yuugetu さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
手紙を通して自分と人の傷を癒す物語
2018年冬放送のテレビアニメ。全13話。
小説原作。未読です。
第1話のみ放送時に視聴し、それ以降は最終話放送後に一気見しました。
設定に甘い部分はありますし、戦争に関係する描写も多く死者が何人か出ていますが、テーマや物語はとても良かったと思います。
ストレートに感動系の話が多くて、自分が涙脆くなっているのを大いに自覚しましたけどw奇をてらった展開が少ないのが良かったです。そして何より、主人公が学び自分の心を癒していくのと同時に相対する人の心も癒していくのがとても爽やかな作品と感じました。
作画凄かったですね。よく最後まで保たせたなあと思います。画を作り込みすぎていると見ていて疲れることもあるのですが、テンポがゆっくりめなおかげで無理なく見られました。
演出と感情表現がとても良かったと思います。ちょっと泣かせに来すぎてるシーンもありましたが。
音楽は質は高いですが、ずっと流れているのが気になりました。アニメーションの質が高いのだから音楽は少なくしても十分だと思います。
効果音がすごく凝っていたのはとても良かったです。つい音量を上げて見てしまいました。
【ヴァイオレットの成長について】
{netabare}
ヴァイオレットの成長を描く上で、ヴァイオレットと各話の登場人物たちは「鏡写し」であることが見て取れます。
登場人物たちにヴァイオレットと共通する部分を持たせ対比することで、感情を表現する言葉を知る。その時ヴァイオレットが手掛かりにするのが、自身が抱く少佐への想いです。
ヴァイオレットと少佐の関係は、上官と部下にも親子にも恋人にも見え、色々な愛情を内包していると感じます。二人の関係は「これ」と断言できないからこそ、出会った人の大切な誰かに対する想いにヴァイオレットは何かしらの共感を抱くことができる。
代筆を依頼する客は、ヴァイオレットとのやり取りの中で自分の本当の気持ちを知ることになります。容易には受け入れられなくても、忘れられなくても、その気持ちに相対した時点で心の整理が始まる。
ヴァイオレットの中に、手紙を送る相手に対する自分の本当の心を見るわけです。
それを代筆することで、ヴァイオレットが感情を表現する術や言葉を知っていく物語なのですね。
そしてヴァイオレットにとって、ドールという職業はただの代筆業ではありません。
養成学校の話、ローダンセ教官の言葉も本当に良くてとても好きなんですが、それがヴァイオレットの血肉になっていると感じたのが第5話です。
「相手の本当の心が知りたい」と言った王女のために、相手方に掛け合ってまで自筆の恋文を書くよう促したのは、代筆そのものではなく人の本心を掬い上げることこそドールの役割だから。養成学校の卒業の証であるブローチをアップにしていたのはそういうことだと思います。
ヴァイオレットは人の心を理解するのは難しいと言いますが、全部解る人なんて絶対に居ないし、自分の心に気付く方が難しい場合さえある。だからドールがいるのですね。
そしてもう一人の売れっ子ドールのカトレア。彼女は人生経験の豊富さから上手に客の心を汲み取ることができる。ある意味まっさらで客にとって鏡のようなヴァイオレットとの対比には面白味があるなと思いました。{/netabare}
【残された人達の物語】
{netabare}
第11話以降はヴァイオレット自身が少佐の死を乗り越える物語で、個人的にはここまで踏み込んだからこそ高く評価できると感じています。
第10話と第11話は、大切な人が亡くなって気持ちのやり場が無い人に、手紙を届けることでそれを得る機会をもたらしたエピソード。けれども、それはヴァイオレット自身は得られなかったものでした。
少佐の言葉はヴァイオレットの心の中にしか無く、今となっては少佐の本当の気持ちはわからない。でも最終話で少佐のお母さんに同じことを言われて、人の気持ちに対して理解を深めたヴァイオレットは少佐の言葉の意味を改めて知ることになりました。
大佐もまた弟の死を乗り越えられずにいて、その点はヴァイオレットと同じでした。彼女の成長を目の当たりにして初めて、弟の心が彼女の中に生きていること、彼女に対する深い愛情を知ったのですね。
大佐の最後の言葉は、少佐と大佐自身の願いであり命令でないことが今のヴァイオレットにはきちんと伝わっていました。
二人はお互いに辛い心情を吐露し合ったことで、やっと傷を癒しつつあるのだろうと思います。
実は義手であることには意味があるのか、ちょっと考えていたのですが(両手を失う描写が結構大雑把に感じたのと、ヴァイオレットが強いのは全然良いけど義手が頑丈すぎてちょっと笑ってしまったのでw)戦後に手に入れた義手だけは血に汚れていないから…なのかなと。
武骨で頑丈な義手は人を救い、人を結ぶという描写を徹底していて、特に第11話で亡くなるエイダンの手を握る義手がとても温かく見えました。義手は人を守るという描き方を一貫していると思えば、無茶な描写もそこまで悪くはないなと。
航空祭は手紙ばらまくの何故かなって思ったけど、灯籠流しと同じようなものと気づいて凄く納得。本作のこういう所とても好きです。{/netabare}
【気になった点】
一部の設定の甘さが勿体なかったですかね。
{netabare}
郵便社の描写で気になる所がいくつかありました。
ドール、華やかな服装、訪問サービスという単語から派遣メイドや水商売を連想した…自動手記人形という呼び方の理由は説明されていましたが、ちょっと好きではないです。この職業に女性のほうが向いているのは納得いくけど、男性のドールが登場しないため、男性客に旦那様・女性客に奥様という呼び方をするのも気になってしまいました…お客様で良くない?
そしてベネディクトが配送業に向かないハイヒール履いてるのは何故なんだw
根本的な所なんですけど、子どもを武器として育てる背景がちょっと不思議。子どもを持つ軍人もたくさんいるはずなのに、少佐以外気にしてないような描き方なのも気になりました。
それに弟の情の深さは知っているだろうに、少佐に少女兵を渡した大佐の行動もよくわからない。
あと欲を言うと、エヴァ―ガーデン夫人への謝罪後に仲良くなった様子も見たかったかも。{/netabare}
一気に見たので全体を俯瞰して見られたからかも知れませんが、最初の感触よりもずっと楽しめました。
上手く噛み合っていないと感じる点はありますが、とても良い作品だと思います。(2018.5.17)