「けものフレンズ(TVアニメ動画)」

総合得点
83.1
感想・評価
1224
棚に入れた
4729
ランキング
336
★★★★☆ 3.7 (1224)
物語
3.8
作画
3.2
声優
3.6
音楽
3.9
キャラ
3.9

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ネタバレ

キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 3.0 声優 : 5.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

知的で緻密なファンタジー

総合評価:☆☆☆☆

※2018年6月25日、ネタバレタグの付け方を変更しました(わずかな追記あり)。

 『けものフレンズ』は、絵柄からは想像もつかないほど奥深い作品である(脚本・監督・コンテ・演出など多くの仕事を、たつきが一人でこなした)。台詞で説明されない設定も多いので、視聴者が頭を働かせて、ストーリーの背後に隠された意味を読み取らなければならない。例えば、第4話「さばくちほー」において、砂漠を走るバスがあまりに揺れるので、カバンちゃんが「この道、大丈夫ですか?」と尋ねるのだが、運転するラッキーさんは「まかせて」と取りあわない。おそらく、ラッキービーストはGPSなどの情報を用いて道なりに進んでいるつもりなのに、肝心の道路が砂嵐で埋もれてしまったのだろう。
 『けもフレ』の世界観を理解するためには、2つの作品が参考になる。

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 1つは、H.G.ウェルズの古典的SF小説『モロー博士の島』。舞台となるのは、マッドサイエンティストのモロー博士が動物を人間に作り替えようとしている孤島。ここに迷い込んだ主人公が、獣人の間で何とか生き延びようとするうちに、カバンちゃんとは逆に、次第に人としてのアイデンティティを見失っていくさまが描かれる。モロー博士が獣人に自分を神の如く崇めさせる姿は、『けもフレ』でフレンズがラッキービーストを「ボス」、火山を「神聖な場所」と呼ぶ状況と重なる。
 もう1つが、フィリップ・ド・ブロカ監督の映画『まぼろしの市街戦』。第1次大戦中、フランスの小さな町を占領していたドイツ軍は、撤退する際に時限爆弾を仕掛けて町ごと吹き飛ばそうと計画、それを知って住民が逃げ出した後、監視人のいなくなった精神病院の患者たちが、もぬけの殻となった町に入り込む。事情を知らない斥候兵が訪れたとき、町には、異様にハイテンションな人々が楽しげに暮らしていた…。内容が内容だけに、現在では見るのが難しい「まぼろしの傑作」になってしまったが、本当に狂っているのは誰かと問いかけるラストは強烈である。『けもフレ』第10話「ろっじ」で、建物と家具は立派なのに、宿泊客が寝具のない裸のベッドにごろ寝しているのを見たとき、この映画の記憶が蘇って「ああ、そういうことか」と膝を打った。
 ちなみに、「ろっじ」のエピソードは、オオカミがオオカミ少年になったり、サーバルがさりげなくカバンちゃんと一緒に暮らしたいと口にしたり(サーバル流愛の告白?)と、見所の多い神回である。
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【以下、重大なネタバレあり】
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 『けもフレ』には、主人公の二人--カバンちゃんとサーバル--が、いずれも記憶喪失だという特徴的な設定がある。なぜ二人が記憶を失ったかについては、ストーリーの中では語られないが、あちこちにヒントが隠されているので、作者であるたつき監督の意図を読み取ることは困難ではない。
 第11話「せるりあん」では、カバンちゃん、キンシコウ、サーバルの会話で、セルリアンに食べられると記憶を失うことが示される。

  カバンちゃん「そう言えば、セルリアンに食べられたらどうなるんですか?」
  キンシコウ「死んでしまうと言うと、言い過ぎかもしれませんが…」
  サーバル「お話しできなくなるし、私たちのことも忘れちゃうもんね」

さらに、終盤でサーバルが食べられたとき、狼狽したカバンちゃんが悲痛な声を上げる:

  カバンちゃん「食べられたら死んじゃうって…記憶がどうとかって!」

ここでわざわざ「記憶」という言葉を用いたことに、注意されたい。
 第12話「ゆうえんち」になると、セルリアンに食べられて(第10話でタイリクオオカミが語ったとおり)体がいったん溶けたカバンちゃんが、救出され元の姿に戻った直後、サーバルが尋ねる。

  「カ…カバンちゃんだよね?…わかる?…いちばん最初に会ったときにしたお話、覚えてる?」

ここでも、身体的な不具合がないかどうかよりも、まず記憶を問題とする。
 カバンちゃんがセルリアンに食べられても記憶を失わなかったのは、食べられる前と同じ脳の容量を持つ人間になったからだと推察される。サーバルも、体が溶ける前に救い出されたので、記憶を失うことはなかった。ただし、クライマックスで記憶喪失が起きなかったにしても、作者がこれほど《セルリアンと記憶》について執拗に語ったからには、そこに作品の謎を読み解く鍵が隠されていると推測してかまわないだろう。第10話「ろっじ」で、サーバルがミライさんの記憶を失ったことが示されるが、その原因が、暗々裏に語られているのである。
 私の推理によれば、サーバルは、動物だったときにサンドスターに当たってフレンズに変身し、ミライさんと仲良くなったものの、セルリアンに食べられて脳容量の小さい元動物に戻り、記憶を失った。ところが、動物の状態で再びサンドスターに当たり、フレンズへと二度目の変身をする希有な体験をしたと考えられる。
 カバンちゃんが怖い目に遭うたびに「食べないで!」と叫ぶのは、サーバルが食べられるのを見たミライさんの恐怖が微かに残っているからだろうか。サーバルが食べられたとき、カバンちゃんが身を捨ててまで助けようとしたのは、かつて助けられなかった苦い思いに突き動かされたからかもしれない。
 それでは、もう一人の記憶喪失者であるカバンちゃんは、なぜ記憶を失ったのか? ミライさんにサンドスターが当たってカバンちゃんになったとしても、脳の容量は変わらず記憶は失われないはずである。
 ここで思い出してほしいのが、フレンズがどうやって誕生するか、作中でなされる説明である。第9話「ゆきやまちほー」のエンディング後、PPPとアライさんらとの会話では、次のように語られる。

  「サンドスターが動物に当たると、フレンズになるんだ」
  「あるいは、動物だったもの、とかね」

この後で言及されるジャイアントペンギンが、数千万年前に生息した古代ペンギンの化石からフレンズに転生したものであることも、重要なポイントである。
 ミライさんも、PPPの発言と同じ内容を、ラッキービーストの口を借りて語る(第10話「ろっじ」)。

  「生き物や生き物だったものとサンドスターが反応して、フレンズが生まれますが…」

この台詞(および、これに続く「サンドスターに二種類ある」という説明)は、すぐ後でカバンちゃんが、

  「これ、ハカセたちに教えてあげたら、喜ぶかな?」

と語ったように、作者によって、その重要性がわざわざ強調されている。
 二度も繰り返されたこれらの説明では、フレンズに生まれ変わる元になるのが、「動物の一部」ではなく「動物だったもの」とはっきり述べられる。このことは、第12話「ゆうえんち」で描かれたストーリーと、明らかに矛盾する。そこから推測されるのは、第12話の制作に入る直前に、たつき監督が脚本を変更し、予定されていた物語とは異なる展開にしたということである。
 第12話が少し不自然なことは、それまで平面に投影されていたミライさんの映像が、この回の後半で、突然、立体映像になる点にも表れる(ラッキービーストが空中に立体映像を投影できるのならば、第10話でタイリクオオカミが見た「大きすぎる白いお化け」は何だったのだろう)。
 それでは、本来予定されていた物語はどのようなものだったのか? 第10話「ろっじ」では、ミライさんと幼いサーバルの間で、唐突に奇妙な会話が交わされる(この会話は、それまでの話の流れにそぐわず、カバンちゃんがわざわざ「ミライさんて、絶対、いい人だよね」と言葉を添える必要があった)。

  ミライさん「えー! 最初、私が宇宙人だと?」
  幼サーバル「だって…(中略)…飛んでくるんだよ」

この「飛んでくる」とは、飛行機に乗ってパークにやってきたことを意味するのだろう。
 かなりの人数がいたと思われるパークの従業員は、本土との間を飛行機で行き来していたようだ。第11話には船が登場するが、これは甲板の広い荷物運搬船で、人を運ぶものではない。広大なパークには飛行場が建設され、従業員の移動に飛行機を利用していたと考えるのが自然である。
 そこで気になるのが、第11話「せるりあん」の中盤、「山」にカバンちゃんとサーバルが登った際に、五合目付近に飛行機の残骸らしきものが描かれていたことである。墜落した飛行機には誰が乗っていたのか? 搭乗者は墜落後にどうなったのか? ミライさんとカバンちゃんの間には記憶を保持できない「動物だったもの」が介在すること、最終回でカバンちゃんの手足が黒ずんでいたことと併せると、不吉な推測が成り立つ。
 おそらく、本来の『けものフレンズ』は、無念の死を遂げた恋人たちが、前世の記憶を失った状態で転生した後、再び恋に落ちるというファンタジーの一類型をなぞった内容だったのだろう。なぜ、たつき監督が脚本を変更したのかはわからないが、オワコンのゲームを低予算でアニメ化したマイナー作品だと思って、自分の好きなように作っていたのに、気がつくとネットで人気に火がついており、あまりに個人的な内容にするのが憚られたからではなかろうか。
{/netabare}

【ラッキービーストって、何がラッキー?】
{netabare}
 『けものフレンズ』では、フレンズの世話をしたりシステムメンテナンスを行うロボットが登場する。正式名称は不明だが、彼ら自身は「僕はラッキービーストだよ」と語る。しかし、自分のことを「ラッキー」と呼ぶのは、ちょっと奇妙である。

 ラッキービーストは、本来はパークガイドロボットであり、単に情報を教えてくれるだけでなく、バスを運転して目的地まで運ぶなど、パークの入園者にとって実に有用な存在である。しかし、広大なパークに比して数が少なく、ラッキービーストが同時に複数台目撃されることはほとんどない。パークがオープンしても、入園者がパークガイドロボットと出会う機会は、滅多に訪れなかったろう。「出会えたら入園者にとってラッキー」という意味で、ラッキービーストと名付けられたのではないか。

 ふつうの動物を表す animal ではなく、悪いニュアンスで用いられることの多い beast にしたのは、お伽噺などで人語を話す動物が beast と呼ばれるのを踏まえたのかもしれない(ディズニーアニメ『美女と野獣』の原題は “Beauty and the Beast” )。

 フレンズがラッキービーストを「ボス」と呼ぶのは、おそらく、人間の代わりだと思ってほしいという願いから、退去直前のパーク従業員がそう呼ばせたのだろう。もっとも、フレンズからすると、じゃぱりまんを配るなど自分たちに奉仕する役割に見えるので、ボスの呼び名に相応しい扱いはしていないのだが。
{/netabare}

 『けもフレ』は、中毒性の高い作品だ。見るたびに気になる点が出てきて繰り返し再生するうちに、気がつけば、(1話見るのを1回として)延べ100回くらい見てしまった。一番好きなキャラは、何気に賢いフェネック。共感するキャラは、サラリーマンみたいに愚痴を言うリカオン(「オーダーきついですよ」)。一番気になるのはシロサイの鎧の下。一番心に響いた名言は、第7話でアフリカオオコノハズクが言う「おいしいものを食べてこその人生なのです」で、何度聞いても目頭が熱くなる(何度聞いても吹き出す迷言が、アミメキリンの「あなたはヤギね!」)。

投稿 : 2018/06/25
閲覧 : 284
サンキュー:

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