ぜろろ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
よくある戦争物とは全然違う
なんの気になしに視聴しましたがとんでもない作品でした。
絵がちょっと戦争物はちょっとって人も絶対に観たほうがいいです。
{netabare}この映画の素晴らしさってたくさんあると思うんですが一つにメッセージ性の薄さにあると思うんです(ちょっと誤解を招く表現かもしれませんが)。この話って戦争は絶対ダメなんだ!!とか、愛があればなんでも乗り越えられるんだ!!みたいな強いメッセージ性、別の言い方をすると説教臭さみたなものがありません。じゃあ薄っぺらい映画なのかと言われるとそんなことは全然なくて。戦争という狂ったことをしていた最中、こんな風に考え、感じ、確かに生きていた人がいたんだよっていうのが、細かく丁寧に描かれている、これがこの映画の肝だと私は思います。戦争はバカなことだ、虚しいことだなんてのは言われるまでもなくわかりきったことです。でも戦争ってのは今も起こっているし日本でも実際起こったことなんです。じゃあそんなバカなことをした当時の人々って洗脳にでもかけられて狂ってたのかっていうときっとそんなことはなくて。作中ではたびたびコメディっぽい描写がありました。心のどこかでおかしい、辛いと思いながら、当時は笑って少ない配給でどうにかやりくりして生きていくしかなかった、大切な物が次々と無くなっていっても毎日腹は減る、養う家族は存在する、そんな中生きていくしかなかった当時の人々の生き様。この作品では説教臭さなしで、すずの日常としてそれらが淡々と描かれています。こういう人がこの世界の片隅にいたって事実が大事なんだと思います。忘れてはいけないし、見ないふりをしてもいけない、なかったことにしてもいけないんだと、あえて言うならばそれがこの作品で一番伝えたかったことなのかなと私は思いました。
主人公であるすずというキャラクターもこの作品の大きな魅力の一つです。このすずというキャラクター、終始周りに流されて生きていきます。現在よく描かれる強い女性像って、周囲の声に負けない強い意志を持ってて自分で自分の道を切り開く、みたいのが多いと思います。もちろんそれも強い女性像、人間像としての一つの答えで間違いないと思います。じゃあすずみたく本当は好きな絵を続けることもできず、勝手に嫁ぎ先を決められて、といった人生を否応なく送った女性って弱々しいかわいそうな存在だったのでしょうか?作中コメディっぽい描写が多かったこともあり、すずが悲壮感に溢れている印象は受けませんでした。あんなに悲惨な状況なのに『まあそんなもんじゃろ』と言って彼女は笑って日々を過ごしていきます。たんぽぽの話がありましたが、流された先に根付き生きて行くってのも一種の強さだと私は思います。魚数匹だけ配給でもらってこれで家族全員食べさせていかんといけない、少ない配給だけどこれで家を切り盛りする、それが私達の戦場だと。こんなこと弱いかわいそうな人間にはとてもできないと私は思います。戦争も終盤に入り身も心も疲弊しきった状態にも関わらず、家に落ちた焼夷弾を体を張って消そうとするシーンがありました。そこには何があっても家を、家族を守ろうとする女性の強さを感じました。すずというキャラクターは最近見落とされがちな部分の女性の強さをもった魅力的な存在だと私は思いました(のんの演技も良かったですよね)。
あとは話の構成も魅力的でした。この話、失恋してそのトラウマを乗り越えるためにとか、夢があってそれを叶えたいとかが出発点ではありません。繰り返しになりますが当時あたり前のようにそこにあった日常を主人公がただ生きていくのがこの物語です(原爆が落とされる日に向かってカウントダウンはされますが)。戦争物ってどうしても説教っぽくなったりお涙頂戴劇になりがちです。それを上手に排除した仕掛けの一つが当時の日常をコメディ風に淡々と描くこの話のスタイルだと思います。もちろん本当にどうしようもなく悲惨な目にあって絶望してた人もいたかもしれない。でもすずみたいな人生を送った人も確かにいたというのも事実。あえてそこにスポットを当てることでわざとらしくないなるべくリアルな、当時の民間人にとっての戦争を描くことに成功したのがこの作品だと思います。{/netabare}
この作品を見た時、悲しいとも感動とも違うただただ言葉にできない、胸がいっぱいになる気分になりました。私の語彙が足りないってのもあるかもしれませんが戦争を経験してない私はこの気持ちを言葉にするってのは到底無理なのかもしれないと感じました。だからこそあえて強いメッセージ性を排除しつつ当時をリアルに描いたこの作品は胸に迫ったのかもしれません。