とーとろじい さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
この人(リアリズム)を見よ
バトルものは基本的に見ない私ですが、今作は一話目から惹かれて見ました。
アイヌという政治的に扱いづらい題材を綿密な取材でもって敬意とともに描いているという点はもはや言うまでもないが、強い女性を描くというフェミニズム的にも配慮できている点も本作の特徴であり長所だろう。合わせると(今もなお)迫害されているアイヌという民族でありかつ(今もなお抑圧されている)女性であるアシリパという人物をヒロインに置くことで、この物語は鑑賞者に被差別者の姿を提示してみせる。政治的公平さという言葉があるが、そのような概念なしでも、この物語に伝統的アニメ界と対立する要素を見出すのは簡単だ。バトルものでも伝統的アニメでも女性は男性(主人公でもいいが)の欲望を満たしてくれる都合のいい道具であり、風呂をのぞいたり水着が見られたりと、鑑賞者に向けて女性の性を露骨に差し出し、男性は当然のごとくそれを消費する。そうした描写がゴールデンカムイには(今のところ)全く見られない。また、アイヌ民族の文化も肯定的に描いている。もちろんこの作品がきっかけで着物業者がアイヌの紋様を無断で使い問題を起こしてしまったが、その問題にせよ、アイヌと現在の「日本人」との支配と被支配の関係を意識させてくれたと言える。
そうした現実(現在)の差別問題を扱う本作は、そのリアリティとの接合に加えて、バトルにおいてもリアリティと結びついている。本作には常に誰が死んでもおかしくないという緊張感が持続している。主人公自身も捕らえられたり決して万能ではないし、スナイパーの尾形も何度も死に瀕しているし、鶴見も戦争により大きな傷を負っており、筋骨隆々の牛山も普通にモブに撃たれたりする。死が本作では遠くにあるのではなく近くに、誰にでも起こりうる現象としてある。しかしそれは死が軽く扱われているという意味ではない。死が現実の有り様で在るという意味だ。それは現実のリアリティであり、ちゃんと肉体を持った人間がそこで生きているという生々しさ(生動性)を伝えている。もちろんそれ故に北野映画を思わせるバイオレンスさ(恐怖・おそれ)を感じさせる。言い方を変えれば、差別問題と同様に人の死においても伝統的アニメにおける無反省な描き方をやめ、現実と地平を同じくする場所で物語ろうとしている。それを「配慮」と形容できるし、「リアリティ」と形容できるのだ。またアニメ界(漫画含めて)が持つべき現実に対する責任を果たしているとも言えるのだ。
そういうわけで政治的公平さという概念以上に、リアリズム(明治を舞台にしながら現代の実際の差別問題に取り組んでいる、かつ、人間の生のあり方のリアル・肉体のリアル)という概念の方が似合う本作だが、二期が10月からあるとのことなのでいや〜楽しみですねー。