たわし(爆豪) さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
安彦良和が考える「ガンダム」という叙事詩
富野由悠季という監督は良くも悪くも説教臭く弄れたアニメ監督であり、子供向けにおけるロボットアニメのツッコミどころを極力排して、現実的な理屈を盛り込みながら「権力嫌い」や「人間とはこうあるべき」といった持論を展開する謂わば「頑固親父」である。
しかし、対する安彦良和は「全共闘左翼」というリベラル寄りの思想が色濃く、このガンダム再解釈こと「ガンダム THE ORIGIN」はジオンも連邦も戦争に向かって突き進む哀れな「小市民」として斜に構えて俯瞰してドラマを作っている。
富野由悠季は「アムロ」だったり「シャア」といったキャラクター一人一人が富野喜幸本人の心の叫びだったり、葛藤そのものだったりするのだが、安彦さんはそれを俯瞰し冷静的な視点でガンダムを読み取り、誰ひとりとして感情移入ができるキャラクターを存在させずに、群像劇の「大河」としてこの劇場版アニメを作ったようである。
なので、主題が「誕生 赤い彗星」と銘打っているにも関わらず、この映画においては「シャア」が主人公ではない。そのことにより、人間関係の複雑さは以前より増して丹念に描写されて、「シャア」と「ガルマ」の関係、「キシリア」「ギレン」と「デギン」、「レビル」と「デギン」の関係などの人間の心情の機微が絶妙である。この大人で冷淡な視点は齢70代になってようやっと人間という生き物を描ける安彦良和さんだからである。
誰として素直に他人を許さない姿勢が憎しみあい、戦争を生み出していったことを伝えたかったのだろう。
本来「映画」というのは娯楽でもあり「アート」でもある。特にアニメは実写と違って役者が演技するのではなく、「絵」を動かして表現するためにそこに描かれているのは当たり前だが作者の思想や視点を直訳するものである。なのでただ、映画を観て「面白かった」とか「笑えた」「泣けた」というのではなく、そこに描かれている「作者が伝えたいこと」を読み取らないといけないのだ。
そういう意味では「ガンダム」のそれも初代のガンダムで、自身の世界に対する視線を大作として描けた安彦さんは今回自己表現しているように思えた。
余談:彼女連れの若いカップルが見に来ていたが気の毒に。。。内容は全く娯楽要素の薄い「アート映画」なので、くれぐれも恋人と一緒に面白半分で見に行くと後悔する羽目になるだろう(笑)