kurosuke40 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
かおす先生の描けること描きたいこと
幼い見た目からか一般的な女子高生像にあこがれを持ち、
女子高生の4コマ漫画を描く薫子こと、かおす先生。
薫子が、プロ漫画家である琉姫たちと寮生活を通じて、描けること、描きたいことを見つけていくお話。
薫子はいわゆるダメな主人公で、何をやってもうまくいかないタイプだけど、
周りへの感謝の念は真摯に持っていて、どこか許せてしまう雰囲気をもっている。
ただ何事もあこがれレベルの思いしかないため、私が絶対やる!という意識が薄く、
他人事のように物事を済ませてしまうところがあった。
女子高生も他人事、連載漫画家も他人事。
どこか自分には関係ない話だ、と。渦中にいるのも関わらず。
そんな彼女がプロ漫画家である琉姫たちと寮生活を始める。
連載があり、締め切りに追われ、連日徹夜してでも漫画を描き上げる琉姫たち。
ただ琉姫たちと薫子の対比で一番違うのは、何を描きたいか、という視点が薫子にはないことだと思う。
また描きたいものがないから、また何が描けるかという点にもぶつかっていない。
薫子は琉姫らに趣味の話をしない、表にあんまり出さないんです。
時折おっさん臭い発言は漏れるものの、アイドル趣味を熱く語ったのは、眼鏡を買いに行ったときぐらいで、
普段は熱くなってしまうからと抑えている。
対比的なのが、実家から逃げだしてコスプレしながら漫画を描く翼や、怖がらせるのが好きでたまらないすず先輩で、
彼らはきっと自身の思いを表現せずにはいられないのです。
恥をさらしてなんぼの創作の中で、薫子はそこまで至っていないのです。
それぞれのスタイルで前を走りつつ面倒見のいい琉姫たち、
大人として支援してくれる寮母さんや担当編集者さんや家族。
そんな恵まれた環境だからこそ、薫子は愚直に前に進み続けることができました。
(もちろんそんな環境を生み出せたのは薫子自身の謙虚さもあります)
そして薫子は、そんな幸せな環境を自身が上手く漫画として描けることとして知るのです。
ただ、それは自分がそんな環境に今いるから描けているのであって、
たとえ孤独になっても描き続けていけるのかと物語は退寮という形で問うてきますが、
かおす先生として今ここになくとも描き上げます。
一人で幸せな関係を描き続けることは残酷で、辛いことなんじゃないかな。
そして、描き上げてから、電車の中で薫子はそれは描くに値すること、描きたいことだと認識したんだと思うのです。
琉姫が描きたいことと描けることは違っていて、「ずっと間違った道を歩んでるって思って」しまっていたのと比べると
かおす先生はとてもラッキーで幸せなんじゃないだろうか。
かおす先生の次回作に期待です。
蛇足
4話の琉姫の話が素晴らしかった。
特に琉姫がサイン会前に鏡の前で悶々としている描写がああーと顔をゆがませずにいられませんでした。
「ずっと間違った道を歩んでるって思って」いた琉姫ですが、サイン会を通じて、自分の作品が多くの人に影響を与えていることを知って
自分は間違ってなかったと胸を張れるようになる。
琉姫の話はBilly Joel「Piano man」を思いだしましたが、歌詞をどこか肯定的に受け取れるようになった気がします。
かおす先生が母との会話で、弱音に対してわがまま言ってごめんなさいと謝ったのも印象的でした。
OPの電車は退寮後の電車だったのですね。
音楽が基本的には良いんだけど、時折良くも悪くも一気に雰囲気を変えるのが、ちょっとだけ鼻に触ることがあったかな。
面白い作品とは何か、ではなく、
心に響く作品とは何か、ということ、なんでしょうね。
きっと作者さんの境遇はかおす先生のままなんじゃないだろうか。