ぺー さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
油断すると視聴断念の陥穽に陥ってしまうかもな名作
2018.07.29記
原作未読
やっと観ました。評価高いですよね。期待値MAXで観ると日常系大好きな方以外は弾かれちゃうかもしれません、というのが第一印象。
良く出来てます。昨今は『人が死なない』ミステリーは増えてきているものの、数として○○殺人事件ほど多くありません。死んだほうが作りやすい、その他いくつかの理由があると思います。
ミステリーがアニメという表現に合うかどうかは置いといて、こと『人が死なない』ミステリーのアニメーションは氷菓以外あまり知りませんね。ここにチャレンジしただけでも製作陣には拍手じゃないでしょうか。
いくつかの理由のもう一つは盛り上がりに欠けてしまうこと。追い詰められて慟哭する犯人も、次は自分かもの心拍数上がる展開も、犯人はお前だ!のカタルシスもないので、よくプロットを練らないとめちゃくちゃ陳腐になる危険性があります。その点、氷菓の謎解きはよく練られているのと作画含めた演出が巧みだと感じます。
無理に1話完結とせず複数回使って一つのエピソードを丁寧に追うことで陳腐になる危険性を回避してます。これは1クールものだと1話完結に頼らざるを得なくなって、これほどの良作になったかは疑問です。
{netabare}『カンヤ祭の謎』編(3話-5話)と『クドリャフカの順番』編(12話-17話)。作品序盤でカンヤ祭の謎に迫る話をもってきて視聴者をつかみ、終盤でカンヤ祭を舞台の事件を持ってくる流れは見事であるということもさることながら、エピソードとしても良く出来てたと思います。{/netabare}
全22話の中でのエピソードの配置の按配がよい。
基本的には評価高めです。
ただしやっぱり盛り上がりに欠けるのはいたしかたありませんね。
日常系という分類が正しいか自信はありませんが、日常に生じた違和感の解決が構成の軸になっているため『人が死ぬ』ミステリーと比べて、解決したところでそれで?というツッコミは生じてしまいます。
いつ超展開がくるんだろう??わくわく・・・は最後までこないのであきらめましょう。
となると、キャラに魅力を感じるか?にシフトするんだと思います。
いやむしろ、えるたそを愛でるアニメと捉えた方も多いんではないかと。
それはそれで構わないと思いますが、それだとヒロイン千反田えるや主人公?折木奉太郎にノリきれないとアウト、または別のパターンで、よく日常系で出てくる小理屈こねてると思われてしまう損な役回りのキャラ、本作では福部里志やもしかすると折木奉太郎あたり、この人たちへの拒絶が先にあると弾かれちゃうと思います。
で、自分はどうだったかというと、、
「可もなく不可もなく」
要はそこまでのキャラへの思い入れはありませんでした。ただししばらくの間はっていう但し書き付きで。
そのあたりは後述するとして、あにこれでの評価の高さと相反した意見はおそらく上記みたいな理由なんだろうと思います。
じゃあ別にほっとけばいいじゃんという話ですが、こと氷菓に関してはそれだともったいない気がするんですよね。
先述の『人が死なない』ミステリーという面では高い完成度を誇ってますし、キャラもああは言いましたけど、中核の4人組はそれぞれ役割分担も違えばベクトルも違って良いバランスを保ってる。そしてなによりも残りの2~3話の流れと締めは地味だけどホントに素晴らしい。22話完走してほしいなと思う作品です。
なお、肩の力抜いて観れる作品ないかな~という方にはピッタリの作品ですので超絶オススメではあります。
私の場合、20話くらいまではまぁ面白かったな~程度でしたが、最終2~3話で評価を一段上げました。{netabare}(謎解きの比重を下げ、人物内面の描写を上げたことで私の好みの流れだったというのもある。){/netabare}
以下、主に終盤について
※がっつりネタバレのため観終わった人向け
■えると奉太郎なんだが・・・
{netabare}
終盤、千反田えるの株が急上昇。好きな人にはゴメンですが、えるについては、育ちのいいお嬢様だねー、くらいしか思ってなかったんですが、カンヤ祭を経験して自分の得手不得手を理解したあたりから風向きが変わりまして。えぇ好奇心の猛獣とかお勉強ができるだけではないかなり賢い子だな、と。
バレンタインデー当日のお歳暮お中元のくだりなんか、まんま友達以上の好意があると言ったも同然で好感。最後の桜の木の下での独白良かったですね。
自分がこの土地にいる理由、将来のこと、もともと嫌みのない娘さんではありましたが、それに加えての芯の強さを感じました。それと奉太郎への信頼。一人娘で将来はこの地に戻り千反田家を守ると決めてるが、自分には守り抜くために必要な経営の才は無い。奉太郎ならきっと理解してくれると分かっているが故の告白でしょう。「好き」「付き合って」と言わないことがよりシーンを美しくしてました。
奉太郎も気づいてる。劇中でははっきりとした答えを出さず視聴者に委ねましたが、ハッピーエンドを想像できる爽やかなラストに拍手です。
2クールめのOPで水の中から奉太郎をえるが引っ張り出すカットがあります。省エネライフ万歳からの奉太郎の変化を2周目は着目してみると楽しいでしょう。
{netabare}古典部だし古典繋がりをこじつけてみました。
古事記にあるところの日本の生い立ちから。。。
「我が身は、成り成りて成り余れる処一処在り。故(かれ)、此の吾が身の成り余れる処を以ちて、汝が身の成り合はざる処に刺し塞ぎて、国土を生み成さむと以為(おも)ふ。生むこと奈何」
原文は直接的な肉体の繋がりのお話ではあるものの、要は足りないところを補い合って頑張りましょうというイザナミとイザナギの意思が国を作ったのよ、と意訳。
あなたに足りない部分を私は持っている。
自分に足りない部分をあなたが持っている。
そう突きつけられた時、ヘタれずに覚悟を決められるか?ってなると自分は自信がないですよ。
{/netabare}{/netabare}
■ついでにマヤカとサトシも・・・
{netabare}
大人はバレンタインデーでサトシと同じことをやってはいけません。
なんてわかりきったことを、あんな不快感が増すようなエピソードを入れたのかは正直よくわからないです。
ただ、そこで殴っとけよという場面で指先コツンで済ませたのは氷菓のこれまでの展開を考えれば、らしいといえばらしい。
たぶん電話で誤って付き合うことになったんじゃないかな。
橋の上での奉太郎とサトシのシーンをきっかけにして、サトシのこだわらないことにこだわる、という殻を脱いでいてほしいという期待を込めた想像です。
{/netabare}
■またしてもえる
{netabare}
脱線してるのでゆるりと。。。
由緒正しいお家柄でなんでこんなキラキラネームつけたんだろう?
隣の十文字さんは“かほ”と普通なのに。
おそらくそれは “得る”
本編中、由緒だけはあるよを匂わせる描写がいくつか。豪農千反田家でぶいぶい言わしてたのも今は昔。往時の面影は薄れ生産量は全盛期の○○分の一。五穀豊穣、将来にわたって食いっぱぐれないようにとの思いで生まれてきた娘に。。。という仮説はどうでしょう?
加工品といった二次生産物その他商品開発に活路を見出す。そのために理系を選択する。最終話でえるが導き出した結論はあくまで生産物に向き合う選択でした。東京農○大学醸造科出身の有名蔵元の子息とかいっぱいいますからね。方向性としては間違ってなさそうです。
{/netabare}
■すまん、最後にえる
{netabare}
さらに脱線するのでもっとゆるりと。。。
お仕事上で採用するまたはチームにスカウトするならば彼女は欲しい人材。
この作品での出来事って、スルーしようと思えばとことんスルーできる事案ばかり。
でも彼女は少しの違和感に反応し、そしてその違和感は正しい違和感であることを毎度奉太郎により証明させている。
発見して声を出せるのは重要で、発見した問題を解決するのに長けた人材は山ほどいるのだが、その手前ができるのであれば幹部候補待遇にしますね。
さらに、発見したらしたで適切なキーマン(奉太郎)を巻き込むことができる。社内調整ができる子はこれまた重宝します。
{/netabare}
「私、気になります」
この物語を説明するうえで外すことのできないセリフ、という位置づけです。
なぜ彼女がこう言うのか?
最初はそういう性分なんだろうと思ってましたが、それだけではないようですね。そんなところに着目して観ると新しい発見があるかもしれません。
どうぞ期待値をあまり上げずに肩の力を抜いて観てくださいな。
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2019.01.22追記
《配点を修正》
千反田えるがただカワイイだけだったら、評価はそれほど高くならなかったろうと思います。
2クールでやる意味はあったものの、完走するまで耐えられるか?
トータルでは◎でも、ドラマティックな展開を期待する勢はしばらくしんどい、という危ういバランスの上に成り立った作品と感じます。