Tnguc さんの感想・評価
3.0
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
【お気に入り】 もしもスマイルがヒーローになった世界で
~
TV版では雑多な共学高だったはずなのに、今作では男子生徒が取り除かれている。汗臭さや甘酸っぱさが排除された学園は、まるで密やかな百合の花園。閑静な美術館を思わせる校舎の窓の外には緑豊かな木漏れ日が映り込み、初夏の涼しさすら感じさせる爽やかな空間がどこまでも続く。鳥のさえずりと優しい環境音楽で包まれた世界は、まるで、主人公・みぞれの無垢を落とし込んだ真っ白なキャンパスのよう。そこで、みぞれの唯一の友達・希美(のぞみ)に対する「恋」が描かれる。ただし、一口で同性愛と言っても、この作品は単なる甘ったるい百合アニメではない。「恋」という字は「変」に似ているだなんてよく言われる常套句だけど、まさにみぞれの「恋」は、クラスメートからしてみれば「変」だった。それは、希美への甘やかな愛情ではなく、もはや全幅の依存だったから。希美を失いたくないとしがみつくみぞれの姿は、まるでカルガモの雛鳥。そんな希美への執着心は、一人ぼっちだった頃に戻りたくないという気持ちの裏返しなのかも知れない。みぞれも、心の奥底では「変わりたい」と願っていたはず。でも、自分ではどこに進めばいいのか分からない不安から、希美の後ろをついていくことしかできなかった。しかし、月日が流れ、仲間たちと交流を深めていく中で、みぞれは成長し、心の中を占領していた希美への想いが「変」だったことに気付いていく。希美もまた、いつの間にかみぞれが羽ばたけるようになっていることを知り、そこから巣立ちを示唆させるような感情が、あの楽譜のメッセージによって発露する一連の流れは残酷でありながらも美しい。そんな希美に励まされ、ある種の解放を得たみぞれのオーボエは、オオルリのように美しくさえずる青い鳥。その羽でどこまでも飛翔するみぞれの姿を、地上から見上げることしかできない希美がなんとも情感的。これから二人は、進む道も、高度も、大人になっていく過程の中でその距離は更に離れていくだろう。どんどん「普通」になっていくみぞれの姿を、寂しいと思うのは視聴者の身勝手なのかも知れない。でも、あのころ、一途に希美を追い求めていたみぞれの気持ち、誰しもが重ね合える経験があるはず。みぞれも、これからそういう初々しい経験を積んで大人になっていく。雛鳥のようだったみぞれは、たしかに愛おしく見えた。でも、実際はチグハグな人間関係だったことに気づかされたのはあのラストシーンだった。いつもは希美の後ろを歩いていたみぞれが、希美と肩を並べて、屈託なく笑っている。あの瞬間、二人は初めて本物の友達になれたような気がした。どこにでもありそうで、どこにもない、素晴らしい着目点。時を経ても色褪せることのない、エバーグリーンな青春劇だった。
個人的評価:★★★★☆(4.0点)