「リズと青い鳥(アニメ映画)」

総合得点
85.9
感想・評価
572
棚に入れた
2363
ランキング
220
★★★★★ 4.1 (572)
物語
4.0
作画
4.3
声優
4.0
音楽
4.2
キャラ
4.1

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

北宇治高吹奏楽部のその後が知りたい!という方は本作を後回しにするのも一手。

原作小説はシリーズ既巻購読中。

率直に言って、とても美しい映画でした。

2018年の『ユーフォ』完全新作劇場版2作品の展開は、
原作に当る『~波乱の第二楽章』を単純に前後編で映画化するのではなく、
群像劇の内、本作でまず、みぞれと希美のエピソードを集中して描き、
残りを“二年生になった久美子たち”で描く構成だと思われます。

因みに、本作では、コンクールの模様や結果などは分らず、
久美子が二年生時に吹部で起こった事の全体像は把握できません。
あくまで、みぞれと希美、特にみぞれの内面世界が作品の中核です。

かなりクセのある配分ですが、私は納得しています。

何しろ、みぞれと希美、二人の繊細な心のやり取りの周囲。
部の内外では、所により一時、激しい修羅場も伴って、
波乱の大型ハリケーンが吹き荒れているわけです。

特に神経の細やかな、みぞれ。
彼女が希美の足音を聞き分ける日課や、じっとフグを見るひと時など、
他の群像劇と一緒くたに映像化したら、喧噪に掻き消されかねません。

そんな懸念も持っていた私にとっては、
本作でよくぞ、この二人の心情を純化、抽出してくれた。
と感謝の言葉しかありません。


では、何故レビュータイトルがこんな捻くれた事になっているのかと言うと、
それでもやはり、例えば、『ユーフォ』はアニメだけ追い掛けていて、
二年生になった久美子たちや吹奏楽部の行く末をまず知りたい。
という方もいるのでは?ということ。

また本作→次作と観れば、
しっかりとした心情描写という土台を固めた上で、
北宇治吹奏楽部の結果を受け止めることができると思われますが、

これもやはり、取り敢えず、部全体の出来事を把握した上で、
個々の心情を掘り下げて行きたい。という方もいるのでは?ということ。

そう考えると、後日公開予定の石原立也監督版→本作の鑑賞順も、
選択肢としてアリなのかな?と予想して、
こんなレビュータイトルと相成りました。

そもそも前後編二冊だった原作『~波乱の第二楽章』も、
前編が久美子たち二年生&低音パートの悲喜交々が中心で、
みぞれと希美の関係の決着は後編で、という構成でしたし……。


ただ、本作から順番通りに鑑賞するメリットも大きいと私は予感しています。

特に大きいのは本作にて、この年の北宇治が選んだコンクール自由曲について、
込められた物語性、思い入れも含めて理解できるということ。

従来作品のコンクール演奏曲においては、
作曲者が込めた意味などはそれほど重要視されて来なかった印象。
そもそもアニメと原作では大会で演奏した曲自体が異なっていました。

それを今回は原作、アニメ共通の曲で、
音楽が描く物語と吹部の青春を共鳴させ響かせる。
というのが原作者およびアニメスタッフたちの最大の挑戦かと思われます。

本作を観終えた人にとっては、今回の自由曲は既に特別な一曲になっているはず。
例えば次作にて、この一曲にかけられた想いの数々が演奏され、ホールに響いた時、
どれほど素晴らしい瞬間が訪れるのか?
その時、私は正気を保つ自信がありませんw
(これで次作、本番演奏シーンカットだったら洒落になりませんがw)


私にとっては本作は次作と交互に見比べたりもしてみたい作品。
石川県内上映わずか一館の惨状で要望するのも無理筋なのでしょうがw
次作公開時に併せて本作リバイバル上映などの企画もぜひ実施して欲しいところです。


以下、内容について思ったあれこれ

{netabare}TVアニメ版2期原作までで、練り上げたものを全て出し切った
と述べた原作者・武田綾乃さん。
今回の原作を描く前に刊行した、外伝小説『~立華高校マーチングバンドへようこそ』にて、
女子の友情描写についての引き出しを増やしたことが、
今作で非常に効いているなと改めて感じました。

友達を作るのが苦手で、あの娘が唯一の親友である孤独な少女の
時に病的なまでの依存心。

友達は他にたくさんいるはずなのに、
自分を唯一無二の存在と頼ってくれるあの娘が、
自分から巣立っていくのが受け入れられない少女の
時に病的なまでの庇護欲。

一介の男子に過ぎない私には理解しがたい、
だがそれ故に甘美な魅惑を感じる女子の友情。

外伝小説でも披露された表現が、本作でさらに深まっていると感じました。


そんな女子の友情を、山田尚子監督&脚本・吉田玲子氏ら女性も交えたスタッフ陣が、
リズミカルな足音や、これ見よがしの足芸も盛り込みつつ、繊細に再現。

本番合奏シーンもないのに私が音楽を5点にしたのは、
足音の演出に寄るところが非常に大きいです。


青を基調にした画面構成により、
「リズと青い鳥」のファンタジー絵本世界との行き来をスムーズにした試みもグッド。
水色セーラーな北宇治高校の夏服って、
実は本作の為にあったのでは?とすら思えて来ます。

と言うより私……実写映画なんかでもブルーにホント目がないんですよ。
この辺りが、キャラデザが劇場版『聲の形』風に変わっていても、
私が作画5点にした理由です。{/netabare}


振り返ってみれば、私好みの要素が多々あった本作。

この作品の真の評価は、次作映画とどう響き合うのか?
或いは、同じく特別なお友達を持つ久美子が三年生になり進路を選んで行く際に、
みぞれと希美の関係がどう位置付けられるのか?
により確定するものと思われますが、
それ次第では、後々、私のお気に入り棚への移動も十分有り得る作品だと思います。


付記:今回は本編前のフォトセッション等の余興はありませんので、
安心して機器の電源を落して、マナーを守って鑑賞をお楽しみ下さい。

投稿 : 2018/04/26
閲覧 : 552
サンキュー:

56

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