キャポックちゃん さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
きものとジャポニスム
総合評価:☆☆☆☆
この作品の総合的レビューは別のサイトに投稿したので、ここでは、作中で重要な小道具として使われる「きもの」について一言述べたい。
ヨーロッパで日本に対する関心が高まるのは、江戸幕府が正式出品した1867年のパリ万博以降である(62年のロンドン万博でも日本コーナーが設けられたが、美術品から日用品まで雑多な品を並べただけだった)。パリ万博では、浮世絵や漆器などとともに「きもの」も展示され、そのデザインの斬新さが画家や美術商の関心を引いた。
現在では、きものは帯できつく締めて着付けるというイメージが一般的だが、これはあくまで武家の着こなしであり、一般的な庶民は、緩く帯を巻いただけの気楽な着方をしていた(湯音は良家の子女なので、武家風の着付けをしている)。浮世絵で江戸庶民の姿を知ったヨーロッパ人は、こうした(きもの本来の)ざっくりした着方に注目したのである。19世紀ヨーロッパでは、裁断した布地を身体の形通りに立体的に縫製する衣服が主流で、中でも女性服は、理想の体型(胴回り40センチ!)に合わせるようにコルセットで締め付けるものが多かった。日本のきものは、こうしたヨーロッパ的衣服のアンチテーゼであり、快適さを追求する新時代のファッションに見えたようだ。上流階級では、きもの風のゆったりしたガウンが流行した。
『クロワーゼ』には、クロードが湯音の持参したきものを美術商に売り払うエピソードが描かれる。アニメの舞台となる19世紀末の時点では、ジャポニスムの流行はまだ上流階級中心だった。フランスの庶民が日本に関心を寄せるのは、芸者の貞奴(さだやっこ)がパリで公演を行った1900年か、日露戦争で日本がフランスの同盟国ロシアに勝利する05年頃になってからである。したがって、クロードにきものの価値がわからず、わずか500フランで売ってしまうというのはありそうな話だ。1フランが今の日本円でいくらになるかははっきりしないが、金価格をもとにすると、19世紀前半で1000円、フランが切り下げられた1928年には200円ということなので、19世紀末の500フランは20万円弱くらいだろうか。
当時、日本から輸入されたきものの人気は高く、入荷するとすぐに売れてしまうため、多くのきものファンがヨーロッパ製のまがい物で我慢していた。美術商がいくらで転売したかは示されないが、アリスが「クロードには1年掛かっても貯められない」と言っていることから、日本円で100万を遥かに超す金額と見て良いだろう(クロードが、個人店を経営する腕の良い職人であることを忘れないように)。それでも、百貨店を所有する富豪のブランシュ家ならば、日本好きの妹に姉がプレゼントするには適当な価格なのである。
(ヨーロッパにおけるきもの人気については、深井晃子著『きものとジャポニスム』(平凡社)に詳しい)