たわし(爆豪) さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「ポストモダン」アニメ
「あにこれ」ではやはり不評(笑) やたら難解で暗く澱んだ雰囲気が昨今のアニメファンにはウケが悪い。
しかし、この作品が発表された1985年当時、制作関係者が試写でこの作品を初めて観て青ざめたそうで、理由は「全く売れそうにないから。」だそうだ。この期、押井守は「パトレイバー」で復活するまで業界を干されて冷や飯を食う羽目になる。
この「天使のたまご」は難解ではあるが、デヴィット・リンチ監督作品やヒッチコック、キューブリックなどの映像派の作品を見てきた人にとってはさほど苦にはならないだろう。
この作品で思い出すのはアメリカの画家エドワードホッパーの「ナイトホークス」やイギリスのロマン派画家ジョセフターナーの絵画であり、印象派やシュールレアリズムの絵画類である。つまりは「ポストモダン」だ。
「ブレードランナー」の話をいつもしているが、退廃的な世界観と善悪のはっきりとしない人物像。暗いモノトーン調で、宗教的衒学的な雰囲気は「ポストモダニズム」の特徴であり、村上春樹の小説のような一人称で周囲がぼやけてはっきりとしない印象を与える。
元々は1930年代のハリウッドノワール映画や「カリガリ博士」や「フランケンシュタイン」などのホラーでお馴染みドイツ表現主義が源流にあり、当たり前だがそういった映像に造詣が深い押井監督が知らないわけないのだ。わざとやっている。
普段、アニメのしかも娯楽作品しか見ない人にとっては何が何やら知らんこっちゃないだろうが、そういう芸術に触れてきた人間にとってはまさか「アニメ」でこういったことが許されるなんて思いもよらないことだろう。
現在の制作体制じゃまず作られない貴重な映像作品である。