雀犬 さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
仕事と自分と人生と。
児童文学的なほのぼのとしたデザインに、
ドラゴンを自衛隊の戦闘機にしてしまうというぶっ飛んだ設定。
この「へんてこ」な作品は、お仕事アニメでもあるのです。
ドラゴンを体内から操縦するDパイは汚い・きつい・臭い・危険
・・・と典型的なブルーカラーのお仕事です。
でも志願すれば誰でもなれるわけではない、
限られた者だけが付ける職務です。
新人隊員の甘粕ひそねは岐阜基地所属のドラゴン「まそたん」に
気に入られ、「まそたん」の搭乗員に抜擢される。
Dパイになったことでひそねの人生は大きく変わり始めます。
翼はよく才能の例えに用いられます。
何にもなかったひそねにまそたんは翼(=才能)を与えてくれた。
彼女はその翼で自分の世界を広げていく。
職場で浮いている存在だった自分にも居場所ができた。
世界が広がれば多くの人との出逢いがある。
自分を応援してくれる人や仕事について語り合える仲間も出来る。
そしてあろうことか、自分に好意を持ってくれる異性が
現れちゃうかもしれないんです。
ひそねとまそたんの活躍は、働くことで得られる大切なものを教えてくれます。
本作の仕事観は努力や協調性を尊重することの多い
一般的なお仕事ものとは一線を画しています。
ヤンキー隊員の名緒は必死に努力しているのに最後までDパイにはなれないし、
ひそねを指導する柿保飛行班長も、候補生でありながらDパイに選ばず悔しい思いをした。
才能ある者はこうした夢破れた人たちの悔しさや期待を肩に背負っている。
だからこそ「才能ある者は小さくならず、自由に空を飛ぶべきだ」
と本作は主張します。
この考え方は個々の才能が大切なアニメ制作に携わる人たちならではのものだろう。
とすれば、ストーリー後半の中心をなす「マツリゴト」とは
「シンゴジラ」や「さよ朝」のような映画制作の寓意と捉えることもできます。
アニメや映画は基本的に一人では作れない、集団制作で作り上げるアートです。
そこでは多くの才能が必要になる。
脚本、キャラクターデザイン、コンテ、音楽制作といった
個性や創造性が求められる人がDパイに相当する。
彼/彼女らの周りには裏方として働く沢山の人がいる。
そういった支えてくれる人の期待に応えようとする
クリエイター達の個性の競演があって大きな仕事をやり遂げられる。
「ひそまそ」は航空自衛隊の物語ではあるけれども、
実際はクリエイターの仕事の流儀を表現した作品ではないかと思うのです。
じゃあ私たちはどうすれば翼を手に入れられるのだろう?
その答えは第1話ですでに提示されています。
「とりあえずチャレンジしてみる」これしかない。
この仕事は自分に向いているのか、向いていないのか?
この仕事はやっていて楽しいのか、楽しくないのか?
そんなこと、やってみなければ分からない。
――ジョアのイチゴ味だけを飲んでいれば、
オレンジ味もおいしいということに気付かなかったように。
と、ここまでストーリーについて語ってきましたが
全く説教くさいアニメではなく
愛くるしいキャラクターや見る者を飽きさせないコミカルな演出など
遊び心とサービス精神にあふれたとても楽しい作品です。
何から何まで個性的。
好き嫌いがハッキリ分かれる作品かと思いますが、
僕は好きですよこのアニメ。