Dkn さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
(長文失礼)よくわからないグランクレスト戦記の魅力
【グランクレスト戦記、端的なまとめ】
何が悪いって、恐らく原作からの抜粋が下手くそなのです。後半から少しずつ面白くなるものの、序盤に感じた違和感はそのまま続くのでダメならダメで諦めましょう。視聴を続けている私は最初に本作を好意的に見た前提があり後半まで楽しめているので、視聴する方はご自身の目を信じて下さい。全編通して「説明不足」で、逆に「口頭での説明が多すぎる」ためにダイジェスト気味で引っ掛かりを感じるストーリーが感情移入しにくく、妙な演出に困惑することもしばしば。王道の盛り上がりばかりを期待せず陰鬱な話も愛せる人や序盤で人物に魅力を感じた人は問題ないので、溜めに溜めた終局へ向け期待しましょう。
【構成】
前半を人物や勢力図を説明するために使い、主人公やヒロインの立場の移り変わりや主要人物との関係を見せ後半のための布石を打っていきます。序盤は群像劇として淡々と進み、クール終わりに本作でも指折りの見せ場が来た後、用語説明の総集編が入った後に物語は大きく動きを見せ始めます。
【ゲーム的な設定】
選ばれし者に与えられる〚聖印〛と言われる“カリスマ”の塊のような印を集めることが目的の卓上ゲームを想像して下さい。ルールは『陣取り合戦』+『ポイント(聖印)強奪』ゲームで、最終的にポイントをすべて集めた方が勝ちです。更に『登用』システムもあり、良い人材が居たなら、“説得”や“懐柔”、“政治的交渉”など様々な方法で自陣営に引きこむことが出来ます。本作はTRPGにもなっていますし、そう見ると分かり易いかも?
【戦闘】
戦争なので残酷描写も多い。戦闘で活躍するのは、戦闘員と軍師も兼ねる、魔法師(メイジ)。個の戦いに長けた前衛の要である、邪紋使い(アーティスト)。彼らや聖印を持つ君主の力が突出しており、一騎当千の戦いが多くなります。「個」の戦いばかりでは無く「集」の戦いをもっと見せて欲しいですが、2クール内で中心人物を目立たせるには効果的でしょうね。…流石に船が千隻出てきた時の描写は「ファンタジーだから……この世界はそういう世界だから……」と、自分を納得させるしかありませんでした。アニメは尺の問題や演出のミスマッチが原作の粗を際立たせた気もします。設定を飲み込んでしまえば面白いのですが、11.5話の総集編が来るまであまり理解できなかったという方も多いのではないでしょうか。(私も半分くらいしか理解してないです)
【戦いの中での恋愛模様】
物語は何者かの策略により二大勢力を取り持つための婚姻が失敗し、勢力をまとめる両大公が命を落としたことで従属を誓っていた君主たちが独立し群雄割拠の時代へと突入するところから始まります。この、――仕掛けた何者か――に対して望まない形へ持って行くこと‥、つまり再び婚姻を結び首謀者を炙り出せば良いのに、下手に恋愛婚であった為に俯瞰的に大局を見られない当人たちと、周囲の思惑が複雑に絡んで上手くいかないですね。
本作通しての問題は、“何者かの策略”を受け婚姻を解消したアレクシス(王子)とマリーネ(王女)が互いにすれ違うことによって連合側と同盟側の関係が修復しないままである事。政略的に有効な婚姻の結び直しを選択肢から早々に外してしまいます。結び直せばいいだろうと思いますが、歴史を鑑みると単純では無く物語の大きな謎も関係するみたいです。マリーネは彼との関係を利用され父を殺された事を後悔し、望まれていない結婚ならすべきでは無いと心に決め、アレクシスは彼女の為ならすべてを捨てても良いと思っているが、周囲の打算や感情論に謀略が混ざり代表の立場から降ろしてくれないジレンマがあります。傍から見ていて余裕の無さ過ぎる王女と煮え切らない王子。この二人が旗印となる為に視聴者の目に悪く映りがちですが、あながち間違いではない(笑)第一話で、力ある選ばれし者に渡されるはずの聖印が世襲制になり適性のないまま君主になってしまう危険性を説明しています。歴史に見る世襲による政治の腐敗が聖印(クレスト)という形になっただけなのですね。王女も王子も生まれさえ、時代さえ違えば他の才で秀でた人物であったでしょう。
二人の問題はシナリオ内でかなりやっかいで、{netabare}特に王女(女王)は9話で父の威光(聖印)を失い崩壊していく同盟を守るため騎士道に反する虐殺を行い、陣営を勝利に導くため敵対する将を引き入れる条件として自身の純潔を散らせる始末。この9話では前半に主人公とヒロインが結ばれ後半に王女が純潔を散らされるので、某所ではグラ◯◯◯戦記なんて茶化されていましたが、それくらいふざけないとドツボにはまっていく王女を見ていられなかったのでしょうね。
このカップルと対照的な立場にいるのがテオとシルーカで、理想的な主従の恋のひとつ。ヴィラールとマルグレットしかり、作中で愛の形がいくつか描かれることが本作の見所でもあります。しかもほとんどがカップリングを持ち、主従の信頼、家族愛、対立関係を含め二人で対になる人物が多い。不満な点は愛の形をすべて口頭で説明してしまうので、もう少し視聴者の読解力を信じてセリフを入れず演出や表情の演技で見せてほしいなと恋愛ジャンルも嗜むオッサンからすると思うのです。{/netabare}
【最新話までの雑感】
{netabare}後期OP、ED良い。ヴィラールとマルグレットが命を賭して戦った11話から少しずつ面白くなってきて、黒魔女との戦いで特徴的な原画のよく動くシーンもあり、試行錯誤している事がわかります。テオがミルザーとの戦いで見せた冷静さで君主として成長しているのもわかりました。反面、後半に来てもシーン毎の尺が取れずアッサリしすぎて太鼓判を押して良作とは言い辛いのが悔しいところ。{/netabare}
【ナレーション】
考えてみれば10巻分の文章量を2クールアニメに構成してくれなんて言われたら泣きたくなるでしょうね。うーん‥、どうすればもっと違和感なく観られるのでしょうか。‥例えば第二話で用語解説を入れ世界観を馴染ませ、随所に大河浪漫でよくある国同士の勢力図や現在地を示すための地図を出し、状況説明のためにナレーション多めの構成にする。これで作画の省略にもなりますし人物の説明口調も少なくなり、視聴者にも伝わりやすい気がします。ナレーションは人物が口頭ですべてを説明せずに済むので、16話「前哨」の、エドキアとラウラの違和感がある会話などを解消できないだろうか。‥‥と、ここまで考えて、これらを踏襲している「魔弾の王と戦姫(ヴァナディース)」を思い出しました。ヴァナディースの監督、佐藤竜雄さんはもっと複雑な事をやっているのでしょう(わかっていない)
例:16話「前哨」{netabare}エドキアとラウラの会話。本来は内容を全て人物が説明し実践編へと移ります。これを少し変えて
「エドキア様‥、そのお召し物を
……脱いで頂けないでしょうか」
>ラウラの進言に戸惑うエドキア
(シーン転換)
>王城中庭の階段を降りてくるエドキアとラウラ
>驚きざわめき出す兵士たち
《回想》
「……どういうこと?」
>訝しげな顔をするエドキア
>頭を垂れた後、真っ直ぐ見つめるラウラ
《ナレーション》
ウルリカ率いるノルドの大船団に追い詰められるエドキアにラウラが提案したのは、略奪される前に国庫を開き物資を樽に入れ海へ流す作戦だった。この奇策により略奪者であるノルドは興を削がれウルリカは進軍を止めた。だが、やがて物資も尽き目の前の敵に挑まねばならない時が来る。背水の陣へ挑む兵士を鼓舞する為にラウラが進言したのは、女王自らが豪奢なドレスを脱ぎ裸になり、物資のない追い詰められた戦況を兵に伝えるという突拍子もない策だった。
「私に人前で裸になれと?」
「――はい 皆、奮い立つことでしょう」
>海を見つめ少し逡巡するエドキア
>最愛の人を想いながら喋り出す
「‥ここで諦めたら‥‥、私とハマーンのために
死んでいった夫達に‥申し訳が立たないわね」
>恥ずかしそうに前へ踏み出すラウラ
「‥私も‥‥お伴させて‥いただきますので」
(王城中庭での演説へ)
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ナレーション中の映像で樽を海へ流す描写やノルドの大船団を入れて補完。よく見る省略ですが、全体的にこれくらいバッサリで良かった気もします。
{/netabare}
ナレーションをやらなかったことが本作の特徴とも言えるし、正解なんてありませんから、アニメ「グランクレスト戦記」の魅力を最後まで届けて欲しいです。頑張れ!!応援しているぞ!!!
【用語メモ】
{netabare}
混沌(カオス)
自然法則を歪め世界を乱す因子のこと。濃度が高くなると悪魔などの人外が現れる。
聖印(クレスト)
混沌を浄化する印。階級が存在し(皇帝、爵位、騎士階級等)大きいほど高位になる。譲渡や、奪うことも出来る。
皇帝聖印(グランクレスト)
聖印を束ね統合することによって出来るこの世の秩序の結晶で、あらゆる混沌を鎮める。
戦旗(フラッグ)
聖印の強制力を使い人間の能力を鼓舞し高める。聖印の大きさで効力が違う。
大工房同盟(ファクトリー・アライアンス)
大陸東側の国々。軍事連盟。主人公側の勢力。
幻想詩連合(ファンタジア・ユニオン)
大陸西側の国々。国家連合。敵対勢力。
魔法師協会(メイジ・アカデミー)
魔法師の養成や互助を行う歴史のある組織。技術や知識の保有に多くの特権を持ち、大きな権威を持つ。
君主(ロード)
聖印を持つ者。仲間の強化や回復を行い、混沌を鎮めることが使命とされる。
魔法師(メイジ)
混沌を制御する魔法を扱い君主を助け、政治や軍略にも関わる。ほとんどが魔法師協会に所属している。
邪紋使い(アーティスト)
混沌を自身の体に取り込み肉体強化した人間の総称。紋様として体に混沌が刻まれ、異形に変化する者も。
{/netabare}
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