「ヴァイオレット・エヴァーガーデン(TVアニメ動画)」

総合得点
94.3
感想・評価
2562
棚に入れた
10450
ランキング
6
★★★★★ 4.2 (2562)
物語
4.1
作画
4.5
声優
4.1
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ネタバレ

kurosuke40 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

愛と赦しと呪いと決意

原作未読

思えば、愛とか恋とか、そういう感情を肌でわかるようになったのはいつだったでしょうか。
食べたことのない食べ物の味を想像できないように、物語の中で語られる愛について何それおいしいの?とチンプンカンプンだった時期は私にもありました。
愛や恋、そのような状態になってから初めて、物語を顧みて、なるほどこれが恋とか愛とかいうやつか腑に落ちたものです。
言葉は概念をとらえたものですが、感覚より先に概念をとらえた先人の言葉がありました。
例えば仮に、この世に愛や恋を語った書物が1つもなければ、私は一生それを言葉で捉えることなく終えた気もするのです。


ヴァイオレット・エヴァーガーデンは、彼女が少佐の「愛してる」を知る物語です。
出生は明らかではないですが、野生動物が如く振る舞う彼女は軍に捉えられ、少佐に預けられたものの、兵器として使われていきます。
情緒教育の薄い彼女は、美しいという言葉も満足に使うことも難しく、感情などもってのほかでした。
愛もわかるはずもないのです。少佐が一度言いとどめたのも伝わらないなら虚しくなるだけだからだと思います。
しかし、少佐は今わの際「愛してる」と伝えます。
そして、ヴァイオレットは真摯に少佐の「愛してる」の意味を探し続けます。

一般的な「愛してる」の意味ならば、書物を漁れば理解はできるようになるでしょう。
ですが、少佐の「愛してる」は見つからないはずです。
それは、燃えるような恋の対象なのか、家族愛なのか、はてさて隣人愛なのか。
また愛の定義も人それぞれで大なり小なり異なれば、愛の形は環境にも左右されます。
生死が隣接する環境では、優しく対応するのではなく、厳しくスパルタ的に指導するのも愛でしょう。
虚無な日常にちょっとしたイタズラを挟んで迷惑をかけるのも愛でしょう。
ただ逆に、愛という言葉はスパルタ教育のような自身の不道徳な行いを正当化するためにも便利に使うこともできます。
少佐はどのように愛していたのでしょうか。
ヴァイオレットは、一般的な意味の範囲に甘んじることなく、少佐の愛を探し続けます。
それはとても純粋で真っすぐに。

物語はオムニバス形式で、自動書記人形としてヴァイオレットが様々な愛を代筆業を介して経験していきます。
男女愛だったり、家族愛だったり、一般的な愛の定義には当てはまらないような天文台の少年を後ろ押しした話もありましたね。
1つ1つは私たちにとってはどこか陳腐な印象がありますが、真っ白なヴァイオレットには1つ1つが少佐の愛を探すために必要な話です。
そして、おそらく10話の親子の話が一番少佐とヴァイオレットの関係に似ていたのだと思います。

母親にかまってもらえないことを嘆く少女と、子のために将来の手紙を用意する母親。
残される少女の相手をしながら、ヴァイオレットは代筆業として母親の代わりに手紙をしたためる。
少女と母親の構造が、自身と少佐の関係に重なり、彼女はどちらの気持ちも経験し、最後思いかけず涙する。

そして、少佐の母親とヴァイオレットとの話は、いろいろと解釈があると思いますが、私はこう思うのです。

「愛してる」とは心の中で相手を想って生きていくこと。
自身の心の支えとなると同時に、相手を想っている状態。
母親からこのように教えられ、ヴァイオレットは腑に落ちたのでは、と。

思えば、「少佐の命令があれば、どこにでも行ける」と言っていたときから、いやそれ以前からヴァイオレットはずっと少佐を「愛して」いました。
ただ、それが「愛してる」という状態だったと彼女はわからなかった。知らなかったのです。
「愛してる」という言葉が肌でわかるようになって、初めて彼女は少佐の「愛してる」が少しわかったのだと。
言葉や他人の気持ちだけではなく、自身の気持ちを介して。


「violet snow」は少佐からヴァイオレットへの愛の歌です。
最終話まで使われなかったのは、ヴァイオレットが(視聴者も)「少しわかった」のは最終話だからですね。
一部歌詞を引用します。

 She's truly a treasure, peace of mind
 No fears... No more tears...
 Set the sprit free and stay alive
 Oh, dear heart... So please
 
 彼女は本当に宝物で、心の安らぎだ
 恐れないで、もう泣かないで、心を解放して、生きていくんだ
 ああ愛しい人よ、どうかお願い

戦争という非日常の中で、少佐にとって心の支えとなっていたのはヴァイオレットだけでした。
彼にとって前向きに生きていく原動力となっていた彼女には感謝しても感謝しきれなかったでしょう。
そして、彼はヴァイオレットが健やかに、その名に相応しい女性として生きていくことを願っていました。


もう一歩。
ここからは心の支えだけでは済まされない、愛のもう一つの側面について。
私は少佐の「愛してる」は赦しと呪いの意味もあると思うのです。

精神性の高い、女性的な意味合いを含むすみれ色。ヴァイオレット。
彼女にはその名にふさわしい女性になってほしいという願望があっての名づけです。
願望は裏を返せば、暗黙のうちの命令でもあります。

しかしながら、環境も相まって、少佐は彼女にそのような教育を十分に施せませんでした。
単純な感情さえも自身で捉えられない。真逆の状態。
そのように育ててしまったことに対して少佐は自身を責めている。
私は彼女からこんなにも心の平穏をもらっているのに、
私は彼女には何もしてやれていないと。若干独りよがりに。

自身の至らなさを謝罪するとともに、それでもやっぱり彼女にはその名にふさわしい女性になってほしいという甘えから
私は、少佐は「愛してる」と最後に難題をぶつけたんじゃないかと思うのです。
それは伝えずにいられなかった言葉だとしても。
今は伝わらないと彼はわかっているはずです。それでもそれがわかるようになってほしいと。

ヴァイオレットは純粋で真っすぐですから、「愛してる」の意味を探してほしいと暗黙裡に言われれば探し始めます。
それが今わの際の言葉になれば、責務にも感じているでしょう。
彼女が「愛してる」の意味を探し始める動機には彼女の意思が介されないのです。
私はこれは「呪い」だと思います。

愛に、こうなってほしいという願望が付属されると、あるいは愛というものには付属するものなのかもしれませんが、
「呪い」になりうるのだと思います。特に上下関係があると。
10話の親子の手紙だって、子がやさぐれているときにもしも母親からちゃんとしてますか?みたいな内容の手紙をもらったら、目も背けたくなるでしょう。愛が重い。
(そして、もしも従わないと愛されなくなるのかも、と話が進んでしまいがちです)

ここらへんの折り合いを扱った話は、アイリスの話で、
実家に帰ってきて結婚してほしいという両親の願望と、アイリス自身の希望を折り合いをつけてましたね。
「呪い」を解くには自身の意志決定が必要なのだと。そしてちゃんと折り合いをつけないといけないと。

アイリスは断っていましたが、ヴァイオレットは少佐の意思に沿って不殺行為だったり、最終的に自身の名を選んだように見えます。
流れで決まったわけではなく、自身の意思で選び取ったという風に。
そしてただ愛される人形ではなく、一人の女性として歩き出した彼女には命令は不要なのです。

私はヴァイオレットエヴァーガーデンは単に愛を知る物語ではなく、愛に対峙する物語なのだと思います。
愛された分だけ呪いもあるのだと。私たちはそれらにケリをつけなくてはいけないのだと。


ご精読ありがとうございました。



蛇足
「violet snow」をググると本家よりアレンジの方がひっかかるけど、
こっちの歌詞はヴァイオレットが歌い返しているっぽくて良い。

アイリスはアニメオリジナルなんだってね。すごいけど、挿入位置的にめちゃくちゃ意図がわかりずらい気がする。

公開恋文は私も野次馬になったぐらい好きでした。

全体的に24話ぐらいでじっくりとすればなーという印象でしたね。
でも、やっぱり京アニの脚本は好きだなーと思います。

感想の代筆屋ほしー。

投稿 : 2018/07/14
閲覧 : 231
サンキュー:

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