min@mi さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
素晴らしい
放送終了後期間が空いた状況でレビューするので覚えている範囲でコメントします。
これほど心動かされた作品は久しぶりです!
1話当初はストーリーの設定上中弛み必至だろうから中盤で切る可能性高いなぁと心配していましたが、杞憂に終わりました。
まず特筆すべきは2話。登場人物たちが新宿・歌舞伎町を駆け回るシーンです。
途方もない目標に走り出す登場人物たちの心情を、斬新で大胆な表現を使って非常に良く描写できていました。
普段は人の波に上手に乗って、ぶつからないように歩くのが繁華街での常識ですが、思いっきり全速力で夜の新宿を走る一連のシーンは見ていて爽快で、ステレオタイプを振り切る彼女たちの勇気と、十代の若者にしかない向こう見ずな勢いが、画面越しからバンバン伝わりました。
2話を観た時点で、このアニメは違うぞ!と確信できました。
中盤はそれぞれの登場人物たちの心情を、一つひとつ汲み取りながらストーリーは進行していきました。気を遣われるのが苦手な子、気を遣おうが使うまいがお構い無しでとにかく自分の信念のままに進むのが大好きな子、友達のつくり方がわからない子、友達から裏切られる子。様々な人間模様がある中で、私達が日常で経験するもどかしさが、非日常に向かって進む一人ひとりにもちゃんとあることを、作中では丁寧に描かれています。
そしてストーリー終盤。残るはしらせだ!と誰もが心待ちにしていたことでしょう。彼女がなぜ南極行きにこだわったのか、実は彼女自身が分かっていなかったことが判明します。こつこつアルバイトを頑張ってお金を貯めて、あれだけ無謀な計画を立て、彼女の熱意が渦になって周囲の登場人物たちを巻き込みついに南極の大地に降り立ちましたが、期待していた感動はありません。南極の厳しいブリザードの中、しらせは必死に亡き母の想いをたどります。たどってもたどっても答えが出ずに、最後は投げやりな言葉さえ吐いてしまいます。
しかし、背中を押したのは3人の友達でした。絶対にしらせの心を開いてみせる!このまま何も変わらぬ日常へ帰らせる訳にはいかないと必死になって母の遺品を探します。
そこで1台のノートパソコンを見つけます。しらせの答えはその中にこそありました。周りの雑音には目もくれず、必死に母の想いをたどっていたしらせは、最も大事な彼女自身の想いを忘れていたのです。
溢れる受信メール通知は、彼女の想いそのもの。発した言葉は「お母さん」のひとこと。
このシーンはまさに涙なしではとても観ることができないほど、しらせの心情がひしひしと伝わってきます。
一人ひとりの心情をここまで描ける人は、きっと心のひだが誰より深い人なんだろうと感じました。
思わず目を逸らしたくなるようなバカみたいな日常。淀んだ空気の漂う教室で過ごす日常では経験できない、澄み渡る非日常へ。これが本作品の主要テーマのひとつです。日常から非日常へと移動する中で、ごくごく普通の女子高校生たちがどう変わるのか。少しでも多くの人がこのアニメを観てくれたら、この日常もちょっとはより良くなるのかも…?
ここで一つ確認するべきは、これが原作あっての作品ではなく、オリジナルアニメであるということです。1クールという短い制作期間の中で、中弛みすることなく、4人の主要登場人物たちの心を描き切ることは決して簡単ではないはずです。その点でも、この『宇宙よりも遠い場所』という作品を生み出してくれたいしづかあつこ監督始めとする制作スタッフ様の凄さがあります。