雀犬 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
ネト充×リア充
【概要】
2017年秋アニメ。会社を辞めてMMO系ネトゲーに没頭する世捨て人・森子(30歳)がネットとリアルを結ぶ奇縁によって立ち直っていく姿をコメディタッチで描く全10話の恋愛物。
原作は漫画アプリcomicoに連載されていましたが、作者の体調不良により長期休載の末に打ち切りが決定しています。アニメ版は綺麗な形で終わっているため、この作品はアニメで完結していると思うのが良いかもしれません。
【感想】
第1話。11年勤めた会社を退職して家に帰った主人公はもらった花束をゴミ箱に捨ててベットに倒れこむ。どうも円満退社ではなかったことが分かります。
翌朝起きてすぐPCの電源を入れ、新しくサービスが始まったファンタジーRPGゲーム「フリドメール」を始める。森子はゲームのアバターにイケメンキャラを選択し、ゲーム内でも大学生の男の子という設定で通す。いわゆるネナベというやつです。
ここで考えたいのはどうして森子はゲームの世界で性別を偽るのか?ということです。
{netabare}
大手企業でありがちですが、女性でかつ低学歴とあれば社内での立場は弱い。要領よく立ち回ることもできず、一人で仕事を抱む状況になってしまったのか残業地獄、女上司のイビリ(この設定はアニメでは明確に描かれない)などの理由で会社を辞めました。
森子がネットゲームに惹かれる理由のひとつに、ゲームの中では現実の煩わしさから解放されるいう点がある。ネットは男女・年齢・職業などの垣根を越えてソーシャルな関係を築けるという良さがあります。そして彼女は心の中で女であることからも解放されたいと思っている。だからフリドメールで林という男性を演じ、身なりに気を遣うこともやめてしまうのです。
実際にフリドメールのギルドの仲間たちはみな親切でいい人ばかり。楽しいゲームの世界は彼女の心を癒してくれる。30歳の未婚ニートネトゲ廃人という現実をいったんは忘れさせてくれる。
でも悲しいかな、人はネットを捨てることはできてもリアルを捨てることはできません。生きていりゃおなかが減るし、働かなけりゃ貯金も減る。そりゃそうだ。今の状況を続けていくわけにはいかない。何らかの現実解が必要です。
このアニメはゲームで知り合った青年、桜井と結ばれて終わる。仕事を辞めるところから始まった話が、新しい仕事を見つけるのではなく恋人ができるという形に着地するということです。賛否あるようですが僕はこれで良いと思う。
結局、彼女は何によって救われたのか。ゲーム内の知り合いとリアルでことあるごとに出会う都合のよさに目をつぶることにします。そもそも道でぶつかった相手が男であれば、食事に誘うなんて絶対にない。桜井は森子の見た目の可愛らしさ、スタイルの良さ、そして男性の庇護欲を掻き立てる性格に惹かれた。つまり彼女が忌み嫌った「女性らしさ」によって森子は救われているのです。
作中でも森子は自己評価が低いと指摘される。それは女であることを肯定できない自分がいるからです。確かにネットゲームの中はジェンダー・学歴・年齢といったものから解放される場所かもしれない。少なくとも森子はそう捉えていたように見えます。でも「女なんかに生まれなければ良かった」と思っているうちは幸せにはなれないだろう。現実で男性から魅力的な女性だと承認されてこそ、彼女は立ち直ることができるのです。
最終話の手をつなぐシーンはショーウィンドウに映る林とリリィが二人を祝福してくれているようで、とても素敵な演出でした。これから冒険が始まりそうな雰囲気のBGMも見事にはまっていましたね。
女性らしい視点でネットの良さと現実の良さをどちらも描けている作品。森子が可愛らしくてキュンキュンできるし、男性陣も好感度が高い。良いアニメだったと思います。
{/netabare}