oneandonly さんの感想・評価
4.5
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
友愛の行く末を暗示する上質な作品
世界観:7
ストーリー:6
リアリティ:9
キャラクター:9
情感:7
合計:38
みぞれにとって希美は世界そのものだった。
みぞれは、いつかまた希美が自分の前から消えてしまうのではないか、という不安を拭えずにいた。
そして、二人で出る最後のコンクール。
自由曲は「リズと青い鳥」。
童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。
童話の物語に自分たちを重ねながら、日々を過ごしていく二人。
みぞれがリズで、希美が青い鳥。でも…
どこか噛み合わない歯車は、噛み合う一瞬を求め、まわり続ける。
(公式サイトより抜粋)
響け!ユーフォニアムは1期、2期ともに高く評価している作品であり、その番外編的な本作や続編的な次回映画も楽しみにしていたところ、GWの終盤に何とか時間を確保することができたので、上映館に駆け込んだという経緯です。
本作は2期の前半のストーリーに深く関わった鎧塚みぞれと傘木希美が主人公となって3年生の時期を描いており、TV版本編の続編という面も若干ありつつ、2人の関係性を中心に扱った点で番外編の位置付けでよいでしょう。久美子や麗奈等は脇役として少々登場するだけです。
2人の関係性は学生時代の友情であり、それはお互いを特別と見做す、恋愛にも近い感情です。同性の愛ということで、百合と分類する向きもありますが、性愛ではないので、私は「友愛」と呼びたいと思います。(本作はみぞれの発言がウエットかつ直球すぎるのとハグシーンなどあるので、百合っぽいことは事実なのですが)
というのは、私は学生時代に親友がいて、学生時代の人間関係では結構依存していたから、性愛に扱われるのは違う実感があります。私は客観的にみぞれ側の立ち位置でした。親友にくっついて行動することが私の行動パターンだったので。中学・高校で同じ部活に入ったのも彼が入ったことが一番の理由だったと思いますし、中学で、学校のことや内申点のことを考えたことがなかったのに生徒会に立候補したのも彼が副会長に立候補したからでしたし、彼が受験した高校を第一志望にしたのも、やはり彼の存在が大きかったのだと思います。世界が親友全てなんてことは思わなかったですが、今、思い出してみて若干引くほどの影響力です(苦笑)。
ですので、元みぞれ人間が本作を観て何を思ったのかといった感想となります。
{netabare}この映画を観終わって、「友愛」をテーマにした作品として優れていると思いました。尺も限られていますが、無駄がない。プール行こう、という話になっても水着シーンにならないし、あがた祭りの話になってもお祭りシーンはなし。ひたすらに校内での2人を追っていきます。
次のコンクールの自由曲の「リズと青い鳥」が、その物語とともに2人の関係性の変化、感情の動きを描いていて、後半でのみぞれの本気のオーボエにグッと来ました。卒業での別れを描く作品は多いですが、学生時代の友愛の終わり(つづくと見せかけても距離の関係でどうしても終わってしまうもの)を精神面から描いたという点がまずひとつ。
それから、2人の関係性が逆転するという面まで描いたのも優れていると思った点です。私と親友の話、学生時代に大きな喧嘩をしたり、避けられたり、煩わしいと思われるような行動をされた記憶はほとんどないので、本作のように学生時代の中でその関係性の変化はなかったのでしょうが、その後、大学時代に一時期だけ行っていた手紙のやり取りで、私がいなくなった彼は「客観的には、彼(私です)はコバンザメのように俺に追従しているように見えただろうが、それは彼の処世的行動様式であって、実は俺のほうが、彼が繰り出す様々な発想に追従していた」ことがわかったそうだ。
希美とみぞれの関係においても、双方向性はあるだろうし、見えるところだけが関係性ではないというところに光をあてていることに共感できました。
また、アニメは学生時代を舞台としたものが多く、青春すべし! 若者にエールを! と思って見てしまいがちなのですが、今の自分がリライフしたとして、(もちろん、今のほうが客観的に周りの人のことを考えられるとは思いますが、)積極的に振る舞えるわけではないだろうと思います。そのリアルを、みぞれの視点を通じて痛感しました。
中盤、希美がみぞれに嫉妬していくシーンがありましたが、ここは特別ではなかった人間としてこちらに共感して胸が痛かったです。先生の贔屓とか、見えてしまうもので。みぞれに才能があるという所は、トランペット(麗奈)とオーボエにソロパートがある三日月の舞を自由曲に選んで全国行きをモノにした滝先生の見立てにまで遡って話が通っているなぁと感心しました。そういえば、みぞれは1年の時からコンクールメンバーでしたね。
登場人物が多いのに、要所でそれぞれの個性を感じられる点に、原作の卓越さを感じます。今回、みぞれと希美のキャラも更に深まりましたし(特に希美)、こういう番外編を色々なキャラでやった上で久美子の2年生、3年生を描く続編をやる方向で時間をかけてもいいかもしれません。長く楽しませてもらいたいものです。
他の部分でも、音楽室前の上履きの置いてあるシーン(下級生の上履きのほうが遠めにある)、感情を表す手足の動かし方など、細かいところにも気を払われていて、作品に深みを与えています。
キャラクターデザインは聲の形のスタッフですが、希美の首が細いのと、麗奈の身長が高いところは少し気になりました。あと、音響がちょっと目立たせすぎに思ったところもありましたが、全体的に悪いところは少なかったです。
安易に、青い鳥が戻って来て仲良く暮らしましたとさという話にせず、離れ離れを否定しない終盤(希美は「みぞれのオーボエが好き」で返す)も私は好印象でした。{/netabare}
ストーリーは平坦ですが内面の盛り上がりはそこそこあり、心情描写に重点を置かれている方には、間違いなくおすすめできると思います。
<2018.5.10追記>
{netabare}私なりに本作を振り返ってみまして、色々と細部にまで情報が込められていることなど理解が深まってきたので追記します。
希美とみぞれは双方が依存しているところがあるのですが、みぞれは希美(の存在)を慕っているのに、希美はみぞれの音楽的才能を好いている。ここのすれ違いを認識した上で本作のストーリーを追うと、理解が速くなります。最初に学校に着いて「リズと青い鳥」の曲が好きな理由を希美が最後まで言わないところも、みぞれのオーボエがメインとなり、それに自分が合わせられる所があるからと補足できます。
当初はみぞれ側の視点で見ていた部分が多かったのですが、上記を踏まえて改めて希美側から見ると辛い。希美はみぞれの才能がわかる、音楽の良し悪しが理解できる人間であり、自分もそのレベルにありたいと思うものの、自分の才能のなさにも薄々は気付いていたのだと思います。新山先生のくだりは、それが決定的となった場面でしょう。
希美はみぞれを吹奏楽部に誘った時のことを、みぞれには覚えていないとはぐらかしましたが、最後に回想します。おそらく彼女は才能あるみぞれを自分が見出したことを誇らしく思っていて、出会いを覚えていないことはないはず。中学時代には部長をして、社交的に部活の輪の中心いたのでしょうし、自分の中の筋を通して退部をするという行動からも、自尊心が強いタイプのように映ります。
希美の挫折は、優子にも、夏紀にも、そして親友であるみぞれにもわかってもらえない。
ハグのシーンでは、等身大の自分を理解し、励ましてもらいたかったのだろうなあと、今になって、彼女の痛々しさを感じました。
「みぞれのオーボエが好き」と言ったのは、意地悪ではなく、私のフルートはどう?好きって言ってくれない?の催促だったのでしょう。
しかし、プライドで直接的には言えない。
冒頭の登校シーンは丁寧な描写と言われますが、私はここに違和感がありました。
二人の住所や最寄り駅がわからないので、校門で待ち合せるというのはなくはないのでしょうが、希美は挨拶するでもなく、みぞれがただ後を追っていたように思います。
希美は振り返って青い羽根を渡しますので、もちろん気付いていないわけではありません。
みぞれが希美を慕っているのはわかりすぎるくらいわかりますが、希美にとってみぞれは重たい存在なのだろうと思われます。(しかし、それでいて、みぞれの親友であるということは、希美にとっての自尊心につながる部分もあるのでしょう。だから複雑です)
作中に、優子と夏紀、久美子と麗奈の関係性を見せるシーンが少しありますが、希美とみぞれの関係は異なるということが際立って見えました。{/netabare}
改めて、原作と劇場スタッフの素晴らしさに拍手を送りたいと思います。
(参考評価推移:4.4→調整4.5)
(2018.5劇場で鑑賞)