けみかけ さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
『ユーフォ』には友情、努力、勝利という青春の【熱】があるが『リズ』にそんなものは無い、そんな暑苦しいモノは無いのです【リズを再評価しようキャンペーン】
公開当時はイマイチ誰に向けて作った作品なのか解らなくて、なかなか味のある作品だと思いつつもレビュを書く気にはなれませんでした
と、言うのも『ユーフォ』シリーズから独立した1つの作品として完結する趣がありつつも「じゃあなんで【希美とみぞれ】の“対比”として【久美子と麗奈】を登場させたんだよ、アレ『ユーフォ』知らん人に不親切過ぎでしょ」ってなったからです
それに『ユーフォ』の醍醐味である“アツイ青春”模様が無いのはある意味シリーズのファンを裏切ってるってことになっていると思ったので、正直受け止め切れなかった、というのが当時の率直な感想です
ですがその考えも今作と時系列的に並行している『誓いのフィナーレ』を観た後に改めることにしました
『誓いの~』のレビュで書いた通り(https://www.anikore.jp/review/1921276/)『リズ』とこれまでのシリーズは【パラレルワールドである】という結論に至ったからです
そう考えた方がスッキリするし、純粋に今作が持つ独特の味や音楽映画のテンプレートを破壊した異端性を評価出来ると割り切る事が出来ます
と、いうことで『ユーフォ』シリーズに無いものを持つ『リズ』という作品の再評価を始めたいと思います
北宇治高校吹奏楽部の夏
オーボエ奏者の鎧塚みぞれ、フルート奏者の傘木希美は3年生になっていた
高校生活最後の夏、最後の吹奏楽コンクールに向けて、北宇治がコンクールの自由曲に選んだのは『リズと青い鳥』という童話をモチーフにした組曲
その第3楽章において、物語の主役となるリズと青い鳥のそれぞれの心情をオーボエとフルートが表現する象徴的なソロパートを任されることになった二人
最終的に決別を強いられる身のリズと青い鳥の心情の理解に苦しむ希美は、ポジティブな考えでみぞれの演奏と寄り添う形を取ろうする
みぞれ自身もまた、大親友である希美に置いてかれまいと希美に依存する形で進路志望を決めていた…
先述通り『響け!ユーフォニアム』シリーズのスピンオフでありつつ、劇場版『誓いのフィナーレ』と対になる今作をオイラはこれまでのシリーズとは【パラレルワールド】と考えています
まず他のシリーズとは作風が非常に異なっています
今作のメインスタッフは『ユーフォ』シリーズとは大きく入れ替わっており、『聾の形』のメインスタッフが主体となっています
監督は山田尚子、脚本は吉田玲子、キャラデザに西屋太志、音楽に牛尾憲輔
音楽が牛尾憲輔…まずコレが一番驚きです
アンビエントやドローンミュージックを得意とする牛尾憲輔が吹奏楽が主題の映画の劇伴を担当するのはどう考えてもオカシイ(笑)
答えは本編を観ればすぐわかることですが、今作では基本的に演奏シークエンスがほぼ存在しないのです
もちろん劇中で登場人物達が演奏する楽曲というのは『ユーフォ』シリーズの松田彬人が作曲担当しているのですが、それ以外の場面では基本的にドローン・アンビエント特有の遠くで囁くようなウインド系のシンセが鳴り響いていたり、やたら籠もって歪みがちなピアノの音が手前で弾けるように響きます
これは喜びや怒りや悲しみというような端的な言葉では言い表せない、思春期の少女達の繊細な感情に寄り添った表現として機能しているわけです
『フラガール』にしろ『スウィングガールズ』にしろ『チアダン』にしろ、青春モノ、部活モノ、音楽映画の定型文ってほぼ固定化されてしまっているんです
最初に心動かす何かがあって、ちょっと上手くいったと思ったら友情に軋轢が生まれ、もうどうにもならないというピンチを心の声を吐露しあうことで和解し、最後に派手な演奏シークエンスで締め括る…
もうお判りかと思いますが『ユーフォ』がやっていることはコレらそのまんまなんです
つまり『ユーフォ』とはある意味ドラマティックで王道でありつつも、悪く言えばテンプレ通り、フィクション的、リアリティの無い作品だと言えます
『リズ』の場合そんな定型文を破壊しようという試みが見られるんですね
なんせ音楽映画なのに演奏しない
青春モノなのに走りながら叫んだりしない、友達を床に押し倒して泣いたりしない、雨に濡れながら言い争ったりしないんです
そういうのはある意味男性的な感性であって、まあそこまで言うと誤解を生みかねませんが、ジャンプとかのスポコン漫画の考え方に近いモノで、思春期の少女の繊細な感情、ってのとは程遠い世界になるわけです
ですから今作はそんな作品群やコレ以外の『ユーフォ』シリーズとは一線を画している
具体的にはラストを含めて今作の登場人物のセリフにはほぼ必ず裏があります
セリフを言葉通りの意味で受け取ることが不可能なのです
セリフの裏に隠された真意を補完するのは、表情だったり、音楽だったり、画面に差し込む光だったり、或いはレイアウトそのものだったりと、作品全体を通すことで初めて彼女達の心理を視聴者に体感してもらうのが『リズ』なのです
実写ならまだしも、アニメでこういうことをやったものはほぼ皆無ではないでしょうか
つまり非常に稀なことをやってのけた作品として『リズ』は再評価されるべきなのでは?と思った次第なのです
それに今作で劇中劇「リズと青い鳥」について知っておくと『誓いの~』のクライマックスがより感銘的に見えることは間違いないでしょう
けみかけは改めて『リズと青い鳥』を評価します