「虐殺器官(アニメ映画)」

総合得点
74.2
感想・評価
252
棚に入れた
1857
ランキング
934
★★★★☆ 3.8 (252)
物語
3.8
作画
4.0
声優
3.8
音楽
3.7
キャラ
3.6

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ネタバレ

ヌンサ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

仕事は人間の良心を麻痺させる

後で気が付いたのですが、今作は「ハーモニー」より先に書かれたのですね。結果
「ハーモニー」(アニメ)→「ハーモニー」(小説)→「虐殺器官」(小説)→「虐殺器官」(アニメ)
という謎の順番で作品を見てしまいました(笑)

小説の感想は、映画の引用などが多くて、まるであにこれのレビューにおける自分を見ているかのようで、何故か少し恥ずかしくなりました(「オレ、映画とかめっちゃ詳しいぜ!」という厨二病的な)。
もちろん、伊藤計劃さんの知識量は僕と比べ物にならないほど多いのですが。

登場人物のビジュアルは、映画のポスターをちらっと見たことがあった程度でした(多分あれがクラヴィス・シェパードだろう、と)。なので、ジョン・ポールが思っていたよりも普通の人でした
(小説を読んでいるときは、なぜか攻殻機動隊の合田一人を頭に思い浮かべていましたw)
櫻井孝宏さんは相変わらず櫻井孝宏さんでした(誉め言葉)。

本編のレビューに入りますが、原作小説に倣って説明が非常に多いです。モノローグや会話は説明だらけです(笑)。
しかし、攻殻機動隊シリーズなどでは省かれてしまいそうな部分まで丁寧に説明してくれるので、その手の作品が苦手な人でも楽しむことができるかもしれません。小説を読んでいないと、何が何だかわからないシーンも多少はありましたが。

カフカの墓に石を置くシーンは、「シンドラーのリスト」でもお馴染みのユダヤ人の慣習ですね(映画詳しいぜアピール)

クラヴィスが、ルツィアやジョンと言語について議論するシーンは今作のハイライトであり、最も興味深いポイントです。僕も小説を読んだ後、思わず(買うだけ買って読んでいなかった)言語学の本を読んだほどです。

"思考は言葉に既定されない"のでしょうか。英語など多くの言語は、主語のすぐ後に述語(動詞)があります。つまり、結論を文章の序盤で提示しなければならない→白黒ハッキリした思考回路になる
偏見かもしれませんが、帰国子女の方のステレオタイプでもあります。
対して日本語は、基本的に述語が文章の最後になることが多いです。
それが、日本人のあいまいな性格の所以と考えることもできます(※)。
ただこの問題は、「言語が先か性格が先か」という話に行きつくわけですが・・・。

そもそも僕がこの作品を見るきっかけになったのは映画「メッセージ」ですが、{netabare}"虐殺の文法によって思考が変化する"という設定は、「メッセージ」において{netabare}"宇宙人の言語を取得したことによって、主人公が未来を見ることができるようになる"設定{/netabare}と近いものがありますね。伊藤計劃さんは、生前「メッセージ」の原作小説を書いたテッド・チャンさんと親交があったようなので、小説はもちろん読んでいたでしょうし、少なからず影響は受けていたのかもしれません。{/netabare}

{netabare}"虐殺の文法は食料不足に対する適応"{/netabare}という説が、物語のクライマックスで語られます。
この説と似たことを、富野由悠季監督が確か{netabare}「機動戦士Vガンダム」{/netabare}のナレーションで語っていたような気がします。
{netabare}「人類が戦争をするのは本能なのかもしれない」{/netabare}的な。
{netabare}人間は、定期的に戦争をすることで人口を調節しているのでは?ってやつですね。{/netabare}

{netabare}ウィリアムズがルツィアを殺した理由は、ある意味トランプ大統領と同じ考えです。メキシコ国境に壁を作ることで、自分たちだけ助かればいい、と。最近、世界規模でも分断が進んでいます。イギリスのEU離脱・移民問題(移民を全く受け入れない日本・・・)etc。伊藤計劃さんがご存命だったら、果たして何を想ったでしょうか。{/netabare}

"二つの世界"についての話、という意味では
{netabare}「機動警察パトレイバー 2 the Movie」における平和な日常と非日常{/netabare}も思い出されます。

色々なものを天秤にかけた結果、我々は"見たくないものは見ない"生活を選択しています。飢餓国がある中、毎日捨てられるコンビニ弁当・屠殺を見ることなく肉を食べ・水洗トイレは、見たくないものを一瞬で視界から消し・霊柩車のデザインは地味にモデルチェンジ(日常から"死"を遠ざける)←養老孟司さんが本で言ってました(確か「死の壁」)

偉そうなことを書きましたが、僕も選択したひとりです。した方が良いことは分かっていても、寄付とかをするわけでもありません。レビューを書いてて、なんだか辛くなってきました。

小説の最後で匂わされていた
{netabare}"クラヴィス・シェパードが大災禍を引き起こしたのでは疑惑"{/netabare}のシーンは描写されていませんでした。

今作でも「ハーモニー」でも、決定的な部分はあいまいな表現にとどまっています。伊藤計劃さん自身が生前語っていたようですが、「答えは見つけられなかった」そうです。もし生きていたら・・・と思わずにはいられません。

ついに読む決意をして「屍者の帝国」の小説は購入しました。
近い将来、読むことになるでしょう(読んでいない本が山積みなのです・・・)



(※)以下の動画を参考↓
https://www.youtube.com/watch?v=NuHIbSw5BHY





P.S.劇中のアメフトの実況を、日ハムの試合でおなじみの近藤祐司アナが担当されていたのは、
野球好きとしてはめちゃくちゃテンションが上がりました(笑)

投稿 : 2018/05/30
閲覧 : 402
サンキュー:

8

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