とーとろじい さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
スピリチュアルの残影と社会に必要な優しさ
このアニメは一言で言えばスピリチュアルに尽きる。神様が出てきて不思議な交流をする、現世から迷い込んできた人間を送り返す等々。このスピリチュアルさは現代のアニメではあまり見られなくなったが、それゆえに新鮮でもある。
大事な点は、主人公の柚の人間離れした(Fateの士郎を思わせるような)優しさ、博愛精神にある。1話では旅館のギスギスした様子(蓮の腹黒さ、皐の冷淡さ)が提示され緊張状態を主人公とともに味わうのだが、その主人公・柚の優しさが次第に皆を朗らかにし、心を開かせていく。その丁寧な描写も見事だが、柚の優しさはこの時期において重要な意味を持つだろう。Twitterやネットの言説は以前の攻撃性(右翼によるヘイト、シールズのデモ活動への冷ややかな視線、痴漢免罪の過度な強調、生活保護受給者への厳しい視線等々)から社会のセーフティネットの大切さ(個人の問題でなくより大きな構造の問題視、ハラスメント被害者の尊重、過労死について死んだ個人でなく会社や国家の問題として捉え非難する等々)へ些細ながら転じてきた。この時期において柚の優しさは、まさに現実社会の被抑圧者、弱者に向けるべき視線として重要視された根源的な優しさの模範、象徴のように捉え得る。これは次期アニメの『ラーメン大好き小泉さん』の主人公にも繋がる。優しさの重要性がこの時期特に意識されていた、というのは私個人の意識に限らないと思う。Fateでは士郎の博愛が英雄化されることで批判的(皮肉的)ニュアンスを持っていたが、このはな綺譚では博愛が全的に肯定される。柚の優しさは旅館というもてなしの場だからこそ要求されていいるのではなく、場に関係なく柚自身の精神性である。もちろんスピリチュアルな世界観が、彼女の優しさに非現実なニュアンスを付与しているのは間違いない。神的なもの、霊的なもの、旅館というもてなしの場、あの世という極楽、等々が柚の優しさを非現実的にしているが、ともかくこの時期のネット言論において重要視された優しさを、このはな綺譚は代弁、或いは具体化してみせたのだ。