とーとろじい さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
オタク的なるものと一般大衆的恋愛の歪み
奇妙なアニメだった、と言えば失礼かもしれない。しかし本当に奇妙なのだ。
まずこのアニメは、恋愛ものであり、絵も萌えアニメの絵ではない。そして舞台設定は高校。それもヒロインたちは高校三年生で、受験に向かう陰鬱な空気が流れており、その空気を秋と冬の、どんよりした曇り空をもって繊細に表現している。このアニメはどこを取っても丁寧で、繊細で、そして物語自体も決して劇的でなく、よく言えばリアルである。悪く言えば地味だ。ともあれ、私が感じる奇妙さとは、このアニメが絵においても恋愛というテーマにおいても主題歌等においても、非オタクの鑑賞に耐えうる、というよりむしろ非オタクに向けられたアニメである一方、オタク的なるものを包含していることに起因している。
まず写真部の存在。葉月以外の男子二人は恋愛が続く作品内で非モテの典型的オタク像を演じ、緩急をつける(恋愛で張り詰めた空気を和らげる)とともに、皮肉にもこの作品において最も共感できる(もっと言えば最もリアルでもある)存在である。そして部長の葉月の存在。彼女はまさしく変人で、電波少女であり、盗撮して一悶着起こすなど、その愛用するバイクに象徴されるようにどこにでも現れる身軽で突飛な存在である。その身軽さゆえに主人公に接近し、恋愛劇に突撃していくわけで、見方を変えれば主人公と美緒のメインストーリーへ挿入されるサブ的な項である。だから実は彼女もそして写真部も、この作品に必要だったかは疑わしい。実はいなくてもメインストーリーは何とか成り立つだろうし、ある意味変化をつける為に挿入された便宜的存在だ。そして彼女含め写真部たちのオタクっぽさは、このメインストーリーの大衆的雰囲気と微妙に溶け合っていない。
次に、主人公について。主人公・瑛太は転校生であり、女子二人から結果的にはモテている。この点もオタク的なるもの(主人公が無条件でモテる)があるが、若干その通りではなくて、なぜなら主人公の恋する美緒は、過去も現在も自分に恋心を向けてくれはしないからだ。陽斗という名前からして陽キャな存在が、主人公にとってはやや厄介な、美緒の心を奪ってる存在として現れる。だからこそモテモテなわけではないし、オタク的の王道ではないが、いずれにせよ物語は主人公が葉月からも美緒からも求められる点で変化球をつけたオタク的恋愛ものなのだ。そしてまた、主人公の言動は、はっきり言って、物凄く気持ち悪い。彼は無口であり、そして中学以来ずっと美緒を想い続けており、しかしそれを決してはっきりとは言わない。物語において彼は誰にも内緒で(家族にさえ)、美緒の第一志望校を受験しようと勉強する。これは作品内ではおそらく努力するカッコいい主人公を描いてるつもりなのだが、実際のところその行動は美徳ではなく異常であり、ストーカー的だ。彼はオタク的なるものであり、それは彼の英雄的行動(美緒が受験場所へ行けない時駆けつけたり、陽斗に適切なアドバイスをしたり、推薦入学が決まっているのに恋心ゆえに受験勉強したり等)にも現れてはいるが、作品内ではそれは美談であって気持ち悪さの表象ではない。ともあれ、以上の点からオタク的なるものと、大衆向けリアル恋愛ストーリーとが入り混じり、オタク的なるものが出来るだけ隠され、青春の美に覆われている。美緒は陽斗への恋を切り、主人公と同じ大学へ(おそらく偏差値は美緒が最初目指した大学より低いのだが)わざわざ入り、最後は主人公におそらく告白し、見事全てはオタク的主人公が勝利を収め、そこで男性に都合のいい女性像が葉月のみならず美緒にも(美緒ははじめは主人公に恋心を向けていなかったという点で反抗者だったのだが)付与され物語は閉じられる。
このアニメは大衆向け青春恋愛ものの態をなしながら、その実オタク的なるものを内在しており、だからこそ奇妙な(不気味な)アニメなのだ。
あまり批判が強すぎるので褒めるとすると、このアニメはLINEをうまく使えていたし、次期アニメの宇宙よりも遠い場所(PC内の未送信メールをうまく使った)やこみっくがーるず最終回(キャラの不在をLINEで補う)等々挙げればキリがないが、最近のスマホや電子機器を物語にうまく利用する試みとしては、本作は一番上手だった。それに地味なストーリーではあったが、進行を遅くし間延びさせリアルな空気感を見事に伝えていた。
ヒロインたちみんなが恋愛へ向かう、私からすればちょっと恐ろしい(なぜそんなに恋愛したがるのかわからない)空間なのだが、そんな非リアルなおかしさと現実性のせめぎ合いには多分失敗してる(展開が地味すぎて、皆が恋愛に向かう非リアルを隠せてない)ものの、この「地味さ」を裏返し「繊細」なアニメと取るなら、その時、きっとこのアニメはより面白く見られるのではないだろうか。