「宇宙よりも遠い場所(TVアニメ動画)」

総合得点
93.8
感想・評価
2809
棚に入れた
9782
ランキング
12
★★★★★ 4.2 (2809)
物語
4.3
作画
4.1
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.2

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

南極で生まれるケミストリー

【概略】
 2018年冬アニメ。MAD HOUSE制作のオリジナル作品。女子高生4人(一人はフリーター)が南極観測隊に参加して、仲間と共にかけがえのない日々を過ごす…という内容の青春ストーリー。公式略称は「よりもい」だけど、「南極」と呼んだ方が多分伝わる。

 ヒットメーカーの監督に脚本家、人気声優の登用、そして深夜アニメ定番の「女子高生に何かやらせてみた」シリーズ・・・と売れる要素を詰め込んだ、必勝の布陣で挑んだこの作品。放送前は「何この売れ線狙いw」と思ってました、すいません。実際そんなに攻めた作風ではないんですけど、コレが予想を遥かに超えるクオリティーでして、女子高生がワチャワチャやってるだけのアニメとは一線を画す出来栄えでした。何より面白かったよね!

【友情】
 言うまでもなくこのアニメのメインテーマは「友情」ですね。本作は友情の見せ方がとてもうまい。ポイントはそれぞれのキャラクターの長所と短所、特に短所をうまく使っている所です。4人は顔見知りではなく即席で作られたチームで、年齢は近いけれども性格も価値観もバラバラ。でもこの4人は全員揃ったときに大きな力を発揮するような組み合わせになっています。仕事や生活の面でいうと、キマリはのんびり屋でだらしないところがあり、報瀬はコミュニケーション能力に難があります。この2人を見かけによらずしっかり者の日向と人前に馴れているアイドルの結月がフォローする形になります。しかし日向と結月は意外と精神的に脆いところがあるんですね。だからプライベートな面では、逆に報瀬のメンタルの強さが日向を、キマリの裏表のない優しさが結月を助けるという形になります。

 この4人は日本にいたとき、自分の今の状況に停滞感や居心地の悪さを感じていて、みんな「ここではない何処か」を探してくすぶっているように見えました。きっと彼女たちはこの気心の知れた仲間といる時間、心地よい空間こそ自分たちの探していたものだと感じたはず。お互いを支え合いながら行動していくうちにどんどん親密になり結束が固まっていく4人の姿は見ていて気持ちいい。

 また、全員がベタベタに仲良しというわけではなくキャラ同士の距離感も微妙に違うし、場面によってあえて距離を取ったり逆に踏み込んだりと適切な変化があってリアリティーが感じられました。

 とんとん拍子に仲間が集まって南極行きが実現する物語前半の流れにはそうしても事が筋書き通りに進んで行く都合の良さが付きまといます。でも4人の息の合った連携は、そういったアニメ鑑賞する上での邪念を次第に払拭してくれました。本作は南極で生まれる友情の尊さと美しさを巧みに描けていたと思います。

【はみ出し者】
 南極の脚本で面白いのは、最初は明らかにキマリが主人公で彼女の目線で物語が進んでいたのにいつのまにか4人全員が主人格として描かれるようになり、終盤は報瀬が主役の筆頭になることです。このアニメの主人公誰だっけ?と思った方も多いのではないでしょうか。キマリの役目は視聴者と物語をリンクする、案内役ではないかと思います。

 キマリはごくごく普通の女子高生。まぁ少女漫画の主人公によくあるタイプです。対して南極行きに執念を燃やしバイト漬けの日々を過ごす報瀬、高校には通わずフリーターとして生活しながら大学を目指す日向、アイドルとして活躍中の結月、と他の3人は少々変わり者。キマリは南極行きを決めたとき、彼女たちいわば「はみ出し者」の仲間入りをしたという見方ができます。

 民間の南極観測隊として生きる大人たちも、会社勤めをする一般人から見れば「はみだし者」といえます。「ざまぁみろ」という言葉に代表されるように、このアニメは人とは違う生き方や反骨精神を肯定し、応援する姿勢を徹底しています。そこに視聴者を導き共感させるために、普通の女の子であるキマリが彼らの輪の中に入るまでを前半で描いているのだと思います。

【再出発】※この項はクライマックスのネタバレがあります
{netabare}
 さて、11話からは13話までは報瀬を中心に話が展開されます。「泣ける」「神回の連続」と巷で絶賛されていますが、この3話は流れが素晴らしいと思います。

 まず11話。友達面する日向の同級生に向かって報瀬は「ざけんな」と言い放ち、友情の固さを見せる。視聴者にカタルシスをもたらす感動的な場面です。でも一方で『日向はもうとっくに前を向いてもうとっくに歩き出しているから!私たちと一緒に踏み出しているから!』という台詞を聞いた時、「報瀬、君はどうなの?」という疑問が生まれてくる。

 その答えを出すのが第12話で、内陸で発見した貴子のノートPCのメールボックスから自分が日本から送っていたメールが未読のままを次々と受信していくのを見て、母親がこの世にいない現実が実感となって襲い掛かり、溜め込んでいた感情が奔流のように流れ出す。ここで4人が号泣する場面が、第1話冒頭でのキマリのモノローグ「淀んだ水が溜まっている。それが一気に流れていくのが好きだった。結界し解放され走り出す。淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す」と照応しているのは明らかですね。

 この一連のストーリーの真価は、母との別れの苦しさを「脱皮の痛み」として表現し、新しい自分になろうとする姿を描いているところにあると思うんです!最終話で報瀬がバッサリ髪を切るのも、母親の形見と百万円を南極に置いていくのも、単に吹っ切れたことを皆にアピールしているわけじゃなくて、これはもう「私は新しい自分になりたい」という意思表示なんですよ。

 あの100万円はただのお金ではなく、彼女のお守りであり、反面自分自身を縛りつけるものでもあった。女子高生が大金を肌身離さず持ち歩くという行為を、違和感を感じながらも彼女のキャラクターとしてみんな受け入れていたと思うけど、普通に考えれば健常ではありません。「ざまぁみろ」という言葉の裏に若干の卑屈さがあることも否定できないでしょう。

 南極に行って彼女たちは何が変わったのだろう? 夢の中でキマリが語った「澱んだ水」とは、他人を必要以上に意識して劣等感や敵愾心、羨望を感じてしまう気持ちなんだと思う。そんなちっちゃい自分を捨ててもっと大きくなってみせる、そう報瀬は4人を代表して私たちに宣言してくれたのだと僕は受け止めています。きっと「堂々とはみ出せばいいさ」という制作者たちのメッセージでもある。このアニメは「好きなように生きればいいよ」と言われているのに、実際は従順な生き方を強要されているように日々感じている現代の若者に大きな勇気を与えてくれたのではないでしょうか。

 エンディング曲のタイトルは「ここから、ここから」ですが、「ここ」とは南極だけを指しているのではなく、3ケ月振りに帰ってきた日本もまた「ここから始めよう」と4人が心に誓う場所に違いない。「宇宙よりも遠い場所」は4人の固い絆を描くと同時に、はみ出し者たちの再出発を描く物語でもあったと思うのです。
{/netabare}

【総評】
 爽やかで前向き。そして楽しさにあふれる。音楽で例えるなら「いきものがかり」のような真正直なポップさを感じます。映像作品としての品質も総じて高く、画良し、キャラ良し、ストーリー良しと三拍子揃った良作。特に花田先生の脚本の評価が高い作品ですが、4人の少女をイキイキと描いたアニメーター達の手腕も称えたいですね。特にオープニングアニメーションなんてその象徴で、みんな凄くいい表情してます。老若男女問わず楽しめるであろう、どなたにもお勧めできる青春アニメです。

投稿 : 2018/04/15
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