ガムンダ さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
The Children's Story... (and just for children)
作品概要
超少子化対策に乗り出した政府は、政府によるいいなずけ制度、通称ゆかり法を導入。
高校生になった男女には政府から相手を知らせる通知が届く。
親もゆかり法で結婚した「ゆかり世代」の主人公。
意中の彼女と別な人を知らされた彼は彼女に告白するが、さあ恋の行方は?
と言う物語です。
OP・EDもさることながら、種類豊富な劇伴も中々凝った楽曲でレベル高いです。
さて、「ゆかり法」について。
政府が相手を選ぶのには、幼少の頃からの綿密な調査とデータベースの運用とAIによる演算とを用い、そのシステムの総称は「科学の赤い糸」と形容されます。
この「ゆかり法」に関しては、「まさか」と笑って流せないものがあります。
大昔はまず婚前交渉はNGでした。
次に、学生の分際でSEXをする事は実際相手への思いが一途であるかとか本気であるかとに関わりなく、「不純異性交遊」と呼ばれました。
時代が進むと致命的な性病の蔓延が無視できない社会問題となり、高校で「正しいSEXのしかた」を教える様になりました。
なれば、未来においては、むしろピッタリの似合いの相手をとっととマッチングし、むしろSEXも推奨して早々に家庭を築いて貰おうじゃないか、と考えても不思議ではありません。
また、技術的にも不可能ではないし、実行したとして少子化対策としては採算が合う施策にさえ思えます。
否定し得る合理的理由が見当たらないのです。
社会派を気取った戦隊ヒーローラブコメ「図書館戦争」よりよほど衝撃的なIFなのです。
しかし、このアニメの恐ろしさはソコじゃ無いんです。
観終わった瞬間、戦慄が走りました。
観ている間私ならこうすると思ったのは、まず、想い人のミサキといいなずけのリリナの役を入れ替えます。
想い人は純真で知的で快活で、いいなずけはどこかアンニュイで何を考えているのか分からない。
この方がシックリきます。それでいいなずけに主人公は「政府が決めたんだから」とグイグイ迫られ、想い人と2人駆け落ちします。
結末は闘争の末制度を崩壊に追い込む大スペクタクルか、追い詰められて2人心中の悲劇かどちらかでしょう。
だから途中まではこの物語がどうやって結ばれるか、楽しみで仕方なかったんです。
象徴的な劇中劇、ロミオとジュリエット、
制度の外に居る性的マイノリティのニサカ、
厚労省の職員、ミサキの秘密etc...
さあ材料は揃っている。どんな最後を見せてくれるの?
しかし、観終わって私は根本的にこのアニメを見誤っていた事を思い知らされました。
このアニメはそんなアニメじゃないんです。
こんなに恐ろしいディストピア設定をシレっとしておきながら、中身はクッソつまらんただの萌えハーレムなのです。
他の有象無象のアニメに紛れ同じように消費させようとしているのです!!
アメリカの脚本家、ジェイムズ・クラベルの「23分間の奇跡」と言う短編があります。
社会体制が代わり、子供達に新しい価値観を植え付ける為に教室にやってきた教師、
始めはいぶかしがっていた子供達は言葉巧みに誘導され、純真な心は見る見る思想に染まっていきます。
教師が「洗脳」を終えた時、時間はわずか23分間しか経過していませんでした。
あまりに衝撃的なこの短編を読んだ者は例外なく戦慄を覚え、次には「現実の教育はどうなのだろう」と考え「そもそも教育とは洗脳ではないのか」と考えます。
最後には「所詮自分自身も洗脳されているのだ」と思い至るのです。
この一連の思考は、とりもなおさず作者クラベルの意図する所なのです。
翻ってこのアニメにはそもそもそんな意図がありません。
ゆかり法を否定もしなければ肯定もしません。
原作につづきがあるのか知りませんが、
皆ボヤっと釈然としないながらも、誰も不幸になる者が居ないんです。
(なんなら教師役の厚労省のでかぱいちゃんすら萌え対象です。)
スペクタクルも無ければ悲劇もありません。
我々が生きるこの時代にはもはやクラベルの警鐘を聞く者も居ないのかも知れません。
もし、現実にゆかり法が施行されたら、今の若者達は歓迎するんじゃないだろうか?
選択と決断に関する自由を捨てても素敵な相手が科学的に見つかるなら幸せじゃないか。
そう考えるんじゃないだろうか?
これを観て「萌え」しか感じないんだとしたら・・・
既に無駄かも知れませんが私は老いて死ぬまで抗いたい。
若者よ、不幸になる権利を棄てるな。
飼い殺しにされるより野垂れ死にを選べ。
それが人間の尊厳だからだ。