ない尺、原作の再現度合いは高めです。控えめにいって傑作です。
「泣ける」「切ない」との誉れ高い本作です。私もしっかりと掌の上で踊ることができました。そもそも音楽を取り扱ったものは好物なのです。
母親の死をきっかけにピアノを弾けなくなった元天才ピアニストの主人公有馬公生がヴァイオリニスト宮園かをりとの出会いを機に再生していく物語。
その公生とかをりに幼馴染の澤部椿と渡亮太が絡んでの4人組の恋模様も見逃せません。
青春+恋愛+音楽。このへんひっかかりあればどうぞどうぞ。
作画と音楽は見所で、音楽テーマの作品でこのへんしょぼいと他で挽回されてもノリきれません。
作中けっこうな数の演奏シーン、ここぞという場面の手書き作画は精細で実写に引けをとらず。監督曰く「演奏シーンの再現は通常の5倍たいへん」「ヴァイオリンは曲線が多く描きにくい」製作陣の本気に触れることができます。さらにアニメならではの演出を被せることで、実写では不可能な情感たっぷりのシーンが出来上がってます。
{netabare}・公生:音が聴こえなくなる様を水中に没していくことで表現したもの
・絵見:曲目「木枯らし」で枯れ葉を舞い散らせたもの
・公生:最終話でのショパンバラードは説明不要でしょう{/netabare}
四季折々の背景描写も綺麗でした。四月に始まり三月に終わるであろう物語をカラフルに彩ります。
リアルタイムでは秋に始まり原作の終了と時を同じくして春に放映が終わってます。こういったタイトル名「四月」に合わせての原作との連動や放映時期の帳尻合せが細かくなんとも心憎い限りです。
OP曲「光るなら」「7色シンフォニー」でも歌詞に『色』を取り入れるなど作品に寄り添った楽曲でした。ED曲「キラメキ」「オレンジ」は切なさ担当です。
BGMことごとく良いです。終盤ピアノとヴァイオリンだけの劇伴が増えるのなんかは卑怯ですね。がんがん揺さぶられますもの。あーエモいったらありゃしない。
そして『カラフル』はセリフでもちょいちょい出てくる作中のキーワード。
モノクロの世界に沈んでいた公生がかをりや周囲の人達の影響を受けながら、どうやって色を取り戻していくのかが物語の主題になるのでしょう。
再生の物語の大きな幹となるのが、公生とかをりのラブストーリーになります。
そのため観る側が公生とかをりの関係に焦点を絞り過ぎてしまうと、周辺キャラと公生の絡みが増える中盤を、中弛みと感じてしまうかもしれません。
そこは知人・友人・ライバル達との絡みがあってこその話です。うじうじ型公生くんの更生いや再生をかをちゃん一手に負わせるのは負担が大きくてかわいそうかな、と思う私は好意的に受け止めてます。
それと回想シーンでちょくちょく幼少時代出てきます。全て演者さん変えずにやってるのには驚きでした。男性だと子供時代は女性の声優さんあてたりするんですけどね。公生(花江さん)と武士(梶さん)、言われるまで気づきませんでした。幼少時代からの継続した流れ、心情の変化を重視した監督の意図とのことです。
画や音の演出の良さが土台となって、シナリオいい感じ、登場人物誰もがなにかしら抱えている、それを声優さんが自然に演じてる、そんな印象です。
公生とかをりだけではない、周りを取り巻く面々も物語をしっかり支えていることがこの作品の良さに繋がってますね。ありがちな一対一(あと三角関係)で完結しがちな恋物語以上の力を作品に与えていると感じました。
そして最終22話、綺麗な終わり方です。
視聴後の爽やかな余韻がしばらく続き、満足感と虚脱感をおかずに数日はごはんを食べられるくらいの余韻が残ります、たぶん。
周辺キャラもしっかり描かれてきたことで、最終話なんかは思い入れのあるキャラクターによって受け止め方が変わってくるかもしれません。
{netabare}私の場合、最終話で涙腺が崩壊することはなかったです。3話でさっそくフラグが立って長い話数かけて結末を受け入れる準備をしてたからでしょう。静かに受け止めてかをりを見送りました。
後期EDを見て「やっぱそっちの方向でいくんかい?聞かなかったことにしとくわ」全力でフラグを折りたい願望、いや祈りに近いゾーンにハマって抜けられなかったです。{/netabare}
物語の軸は公生とかをりなので、二人の関係性や心情の変化を追ってくことになりますね。
※未見の方、以降ちょこちょこネタバレ入ります。
■公生は何のために演奏するのか?
{netabare}幼少時代は「母のため」に演奏して
かをりと出会い、「君のため」に演奏して
ゆくゆくは「聞いてくれる人(達)」のために演奏する。
そしていつでも公生の中にはかをちゃんがいて…
公生が誰かのために弾こうとするとその人は去っていくって、とんでもないトラウマだろうに、それでも演奏家として自立していくんだから頭が下がるわ。
{/netabare}
■モノトーンとカラフルの対比
{netabare}序盤カラフルと形容されたかをりは徐々に色を失っていき
モノトーンの世界の住人だった公生は徐々に色づいていく
カラフル=生命の輝き
の一面もあり、単純な比例反比例の線を描いて完結、ではなく、途中行ったり来たりしながら、如何にお互いカラフルたりえるか、影響し合ってましたね。
公生は凪との連弾をかをりに聴かせ
かをりはコンクール本選の日の手術を決意したことを公生に告げる
当人らにしかできない方法でお互いの背中を押すんですよ、中学生が( ;∀;){/netabare}
■演奏毎の公生くんの変遷
かをりと公生の関係性を演奏シーンを軸にして考えてみました。
※超長文になっちゃったのでご興味のある方で
◆ヴァイオリン・ソナタ第9番〈クロイツェル〉第1楽章(第2話)
藤和音楽コンクール 一次予選
{netabare}
譜面通りに弾くことで、コンクールを荒らしまわった経験のある公生に「音楽は自由」である気付きを与えたかをりの演奏。
モノクロ公生に光は差し込むのか?
ひとまず賽は投げられたぞ!
{/netabare}
◆序奏とロンド・カプリチオーソ(第3・4話)
藤和音楽コンクール 二次予選
{netabare}
「友人A、君を伴奏者に任命します」かをりの大博打から始まった公生くん巻き込み第一弾。
舞台でかをちゃんは闇落ちしそうな公生をぐいぐいと引っ張り上げます。
集中すると音が聴こえなくなるのは言い訳なのかGIFTなのか、目の前にかをちゃんがいなければ、この時点での公生は伴奏を再開することはなかったはずです。
「私は全力で弾く 効いてくれた人が私の演奏を忘れないように」
「AGAIN」
「君の眼には覚悟があった。。。音が聴こえないならイメージしろ」
公生が必死にくらいついたご褒美として演奏後の喝采。『演奏家有馬公生』が産声を上げた瞬間です。
まだこの回くらいまでは平和に観れていましたね~
この近辺は2周目以降だと胸にくるものがあります。
屋上で頭を下げた時もそうですが、かをちゃんが椿に公生伴奏の根回しをする時も、手を震わせながらのお願いでした。どんだけ不安だったんだろう。
どうしてかをちゃんは自分の演奏をいったん止めてまで公生との演奏にこだわったんだろう。涙腺が緩んできてやばいのであります。
{/netabare}
◆エチュード ホ短調 作品25-5(第6・7・9・10話)
毎報音楽コンクール 予選
{netabare}
「ピアノのコンクールに出て 君の番だよ」藤和コンの後、ピアノを弾いてない公生に対しかをりは立ち止まることを許しません。
その昔、山本五十六は言いました。
“やってみて 言ってきかせて させてみて”
その「させてみてフェイズ」かをちゃんが隣にいない舞台で公生は再び演奏を止めてしまうのであります。今度はAGAINしてくれる人は傍にいない。脳裏をかすめるのは藤和コンでのかをりの背中。
「あの時君は何のためにヴァイオリンを弾いたのかな?」
「僕は君のために弾こう」
公生がピアノを弾く意味を見出し一つ階段を昇りました。
同時に譜面通り弾くことがアイデンティティだった元天才少年が脱皮した瞬間とも言えるでしょう。
なぜ演奏を止めてしまってたのか?
これは正確に弾けないことへの恐怖と解釈してます。
クロイツェルで音楽の違った側面に触れ(ヒューマンメトロノーム化する前の公生はこうだったのだが…)、
AGAINで必死こいてイメージしながら弾くことを模索し、
今回の25番で弾く意味というものを見つけました。
以降、公生が途中で演奏を止めることは無くなります。演奏終了後、幻影である母親の口元が緩むショットが挟まれるのが象徴的ですね。
「でも手抜きなんてしてないよ。ぶっ倒れるまで練習した。精一杯やった。
それでも不細工な演奏だったとしたら、それは、それは今の僕だ。今のありったけの僕だ。」トラウマを克服しつつある元天才少年です。
{/netabare}
◆愛の悲しみ(ピアノ独奏版)(第12・13話)
ガラコンサート
{netabare}
13話。泣くなというのは酷な話です。
「もうすぐ夏休み ガラコンサート 君はどうする?」きっかけはやはりかをりです。ぱっと見ふっきれてそうな公生でも、喉の奥にささった骨、公生ママ早希さんの影がちらつきます。そして、かをりの選曲は公生と早希との繋がりを最も色濃く反映している因縁の曲。果たして公生は亡き母と向き合うことができるのか?
「僕証明します。宮園かをりがどれほどの演奏者か」
会場入りしてないかをり。周囲の動揺を尻目にずいぶん逞しくなったものです。
案の定演奏中に音が聴こえなくなりますが、聴こえないからどうしよう、ではなく、あれ?僕の知ってるのはこんな曲だっけ?と悩みがこれまでと違うところにシフトしてたりします。そこから公生は母との思い出の曲に向き合い、自分の演奏を形作ったものは早希であり自分の中に早希がいることを認め素晴らしい音を奏で始めます。
この回に先だって後期OPの曲が替わりました。歌詞にある『一人じゃ出せない音が あることに気が付いたよ』幼少期の努力が基盤となってそこに上乗せするかたちで出会った人達とのあれやこれやが反映されていき、表現力が増していくわけです。そのために一番大きな影響を受けた母早希に公生が向き合うことは避けられなかったと思います
『演奏家有馬公生』が成長軌道に乗りました。
13話は親目線になると、ちょっとくるものがありますね。子供に何を残せるのだろうか?と早希の覚悟に共感してしまいます。
別の見方もあって、面白いと思ったのは海外の反応でした。それまでの虐待シーンで早希へのマイナス評価が固定化されてたこと。13話では早希が豹変したかのように見え理解不能といった反応が多かったようです。文化の違いなんでしょうか。
{/netabare}
◆“眠りの森の美女”より「ワルツ」(ピアノ連弾版)(第18話)
胡桃ヶ丘中学校学園祭「くる学祭」
{netabare}
「誰かのために演奏できるって思ってるより大切なことだよ」言い出しっぺがついにかをりではなくなります。
連弾パートナーは相座凪。超合金ヒーロー公生を意識する相座武士を意識する妹ですから、自ずと演奏スタイルは似通ってきます。公生はかつての自分を凪に重ねている状況。
「いじけたあの人を一発ぶん殴ってやりたいんだ」
演奏時間はこれまでの最長8分40秒です。藤和コン・毎報コン・ガラコンとこれまでも公生の演奏は誰かの心を動かしてきました。今回も公生の後追いマン武士には踏ん切りをつけさせ、凪も演奏家として覚醒するに至っております。
ただね、公正が届けたい相手は一貫してかをりなのです。
視点をかをちゃんに移すと、藤和コンでは公生の弾くピアノでヴァイオリンを弾くことができました。毎報コンでは公生の演奏を聴いて「やっと帰ってきた」と涙を流します。そしてガラコンの演奏をかをちゃんは聴いてません。
藤和コン:一緒に演奏したいというかをりの夢が叶う。ただし公生は不完全体。
毎報コン:あこがれの公生が戻ってきてとても嬉しい
描写はないものの、どれだけガラコンで一緒に弾くのがかをりにとって楽しみだったか、想像に難くありません。
そして公生に視点に戻すと、ここまではかをちゃんの期待値上限に届く演奏は出来てたと言えると思うのです。
くる学祭での演奏はそうしたかをちゃんの期待値上限を突破して、諦めモード突入のかをちゃんにもう一度公生と演奏することへの未練を深く刻みました。本当の意味で届けたい相手の心を揺り動かした公生唯一の演奏となったのです。
あとはかをりにとって公生を引っ張る立場で臨まざるを得なかった藤和コンのデュエットのリベンジ。今度は途中止まらずに5歳の時に目の当たりにしたあこがれの公生と対等な立場で一緒に演奏したいという想いがかをりを満たしていくことになるのです。夢よもう一度!かをりは手術を決意します。
「だからもう一度チャンスをください 君と肩を並べるチャンスをください」
「私にもう一度夢を見ろという 夢はかなったのに いつか君とワルツを だなんて・・・」
観てるほうもしんどい。万全の二人の競演をぜひ見届けたいと願って何が悪い!
頼むからそのフラグはミスリードでしたと超展開を期待した終盤です。
{/netabare}
◆バラード第1番 ト短調 作品23(第22話)
東日本ピアノコンクール
{netabare}
当初は、音楽科のある高校へ入るためのコンクール出場でした。出場動機が今までと毛色が違うため、かをりと亡き母が重なって見えた公生にとってピアノを弾く意味を失ってしまいます。母と喧嘩別れしてたら違った展開になってたかもしれませんが、取り込んでしまった以上それも無理な話です。
「僕はただ恋をしただけなのに」…ほんともうこれ以上公生をいじめないでください。
手術の日をコンクールの日に合わせた時点で、この切っても切れない関係は完全に確立されたと言えるでしょう。かをりは最後の最後に公生の背中をもう一度押すのです( ;∀;)
そして凪回をさらに上回る9分間いろいろ詰まった圧巻の演奏シーン。
ここまでくると言葉は蛇足!観たもの感じたものが全てでしよう。
{/netabare}
なかなかこの手の物語でこれ以上のを作るのは厳しいだろうなと思えるくらいの視聴後の満足感です。これこそ製作陣に感謝!
■蛇足1
どんだけマセた中学生なんだとかこんなポエミーな奴いねーよという声にはちょっと異を唱えます。
演奏家ではぜんぜんないんだけど、病気という点で公生とかをりと似たような関係の中学生が近場に居て、この二人、こっちが驚くほど深いこと考えてたり良いこといったりイケメン過ぎる行動をとったりするんだよね。そしてそれは周りに伝播するみたい。月並みだけど死を意識するとより思考が深くなる事例を目の当たりにしてるんです。同様に小学生から一線で頑張ってる連中も似たような感じだったりしたからこの作品の年齢設定に違和感はないです。
ポエミーなのは高校だとイタさが出てくるのでむしろ中学生で良かったのでは?とも思う。
■蛇足2
“君”って作中何回言ってたんだろう?
元祖“君”連呼厨の小田○正(すごい好きです)も70歳過ぎて「君が好きです」言ってるし、そもそも年相応とか考えること自体、あまり意味ないことなのかもね。
■蛇足3
ここまで一切触れてないけど、実は瀬戸紘子さんがキャラの中では一番好きだったりする私。
あ、椿や渡にも触れてないや(-_-メ) ま、いっか
ここまで、長文読んでくださり有難うございました。
視聴時期:2018年2月 それと 2019年11月~2020年3月
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2019.11.03追記
放送エリア限られます。すいません。
明日から東京MXTVで再放送開始です。
来年の春に放送終了見込みであろう素敵な物語を擬似リアタイ気分で堪能したいと思います。
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2020.03.31追記
満喫しました。春に終わる物語を春に迎える至福。
初視聴から2年経ってないのに、その間に大事な人を見送ったり、自分も大病を患ったりと見える景色も変わりました。この再放送の最終日には巨星堕つのトップニュース。
残された者は受け止めてしっかりと足を踏みしめて歩いて行かねばなりません。
2018.08.30初稿
2019.11.03追記
2020.03.31追記
2020.06.25誤字修正