あんなえりおっと さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
飛ぶことと飛ばないこと
エロゲ版とは登場人物もストーリーも違うらしい。いやまぁそれにしても切ないの何の。眞一郎はずっとひろみのことが好きでひろみもずっと眞一郎のことが好きで、お互いそれをずっと心の中にしまっていたことが、ひろみがずっと仲上家になじめなかったことだとしたら、その原因を作った母親が尚更憎く思える。そもそも何であんな嘘(ひろみと眞一郎が兄弟という嘘)をついたのか明言されておらず、ひろみの母親がどのような人間で眞一郎の母とどんな確執があったのかは明確にしてほしかった、母親がひろみに厳しく当たらなくなったのも今いち理由が分からない。
仲上家の家族の雰囲気は実にリアルであり、仲が特別良くもない、よくある家庭そのものといった感じであるが、物語はそこにはスポットライトは当てず、ひたすら眞一郎の恋愛、人間関係、自分自身に関する葛藤などであり、まぁこれは普通の物語において大体のテーマにされる、まぁこの国らしいといえばこの国らしいテーマではある。
眞一郎は「踊りたくないのは父と比べられるのが怖かったから。絵本を書かなかったのは自分の限界を見るのが怖かったから。」と言っていた。眞一郎は自分の存在についてグラついており、どうすればいいのか分からずにいるのだが、ひろみやのえ、あいこ、みよきち達と関わるにつれて徐々に自分の本当の気持ちを見つけて行く。俺は何ひとつ自分で決めていない。と眞一郎は言っていたが、最終的に、栄光のために絵本を書くのではなく、自分のために絵本を書くという結論に至る。そのことに気付いたことがのえと関わったことによる最大の成長だと言える。果たして成長というものはずっと右肩上がりでつづいていくものではなく、逆戻りしたりもするのだが、眞一郎はひろみと付き合うことによって一気に大人の階段を登ることになるのだと思う。のえ、あいこ、みよきちも強い気持ちを持ってそれぞれが自分の道を歩むことになり、結果的に眞一郎とひろみよりその三人の方のほうに感情移入してしまうが、それも大体の恋愛ものの常ともいえる。(笑)
飛ぶことと飛ばないことは本質的に同じである。飛ぶと選択したことも飛ばないと選択したことも同じ価値があり、すべてはそれぞれ個人に委ねられている。まだまだ彼らは成長の途中であるが、その過程を探っていく少年少女たちの葛藤は、彼らがもがきながらも必死に生きてることを実感させてくれるものであり、そういう葛藤があるからこそ僕らは生きている、生きているからこそそういう葛藤ができるということを認識させてくれる、恋愛もの、個人の成長を描いた作品として極上のものである。