キャポックちゃん さんの感想・評価
2.9
物語 : 2.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 2.5
状態:観終わった
前半は佳作だが
【総合評価☆☆☆】
ミリタリーとファンタジーの要素がほどよく混じりあっており、前半は佳作と評価できるが、ラストはいただけない。
日本には太古の昔からドラゴン(ないし他の幻獣やあやかし)が棲息し、政治に関与してきた--という設定は、ファンタジーの一類型だが、そのドラゴンが、現代の航空自衛隊で戦闘機に擬態して日々空を舞っているというのは、心躍る空想である。このアイデアは総監督・樋口真嗣によるもの。彼が監督した実写映画『日本沈没』(06年)の撮影中、成田空港で航空ファンとともに次々と離着陸する飛行機を見ているうちに、「もしかしたら、あの中に飛行機じゃないヤツも紛れ込んでいるんじゃないか」と妄想、この話を脚本家の岡田麿里に話したところ面白がったのが発端だという(【インタビュー】特撮映画の名手・樋口真嗣が描く“お仕事アニメ”の本気度。航空自衛隊とドラゴンと…異色だらけの話題作『ひそねとまそたん』エンタメステーション(2018.04.15))。
2014年の日本アニメ(ーター)見本市で発表され、後に長編化されNHKで放映されたアニメ「龍の歯医者」(原案:舞城王太郎、監督:鶴巻和哉、音響監督:庵野秀明)でも、空飛ぶ船に艤装された巨大な龍が登場するので、ドラゴンとメカを合体させるという発想は、ガイナックスで『ふしぎの海のナディア』や『新世紀エヴァンゲリオン』の制作に携わった庵野・鶴巻・樋口が共有する幻想なのかもしれない。
航空自衛隊をフィーチャーするため、所々にミリタリー要素が見られるものの、バトルシーンはなく、むしろメカの極みとしての戦闘機を描くことに重点が置かれており、ミリタリー嫌い(でもメカ好き)の私にも楽しめた。戦闘機の発進や、整備作業でのギアダウン・エルロン調整の描写は、思わず「おぉ~!」と身を乗り出してしまうほどマニアックである。
このアニメを鑑賞する際にポイントとなるのは、ファンタスティックな設定やほんわかとしたキャラデザ(青木俊直)と、岡田麿里による「毒のある脚本」という取り合わせを、受け入れられるかどうかどうかである。私の評価を言わせていただければ、前半では両者がうまくかみ合って楽しめたものの、物語が大きく動く第8話以降は、話の展開が急すぎて脚本が設定から遊離し、それまで作り上げてきた作品世界が損なわれてしまったように感じる。
{netabare} 『true tears』『放浪息子』『花咲くいろは』などに見られるように、岡田の脚本には、悪意がないのに周囲を傷つける、無神経で同調性の乏しい女性がしばしば登場する。他者の心が読めず自発的に行いを改めることはしないが、それでも悪意がないので周囲としては怒りようがない。まことに扱いにくい存在である。
『ひそねとまそたん』では、主人公のひそねが、このタイプである。ふつうの人間には理解されにくいものの、ドラゴンのまそたんと整備士の小此木とは、なぜか心が通じる。ひそねがDパイ(ドラゴン・パイロット)としてまそたんを操縦できるようになるまでを描く序盤、他のDパイとの交流や不和を描く中盤は、かなり面白い。
萌えアニメに登場する女性グループとは異なり、ひそねを含む同僚女性5人は、全員がそろいもそろってパーソナリティ障害を伺わせる変人たちで、男性目線で見ると可愛げがないだろう。だが、彼女らの心情に思いを寄せると、苦労しながら課題をやり遂げる過程に共感できるはず。2クールのアニメにして、同僚女性の描写を何倍かに増やした方が、見応えのある作品になったろう。
1クールという制約からか、岡田は、この路線で話を膨らませることはしない。ひそね以外の描写が不充分なまま第8話で方向を転換、新しいキャラを導入して別の物語を語り始める。残念なことに、新キャラは、具体的な出来事ではなく過去の因縁を用いて性格付けされるため、リアリティに欠ける。結局、終盤では、同僚女性は脇に追いやられ、新キャラは共感できるほど内面が描かれず、訴えかけるものがないまま話が先へ先へと進んでいく。ラスト2話になると、重大事件に直面したひそねら何人かが、くるくると行動方針を変えるものの、その動機について説得力のある叙述がなされない。
実は、終盤でジタバタするのは、岡田の脚本では毎度のことだ。構想力のある脚本家は、話の流れに無理が生じないような落とし所を見つけておくが、岡田は、そこまできちんと考えずに執筆を始めるのだろう。自然と内面が表出される台詞や、キャラの実情を象徴的に表す場面(例えば、Dパイが吐瀉物とともにベトベトになって吐き出されるところなど)には、岡田の才能が輝いているものの、全体的に見ると、骨格のしっかりした物語とは言い難い。『true tears』は、岡田を含む3人の脚本家がローテーションを組んでバトン形式で話を進めたため、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ(第1期)』は、岡田が参加する前に監督らがプロットを練り上げていたため、構成がかっちりした作品に仕上がった。だが、それ以外では、構想力の弱さを感じさせるものが多く、特に、ここ数年のテレビアニメ(『M3-ソノ黒キ鋼-』『迷家-マヨイガ-』『キズナイーバー』『鉄血のオルフェンズ(第2期)』など)では、その弊が目立つ。
時間をかけて作品の構成をじっくり練り上げるという方法論を彼女が会得すれば、日本アニメを飛躍させる大脚本家に成長すると思えるのだが、どうだろうか。{/netabare}