ブリキ男 さんの感想・評価
4.1
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
魔法使いに盗まれた太陽を探す子供達のお話
空から太陽が消えてしまった!?
黒いローブを着た魔法使いが、太陽を持ち去って、鉄の箱に閉じ込めてしまったのです。
草花は枯れ、人々の顔からも明るさが失われてしまいました。
盗まれた太陽を取り戻すため、一人の女の子が旅立ちます。
「木を植えた男/フレデリック・バック作品集」に収録。本編9分程度の短編作品。
魔法の傘を使って飛んだり滑ったり。空を、山を、砂漠を、海を旅しながら、色々な国の人たちや動物たちとお話をしたり、友達になったり…。本作で描かれるのは、さながら子供達の夢を具現化した世界。
足漕ぎ飛行船で空を行くシルクハットの紳士や、バレエのステップを踏みながら砂漠を徘徊するハンター?など、正体不明かつエキセントリックなキャラ描写も楽しい(笑)童心を忘れないバック監督の遊び心がそこかしこに見て取れるようでした。
物語の骨子に据えられている、世界中を巡り、白人、黒人、東洋人、インディアンと、それぞれ※1人種の異なる子供達が力を合わせ、悪い魔法使いに立ち向かうという筋書きについては、明らかに理想の社会の投影ですが、主人公が子供達なだけに、すんなりと受け入れられ、見ていて微笑ましく、稚拙ながら、感動的とも言える心地良さがありました。
ところで、盗まれた太陽とは一体何を意味するのでしょう? 富? 力? 核爆弾? わたしはJ.R.R. トールキン氏がファンタジー小説「指輪物語」の中で力の象徴として描いた"一つの指輪"を思い出しました。本作の発表年がアメリカで※2指輪物語ブームが起こった直後に当たりますので、偶然の符合ではない気がします。
冒頭近くに、魔法使いの持つ黒い傘が、別の人物の手に渡るシーンがあるのですが、これについては上記の太陽のよりも表現が明確で、水色のワンピースを着た女の子がその傘を手にすると、その傘の色もまた、瞬く間に水色に変化するのです。持ち手によってその性質を変える"道具"あるいは"力"の本質の、寓話的表現と捉える事が出来ました。
作画については、一見すると時代相応ですが、様々な画材を使った彩りが目に楽しく、※3切絵を移動、回転させて動きを作る手法なども、時代の先取り感が強く、40代になってからアニメ作家としてのノウハウを学んだという、定石に捉われないバック監督の思考の柔軟さが伺えました。台詞を一切使わずに、フキダシ内のアイコン(☀)と、キャラ表情だけで会話シーンを成立させる表現も斬新です。
同時代、後の時代のアニメ作家に多大な影響を与えたバック監督の、アイディア箱の様な、宝石箱の様な、心躍る初監督作品。
童心にかえって、心をらく~にしてお楽しみ下さい。
※1:東洋人とインディアンは大別すればモンゴロイドで同じですけど、もっと広い視点で見れば全員アフリカ人(笑)
※2:ベトナム戦争を経て政治不信の気運が高まった1960年代後半のアメリカで、学生やヒッピー達が中心になって起こした「ガンダルフを大統領に」運動(ゴーゴーガンダルフとも‥汗)とか。
※3:flashアニメそのもの。バック監督の後の作品、「鳥の誕生」ではこの表現が主体となっている。