ぺー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
そして北宇治高校吹奏楽部にモブはいないのです
2018.11.25記
原作番外編の短編集を一冊既読 1期2期劇場版視聴済み
ときおりこのような素敵な出会いがあるからアニメはやめられないなと思います。
比較的甘め評価の多い私ですが、5点満点は本作含めて3本(2018年11月現在)。超満足、全方位おすすめ作品です。
大所帯の吹奏楽部を扱うため部員だけで64名います。
この作品では主要キャラ以外の部員も、本編を観ていただければ彼ら彼女らがいかに個別の輝きをもって描かれているかわかるかと思います。
部員たちキャラの描写だけではありません。背景/光の演出、セリフの間みたいなもの、ちょっとしたワンカットや音のひとつひとつそんな細かいところに行き届いた演出がなされていることには触れておきたい。
作品を知らない人から見れば、単なる高校の吹奏楽部を描いた青春部活もののアニメに過ぎません。
本作の魅力は数多くあれど、その一つに圧倒的リアリティをもって描かれた楽器や演奏の描写があります。
作中描かれた運指の正確さ、微妙な音の違いの表現など再現を望むとしたら実写化はまず不可能といえます。楽器も演技もできる役者を揃えることはまず無理。
{netabare}キャスト選びで暗礁に乗り上げることでしょう。思いついたとしてもこんな感じ↓
黄前久美子:林家正蔵 (吹奏楽部でユーフォしてました。タッチ主役級で声優経験あり)
川島緑輝:いかりや長介 (乾杯ラガーCMでのウッドベースにシビれました) 次点 miyavi
高坂麗奈:くわまん (シャネルズのペッターとして一世を風靡)
小笠原部長:武田真治 (ガチの上手い人)
塚本秀一:指原莉乃 (地区大会出場経験あり)
パーカス:加藤茶 (葉月役ではない。シンバルがたらいに変わるかも) 次点 石原裕次郎
もはや青春群像劇とはちがう何かです。アニメでしか表現できない作品。それが「響け!ユーフォニアム」なのです キリッ おいおい( `ー´)ノ{/netabare}
経験者にはおおむね好感をもって受け止められました。一般人はその名を知らず、吹奏楽部界隈でもマイナー楽器の代名詞だった“ユーフォニアム”を一躍人気楽器に押し上げた功績もさることながら、ありがちな主旋律を奏でる子が主役ではなく、中低音の子を中心に据えました。高音と低音を繋ぐバイプレイヤーとしてのユーフォの特性を活かした作品の構成にもなってることが本作の特長です。
どちらかというと主人公は一歩退いた位置で、吹奏楽部全員が主役であるような「群像劇」に仕上がっていることは多くの方が指摘されていることですね。
■通期(1期2期)総評
※1期レビューに纏めてます。
それでは以下2期に絞ります。
1話2話一挙放送。1期ラストの府大会の余韻描写をアバンとし、1期に続いてTRUEさんのアップテンポな楽曲「サウンドスケープ」で幕開けです。OP葉月達が階段からジャンプするスロウカットが流れた瞬間に早速もってかれました。
大きく二部構成になります。
前半の主役は2期からの新顔二人{netabare}(鎧塚みぞれと傘木希美。とはいえしっかり1期で映り込んでたりするので気が抜けない。){/netabare}の関係修復の物語。{netabare}関西大会に向けてラスト1ピースが揃ってからの第5話の関西大会でのフル“三日月の舞”。そして全国大会出場決定といきなり出来すぎた“最終回”でした。{/netabare}
全国大会出場を部の目標として掲げたのは1期の冒頭。実現に向けての上達への過程と部内の人間模様を活写しきったのが1期とすれば、その流れは2期の5話で一つの区切りを迎えます。{netabare}最初、全国大会の演奏シーンが丸々カットだったのは肩透かしのように感じましたが、あくまで全国大会出場という骨子に従えば、部の演奏シーンのピークを関西大会に持ってきたことは、整合性のある製作陣の選択だったと思います。{/netabare}
ここまでをじっくり描いて最終話としてもよかったものを、そうはしませんでした。7話以降の人間ドラマを上乗せして厚みを持たせてきたこと、それが部内の横軸の関係といったこれまでのものとは微妙に違って、父娘や姉妹といった縦軸の関係で魅せてきた。しかも、これまでの展開を邪魔しないどころか1期の描写(伏線)も取り込みながら物語に深みを持たせた、という点をもって満点の評価としました。
閑話休題とした6話でさえ後半展開の仕込みがされており、最終話での{netabare}タイトル回収を含めた物語の{/netabare}閉じ方と合わせて全話無駄な回がないという率直な感想です。
■結局人間関係含む人物の描写って…
問題発生→解決。次の問題発生→解決。というシンプルなものではありませんでした。
前に解決したものが少し経った違う場面で効いてくる。ちょっと画面に映り込んだものが少し経って効いてくる。同時進行のいくつかの一対一、対複数の人間関係が一つの場面で重なってくる。その横で別のストーリーが並行している。
{netabare}・希美とみぞれを軸にした前半。夏紀と優子の一対一も並行して描かれ、のぞみぞれのストーリーに絡んでくる。身を砕いた優子が徒労感を見せる夕暮れの渡り廊下。夏紀のいつも通りのフォローが沁みます。
・あすかの離脱騒ぎでの部員たちの動揺。直接的にも間接的にも対あすかに戻ってきてほしい想いを伝えていて、それがやはりその子らしいアプローチになっている。ここでこれまでにいろんな部員のそれぞれのキャラに焦点をあててきたんだな、と気づかされます。{/netabare}
竹を割ったようなわかりやすい解決を指さず、むしろ以前とは同じとはいかなくても前を向いて、というものがほとんど。
葵ちゃんしかり、麗奈の滝先生への想いの落とし前のつけ方しかり、久美子、あすかは言うまでもなく。。。繋いで紡いで幾重にも織り重なっていきます。
{netabare}それを端的に表したのが10話の黄前姉妹。回り道しても前を向こうと決意した麻美子の手元。こげを削ぎ落して綺麗になったはずの鍋には無数の傷がついてました。一見綺麗(解決)になっても以前とは違う今があるのです。{/netabare}
{netabare}ならば後悔のないように、と「あすか先輩と一緒に吹きたい」とぶちまけた久美子さん。地味な繋ぎ役だった“ユーフォっぽいよね?”の子が表舞台に立った瞬間でした。一話の中で何度泣かせるんだ( ;´Д`)まったく。。。{/netabare}
主要キャラはもちろんのこと、準主要キャラあまつさえモブすら丁寧に描いたことで私達は目に映るキャラ一人一人の魅力に触れることが出来ます。
「かけだすモナカ」「リズと青い鳥」サイドストーリーをなんら違和感なく受け止めることが出来るのは本編にて複数のキャラに光があたっている証左とも言えるでしょう。
群像劇の中でもモブすら光をあて、当然のように主要キャラでも揺さぶってくるんですから、手に負えません。
総合力の勝利!! あにこれの評価基準でいえば、「物語」「キャラ」「声優」「音楽」「作画」どれを切り口にしてもレビュー一本書けるほどのメッセージがこの作品には詰まってます。
未視聴の方は1期も2期も1クールと取っつきやすい長さなので、ぜひ視聴されることを重ねてではありますがオススメしたいと思います。
■そして北宇治高校吹奏楽部にモブはいないのです
で、結局こうなるわけです。
「続きまして、全国大会に進む関西代表3校を発表します。」
ここから1分間の中に凝縮されたドラマ。
※けっこう妄想が入ってることをあらかじめお断りしておきます。
{netabare}「プログラム3番。大阪府代表、大阪東照高等学校」
・さすが全国常連。歓びも控えめ、目配せする程度。王者の風格が漂う。
「プログラム15番。大阪府代表、明静工科高等学校」
・こちらも全国常連。だが大阪東照とは対照的にみんな祈りながらの発表待ち。顧問が変わって弱体化したとの声を撥ね退け手にした全国切符に感情ばくはつーって感じで。
・遡ること北宇治演奏前の舞台袖。明静工科の曲目『韃靼人の踊り』と判った直後に希美とみぞれのカットに移ったのは皮肉な話だ。南中敗退の帰路のバスの中「ほんと?さっき言ったこと。。高校で金取る」みぞれの中に去来するものがあったとすれば、高校入学後初めて希美と共に臨む大会で、「私、希美のために吹く」二年越しの約束を果たそうとの決意表明だったのかもしれない。
「夏紀先輩、残り一つだけです。」「だっ、大丈夫っ」
・舞台袖でも観客席でもモナカの低音コンビは気の休まる時がないよね。
・手を合わせ発表者を緊張の面持ちで見つめる優子。隣で手を組み目を閉じて祈る香織先輩。二人らしいコントラスト。すぐ横の滝野君(2年.Tp)は表情を崩さず。騒動続きのトランペットパート唯一の男子部員は悟りを開いたのか?。
・同じく背筋を伸ばし微動だにしないみぞれと突っ伏した岡美貴乃(3.Fg)も対照的。黄緑リボンがトレードマークの彼女だが大会では赤だったのを私は見逃さない。勝利を意味する色に替え大会に臨んだのだろう。ただしキャラ判別はしづらかったぞ。
・秀一も手を組み推移を見守る。
・座席には座らず、最後方入り口付近で見守る指導者軍団(滝先生、はしもっちゃん、新山センセ、松本軍曹)も祈る。近くにいる他の高校の関係者と思しき女性はいたって平静。全国目指し当落上にいる北宇治チームの必死な姿とはこれまた対照的だ。
「最後に・・・」
・久美子、汗がすごいぞ!
「プログラム16番。京都府代表、北宇治高等学校」
・真っ先に喜ぶ姿を捕えられたのがチームモナカの面々。コンクールメンバーではない裏方を取り上げるところにこの作品の懐の深さがある。印象的なのは、2年でのオーディション落ちは屈辱だったであろう森田しのぶ(2.A.sax)が仁王立ち万歳で一番目立っていること。サポートに徹した彼女らの献身が嘘ではないことを象徴するような仁王立ちである。
・顔を覆った香織に抱きついたのは意外にも優子ではなくもう一方の隣に座っていた笠野紗菜(3.Tp)。実力派の同級生の影に隠れてもいたし、誰とは言わんが自己主張の激しい後輩たちを最上級生としてまとめるのは至難の業だったろう。香織とは3年間苦楽を共にした仲である。彼女には香織に抱きつく権利を充分に有しているのだ。滝野君(2年.Tp)は立ち上がってガッツポーズ!悟りを開くにはまだ早かったらしい。
・香織たちの後方で仲良し三人組平尾澄子(2.T.sax)橋弘江(3.A.sax)と宮キリコ(3.A.sax)も喜んでいる。感涙で崩れそうな二人(キリコ、弘江)にやさしく手を添えるのは2年の澄子だ。彼女にとっては、同じテナーの葵先輩の離脱を境に肝が据わったのかもしれない。一方で香織たちの前列は他校の生徒たちの席なのだ。喜ぶ北宇治吹奏楽部員たちとは対照的な表情には無念さが滲み出ている。
・ここでやっと我らがパーカス。画面中央、立ち上げって両手ガッツポーズの大野美代子(3.Timp)は口を結んで偉業をかみしめている。府大会の集合写真でも両手ガッツポーズだった彼女は2年生ながら北宇治の力強さを象徴する存在ではなかろうか。その両脇から加山沙希(3.Glo他)と井上順菜(1.Cymb)が抱き着いてくる。一点の迷いなくシンバルを叩く彼女のひらりとなびく髪の線は忘れようがない。三人の左には堺万紗子(1.B.Dr)。彼女のイメージである“三日月の舞”での力強さ、“宝島”での溌剌さ、とも違う一歩退いた様子で控えめに喜んでいる。なかなかどうしていろんな顔を見せる好キャラだ。打楽器はマウスピースで顔が隠れることもなく、場所も取るため隣との間隔が空き、演奏中はピンで抜かれるカットが多い。彼女ら4人それぞれ演奏に集中している真剣な表情は主要キャラばりの印象を私たちに植え付けていたと思う。だからこそ、表情を崩したこの短いカットは尺以上に価値のあるものなのだ。そして技術指導の橋本先生の専任はパーカッションである。合宿でみっちり絞られたであろうその先の歓喜に私達も共感を覚えるのだ。それとあやうく言い忘れそうだったが、画面端のナックル先輩はいつも通りのナックル先輩だ。
・パーカスの左後方には、ホルンの三人沢田樹里(3.Hr)加橋比呂(3.Hr)と岸部海松(2.Hr)。いわば昨年のだらけた雰囲気をなにより引き継いだ象徴みたいな存在だった彼女らは「なんですか?これ」の洗礼をこれでもかと浴びまくった。そこからの上昇カーブは推して知るべし。花形のいない雑草軍団のホルンパートだからといって「ホルンがかっこいい曲です」の“三日月の舞”では逃げ場がない。曲前半、ゆったりしたテンポから井上順菜のシンバルの号砲と同時に高らかに吠えるホルンに胸を熱くするのは私だけではあるまい。そんな彼女らの喜びようを見て心を打たれない者はいるのだろうか。
・同じくパーカスの右後方に岩田慧菜(2.Tb)赤松麻紀(1.Tb)が映り込んでいるのも興味深い。秀一、千円先輩(野口ヒデリ)、田浦愛衣(3.Tb)に隠れてトロンボーンパートの中では地味どころだ。むしろここでは田浦愛衣が見切れてる。
「よっっしゃあぁ!」
・肩を組んで咆哮をあげるヒデリ(3.Tb)と秀一。同じパートに男がいるって安心できるよね。そしてここでも愛衣は見切れてるのである。かわいそうに。。。
・前列に戻り、そっと立ち上がる久美子。画面奥で下から拳を突き上げて雄叫びをあげる後藤先輩。秘めたるなんとかというところだろうか。あの後藤先輩が!とギャップに驚いた瞬間である。後列は島りえ(2.Cl)松崎洋子(1.Cl)が見えることからクラリネットパートか?大所帯の割には劇中触れられることがなかった不憫なパートである。思えば、こことフルート、ピッコロ、オーボエなど合わせて総勢20名前後を新山先生一人で見ていたという事実にあらためて驚かされる。
・サファイアを抱え込んで顔を埋める梨子先輩。ちらりと映るサファイアの左手の指にはテーピングが巻かれてある。低音パートはあすかというカリスマに支えられてきた節があるが、どちらかというと背中で語るあすかとはまた違うかたちで、言葉でパートを盛り上げなにより高みを目指し続ける後輩は可愛くてしかたがなかったのだろう。
・そして希美。胸の前で小さく拍手をする彼女の表情は。。。あの時の選択をいったい誰が責められるであろうか。10話の鍋の傷は黄前姉妹だけのことではないのだ。
・久美子からあふれ出る涙。壇上のあすかと晴香はお互い顔を見合わせ小さく頷く。さすがに壇上ではしゃぐわけにもいかないのだが、仮にあすかが皆の中にいても雄叫びをあげることはないだろう。いったい彼女はどんな表情をするのだろうか?
・最後方入り口付近の指導者四名は各々のキャラに合った反応だ。ここ数年、当然昨年も吹奏楽部を間近で見てきたのは唯一松本先生のみである。大事なことなので二度言う。唯一松本先生のみである。山下真司でなくても号泣必至とみて差し支えない。
・喜多村来南(3.Fg)と岡美貴乃(3.Fg)のファゴットコンビが抱き合う。なにかと目立つ、見た目派手な二人。二人が同時に卒業してしまうので跡取りを心配してしまう。きっと新入生の誰かが埋めることになるのだろう。
「やったよ麗奈」「うん」
中学最後のコンクールでの、「本気で全国行けると思ってたの?」。特別になりたいが、冷静に状況を判断すれば心のどこかで諦めてもいる自分の痛いところを突かれた麗奈。「あんたは悔しくないの?私は悔しい」。一歩退いて自分が傷つかないよう予防線を張りつつも、内に秘めた熱に向き合えとでも問われた久美子。
あの日からお互いに突き刺さっていた棘がこの時!きれいに霧消したのだ。一年前のコンクールで悔し涙を流した者と涙の意味すら分からなかった者。今というこの瞬間、ともに流すのは歓喜の涙であった。
そして、「先輩。コンクールはまだ嫌いですか?」に繋がる。かつてコンクールなんて嫌いと呟いた少女は、大切な親友との約束、向こうにとっては些細かもしれない、しかし彼女にとってはとても大切な二年越しの約束を果たした。
「たった今、好きになった。」
同時に北宇治高校吹奏楽部は年度初めに立てた部の目標をこの時達成したのであった。{/netabare}
ここまで1分間。ここに限らず全編通じて情報量の多い作品です。流し見もけっこう。捉え方も人それぞれ。ただせっかく観るのなら作品のそこかしこに散りばめられたメッセージをぜひ感じてほしいです。
■雑感
京アニ、高校の部活、音楽。これらのワードから1期の放送が始まる前の視聴者には、あの人気作の感動よ再び!を期待しながらのスタートだったのかもしれません。
1期序盤の特に1年生たちの日常描写はそんなお得意様を意識したものなのかしら?と邪推したのも最初だけ。なんせ音楽への向き合い方が真逆なので、そのうち記憶の彼方へ飛んでいきました。
{netabare}時は流れて、全国大会での出番が終わったあすか、香織、晴香の三年生はチョコバナナパフェを求めて喫茶店へ向かいます。
それは部活動に明け暮れた最後の一年間では諦めたであろう普通の放課後。{/netabare}
{netabare}「そっか…、じゃあ、あたしも行こうかな…、喫茶店」
肩の荷が下りた部長・副部長・パートリーダーにようやく訪れた“放課後ティータイム”でした。って{/netabare}
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2019.02.13追記修正