HG anime さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
人類の歴史がまた1ページ
※ネタバレレビューですのでネタバレを多く含むことに注意してください。タグで隠してません。
国内外でとても評価が高いのでかなり前から気にはなっていたんですが、かれこれ30年も昔の作品だし、第一に110話もある長編作品なのでなかなか視聴に踏み切れなかったんですよね。あらすじ見る限りでは世界観や設定はすごく好みだったんですけどね。数年前に試し見してみたんですが、遠方の艦艇は点でしか描かれていない作画は、最近のアニメに慣れた目ではなかなか馴染めなくて数分で切り上げていました。そして月日は流れ、今期ついに銀河英雄伝説のリメイクである『銀河英雄伝説 Die Neue These』が始まりました。リメイクの1話を視聴し終えた瞬間に旧作の銀河英雄伝説の映画を視聴することを決めましたね。そして映画の第一作と第三作を視聴してついに旧作の110話すべてを視聴することを決めました。ちなみに原作は読んでませんし、外伝と劇場版2作目はまだ未視聴です。
物語は銀河全体を舞台に政治軍事両面で非常に動的に展開される一方、個人や市民レベルでも非常に細かく繊細に作られている。民主主義体制の自由惑星同盟と専制君主体制の銀河帝国という2大勢力がしのぎを削る様、ヤン・ウェンリーとラインハルトという2人の非凡な人物の対峙模様が物語のほとんどを占める。この作品はもちろんSFだけれども、非常によく作られているのでもはや未来の人類史を見ているような気にすらなる。核戦争、核戦争後の地球統一政府、FTL技術の確立、地球以外の惑星への居住など、いまだ想像の域を出ないけれど起こり得そうな話の先にこの物語は描かれている。好きな人にはたまらないでしょう。そしてこれらの設定は作中で度々ナレーションがある上に、詳細に語られる回もある。一方でルドルフ1世が民主主義のなかから独裁者となり帝国を築き上げてしまう様などは、まるでヒトラーなどの伝記を読んでいるかのような気になるし、ヤン・ウェンリーの用兵術や政権(ヤンの場合は民主主義)への愚直なまでの忠誠はまるでベリサリウスのよう。民主主義や絶対王政それぞれについて描かれているそれぞれの利点や欠点はおよそ歴史に実例がある。歴史は繰り返す、を地で描いている。繰り返される人類史が描かれているとはいえ、上述したSFの要素が加わっているので世界史に知識がある人でも新鮮に楽しめる物語である。そして力関係の描き方が素晴らしい。それも政治軍事両面ですばらしい。フェザーン自治領が同盟と帝国をバランスよく潰しあって漁夫の利を得る様子や、方や個人の権力争いや利益調整まで現実味を帯びているのは戦慄極まる。軍事的にも戦力分散などはランチェスターの法則(戦力分散の愚を方程式で示す、用兵の基本中の基本)などを考慮しつつ状況によってあえてしているように見えるし、各将軍の力量による戦術的な優劣の変化まで違和感ない。ゼッフル粒子というものの存在によって、宇宙機雷の除去を含めて戦術面でも宇宙戦闘に面白みが出ているし、ビームライフルだと誘爆するということで中世のころのような白兵戦の理由にもなっているのがよく考えられている。星系の自然状況を利用して用兵にあたっているシーンもたまに描かれいているが、これも面白い。物語のどこに文句をつけたらいいのか考えたが、悔しいが思いつかない。1話もつまらない回がないし、回収していない伏線や破綻している点もない。
ちょっと脱線。スルーでOK→{netabare}物語の最後に、歴史を悔い改めなければ歴史は繰り返すという話があったが、だれでも同感するのではないかなと思う。でもそれは正しいのだろうか。ヤン・ウェンリーやラインハルトの政治的な持論はとても重厚で、彼らの独り言ちや他人と話しているシーンはそれだけでもなんとも面白いわけだが、彼らの意見は現代までの世界史や歴史上の人物の考え方でおよそすべて踏襲できる。彼らは賢くて歴史にも詳しいがそれでも遠い未来で彼らは歴史を繰り返しているわけで、たぶん実際今後も戦争はなくならないだろうし政治も10番煎じ100番煎じを繰り返していくのだと思う。人類が不老不死だったら歴史は覚え続けられるかもしれないけれど、同時に恨みつらみは世代交代でリセットされないから戦争は続くかもしれないし、戦争に疲れて休戦しても何百年後にまた戦争が始まるのが関の山だろう。また実際のように世代交代によって命をつなげば世代によって禍根は薄らぐかもしれないけれど、戦争の記憶も含めて全ての知識はリセットされるので学びなおさないと脳みそに知識は入ってこない。第一、もし人類全員が世界史をすべて知っても戦争がなくなるかというと疑問である。それでもやはり歴史を知ることはいくらかの選択の誤りをしないようにできるので有効だと思う。ヤン・ウェンリーやユリアンが歴史を愛して自分たちの歴史を書き綴ったのは有意義で立派なことだと思う。しかし私は人類史から戦争は絶対になくならず、平和は戦争と戦争の間の休戦期間にすぎないという考えに残念ながら同意する。歴史を悔い改めても歴史は繰り返すのかもしれない。{/netabare}
音楽はクラシック音楽の名曲の名パートを、シーンの雰囲気に合わせて使っている。贅沢。OPやEDも大人な感じですねぇ。歌で一番印象的なのは『歓送の歌』ですね。76話「祭りの前」エンディングでのこの曲の醸し出す雰囲気のなんと甘美なことでしょうか。全話見た後にこのシーンだけ見返しましたけど、優しさと切なさで胸がいっぱいになりましたわ・・・。
キャラと声優は言うまでもなく最高。伊達に『銀河声優伝説』などと言われていませんなこれは。今までそこそこアニメ見てきたから知ってる人ばかり。でもこの作品の時点ではその人たちがまだ当たり役をつかむ前だったりするのがまた面白い。あ、あの役の人だな、というのはわかるんだけど、この作品の時点ではまだその役の人じゃないというねw この豊富な登場人物それぞれをよく描けているし、よく熱い演技で声を当てている。
作画はもしかしたら最初はあまりきれいに思えないかもしれない。でも人物画は私はリメイクのほうよりも旧作のほうが好きである。表情や髪の毛の描き方は丁寧だと思うし、戦闘シーンも何万という戦艦の戦闘陣形や動きがしっかり立体的に分かるように描かれている。たしかに遠方の艦艇は点であり、しかも筆でチョンっとやったような点であることもある(笑)。一方で何千何万という艦艇が宇宙空間に布陣しているので点に見えるのは現実味があるとも思える。だがやはりリメイクの1話や2話の戦闘シーンを視聴してしまうと、これについては最近のCGを駆使した作画に軍配が上がる。真近の艦艇と点に見える艦艇の間の距離にある艦艇までしっかり艦艇のシルエットで小さく書いていればより最高の作画なのだが、さすがにそこまで言うとたとえ現代のアニメであろうと酷であろう。また、宇宙戦艦は現代の原子力空母の2~3倍の大きさがあるが、この艦艇の大きさを感じる描き方という点でもさすがにリメイクのほうがその大きさをひしと感じる。今期始まって、しかも結構本気で作られているリメイクと30年前の作品を比較するのは無粋なことだが、参考程度にしてもらえると嬉しいと思ってあえて書いておく。いろいろ言ったが、30年前の作品だということを考慮しなくても十分に見れるどころか、銀河や星系や惑星とそこに住まう人々、戦闘シーンともに立体的で丁寧な作画だということは声を大にして告知しておきたい。戦闘シーンやテロの現場などでグロいシーンも多くあるが、これも私は好感が持てる。
まぎれもない超神作。レビュー活動無期限休止しているが、あまりにもよくできた作品なので例外的にレビューしてみた。
歴史は歴史のままであり、色あせることは未来永劫ない。この作品は今までに繰り返された歴史であり、これから繰り返される歴史でもある。ぜひぜひ多くの人に視聴してほしいものですね。