おぬごん さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
織りなす布は いつか誰かを 暖めうるかもしれない
人気脚本家・マリーこと岡田麿里の初監督作品
…とはいえこれはマーケティング上のインパクトを意識したものでしょう
マリーは「脚本・演出・製作総指揮」のような立ち位置で、アニメーション部分の指揮は副監督の篠原俊哉をはじめとする錚々たるスタッフ陣が取ったのでしょう
私がアニヲタになってしまう契機となった作品が『true tears』で、その後『とらドラ!』で心を掴まれて以来、私にとってマリーは最も敬愛するアニメスタッフの1人です
とはいえマリー作品全て見てるわけではありませんし(それこそオルフェンズとか)、この映画を見るのも公開から1ヶ月半も後になりましたが…
物語やスタッフや作画演出云々は他の方が言及されていると思うので、私からはいくつか
(と言いつつめっちゃ長くなりましたが;)
私はこの作品「親子もの」「ファンタジー的世界観」という前情報だけで見に行きました
マリーと言えば青春もの、恋愛もの、学校という社会の中から浮いたり弾き出される存在を描く脚本家、というイメージが強かっただけに、これは意外でしたし、かなりの不安要素でもありました
…が、それは杞憂でした
あまり映画館では泣きたくないのですが、泣かされました
エンドロールが終わって館内が明るくなるのがちょっと嫌なくらいに(笑)
私が泣いたのは、物語ラスト、マキアがエリアルの言葉を回想していく場面ですね
ベッタベタな演出ではありましたが、エリアルの言葉が声変わりとともに汚くそっけなくなっていくのを耳にして、自分の反抗期と重なるようで、そしてそれさえも受け入れ包み込む母の偉大さを感じ、涙が溢れてきました
あの頃の自分はどのくらい母に迷惑を掛け、悲しませてきたのだろうか
それさえも「成長」「一人立ち」として受け入れてくれていたのだろうか
マキアとエリアルの「ヒビオル」が凝縮されたあの回想に、自分と母親を重ねずにはいられませんでした
母親の偉大さ、大切さを思い出させてくれただけでも、この作品を見て良かったと心から断言できます
それからこの作品で特徴的な点は、男女の価値観を敢えてステレオタイプに、かつある種本能的に描いている点でしょうか
たとえば女性は家庭を守る存在、男性はコミュニティを守る存在というような、古典的かつ人間本来の男女観、家族観で描かれていたように思います
戦争が描かれるのは絵的な見栄えももちろんですが、ここを描くためですよね
後述する生物としての本能にも繋がりますが、終盤、臨月の妻を置いて(信じて)戦場に向かうエリアルと、戦場を離れその妻の出産を助けるマキアは対照的でした
また恋愛に関する言葉で「女性は『上書き保存』、男性は『名前を付けて保存』」なんてものがありますが、レイリアとクリムの運命についてはまさにそのような男女差が表れていたかと思います
クリムの初恋の人・レイリアへの執着は、醜いながらも共感できるものでした
にしてもマリー、ヤンデレ男子好きだよな…CV梶くんなのもあって『峰不二子という女』を思い出しました
あと、この作品を見ていて思い出した私の母の言葉がありまして
SMAPのらいおんハートの「いつかもし子供が生まれたら 世界で2番目に好きだと話そう」という歌詞に
「これは男目線の歌よね。母さんにとってはあんたらがお腹の中にやってきた時から、世界一はあんたらで、お父さんは2番目3番目になってしまったよ」と言っていたんですよね
マキアもレイリアも、形は違えど子を持ってからは我が子が世界の中心
でも、それがクリムはもちろん、当の子供であるエリアルにさえ理解できない
なぜ母親にとって我が子が世界の中心になるのか、マリーが編み出したその答えは、要約すると
「エリアル(子供)は私のヒビオル(人生そのもの)だったから」
「エリアル(子供)がいたから、私は何かになることができた(アイデンティティが生まれた)
というものでした
実際にはこんな風に単純に言葉に出来る感情ではないと思いますし、逆にもっと単純に本能的なことなのかもしれません
しかしこの言葉は私にとって非常に腑に落ちるもので、過去の母の言葉も理解できたような気がして感動しました
まあね他の男の子供、しかも無理矢理種付けされて生まれた子供を大切に思うレイリアを理解できないクリムの気持ちも凄くよく分かるんですけどねw
雌雄両性がある生き物は、静の卵細胞と動の精細胞の役割分担により生存確率を上げています
それは恐らく両性の性質にも影響を与えていて、オスは自分の遺伝子を積極的に残そうとする謂わば「動の生存本能」を示し、メスは遺伝子を問わず命を繋ぐことを第一とする「静の生存本能」を示します
この両性の本能の差が上手く機能し、子孫が、種が生存していくのではないかと思います
ライオンなどに見られるオスの子殺し、母狼が人間の子を育てたといった逸話は両性の差を端的に表しています
他人の子を認められないクリム、より優秀な子孫を残そうとする王子、他人の子を育てるマキア
戦場で闘い我が国の命を残そうとするエリアルと、他人の命を繋ごうとするマキア
様々な場面、人物に生物が本能的に持つ生存本能の性質が表れていたように思いました
この作品、自分が子であるか、親で「も」あるかで受け取り型が大きく変わる作品だと思います
私の母にもこの作品は見て欲しいですし、私が親になった時に改めてまた見たい作品だと思いました
思えば「凪のあすから」や「オルフェンズ」など、近年は妊娠・出産・親子を描くことも多かったマリー
改めて真正面からこうしたテーマを描いた本作は間違いなく名作でした
マリーすごい!!
~余談~
この作品を見る前、劇場の情報などを調べるために何度かググったんですが、マリー特有の長いタイトルのせいでついぞ正しいタイトルを入力できませんでしたw
検索履歴を見てみると「旅立ちの朝にさよならの花束を贈ろう」とか「約束の朝にさよならの歌を歌おう」とか、雰囲気は合ってるけどだいぶメチャクチャですww
まあ私自身もうろ覚えなのを分かってて敢えて挑戦してるようなところがあったんですが、
こんなうろ覚えタイトルでもGoogle先生はちゃんとトップに本作の公式サイトを出してくれてたんですよねw
Google先生すごい!!(結論)