ぺー さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
北宇治高校吹奏楽部にモブはいません
2018.07.18記
原作未読 1期2期劇場版視聴済み
ときおりこのような素敵な出会いがあるからアニメはやめられないなと思います。
超満足、全方位おすすめ作品です。
大所帯の吹奏楽部を扱うため部員だけで64名います。
この作品では主要キャラ以外の部員も、本編を観ていただければ彼ら彼女らがいかに個別の輝きをもって描かれているかわかるかと思います。
部員たちキャラの描写だけではありません。背景/光の演出、セリフの間みたいなもの、ちょっとしたワンカットや音のひとつひとつそんな細かいところに行き届いた演出がなされていることには触れておきたい。
そして細部が凄くても大筋の物語がイマイチでは意味がありません。
1期13話、2期13話、主人公黄前久美子が北宇治高校に入学してからの1年間を追ってます。1期での伏線が2期で回収されてたり、2期観てから1期を観ると感慨深いシーンがあったり、1期2期合わせての完成度が高い作品です。そして地味に凄いことと評価しているのが、1期だけでも2期だけでも個別での鑑賞に耐えうる作品であるということ。
{netabare}部としては『全国大会出場』を目標にしてこれが物語の骨子を成してます。1期ではより楽器の上達に向けた努力に重きを置いており、2期では人間関係の深掘りに重きを置いてるかな、と。あくまでさじ加減の違い、どちらも上達を目指し青春ドラマらしい人間関係のトラブルや葛藤が高いレベルで描かれてます。{/netabare}
おもしろいことに、皆さんのレビューを見てても「1期が好きだ」「2期が好きだ」と両論あって偏りをあまり感じません。トータルで好きな作品だけど○期のほうがより好みだよ!というご自身の嗜好によってということなんでしょう。
それでは、以下1期に絞ります。
{netabare}はじめの数話、新1年生や初心者の葉月へレクチャーするかたちをとって吹奏楽部やコンクール、そして楽器などの説明が入りますが、このへんの知識がない私のような素人にとっては助かります。
前半7話くらいまでは、軽いイベントを挟みつつ後半以降の伏線というかネタの仕込みが多く初見ではやや盛り上がりに欠ける印象。とりあえず3話!的な鑑賞スタイルだととても危険です。人によっては切っちゃうかも。{/netabare}
冒頭数話のノレるノレないは飛び越えて(無視して)視聴継続しましょう。
13話完走すれば、一生懸命打ち込むことの尊さに胸がアツく震えてくるのです。
個人的にキラキラし過ぎと感じたOPは、後半味わいを増してきました。
能天気そうな緑輝と葉月、ダルそうな中川先輩、リボンからしてアホそうな吉川先輩、何考えてるかわからない麗奈やあすか先輩、頼りなさげな部長、使えなさそうな塚本秀一くん、もしかすると滝先生松本先生にすら「なんですか?これ」と言ってしまうかもしれない。そして、特殊能力もなくとことん主役テンプレから外れてるように見えるヒロイン黄前久美子。
序盤、仮にこう思ったとしても(いや、思わないか・・・)安心してください。
彼ら彼女ら一人とも余すことなく、そう思ってしまった自分を殴ってしまいたくなる展開がきちんと待っております。
北宇治高校吹奏楽部員はモブ化しません。
物語の展開としては
{netabare}全国大会出場を目標に掲げてサンフェスを経由して部全体のやる気スイッチが押された5話までが序盤。初心者葉月が合奏の楽しさに気づく6話、葵ちゃんが退場する7話はリアルなら当然ある部活の取組み方への温度差の違いをうまく描いてたと思います。オーディションや昨年の1年生大量退部事件にも触れ、これから「コンクール」や「楽器の上達」により軸を置いてきますよ、と宣言したような{/netabare}
7話くらいから加速していった印象です。
8話以降は、シリアスパートが続きたぶん目が離せなくなります。
{netabare}8話、大吉山で中学からのわだかまりが解消されある意味結ばれた久美子と麗奈。2人になにかしら変化が生じ後半パートの起点となります。オーディションでの明暗を描いた9話。10話ではオーディションの結果をどう捉えるか?中川先輩・久美子組と、そして中世古先輩・優子先輩・麗奈組と対照的な反応を示す2組を通じて掘り下げてます。{/netabare}
10話といえば、
{netabare}1年前は、上級生と下級生を取り持とうと腐心した挙句、上級生優先で実力がありながらソロを吹けずじまいだった中世古先輩。最上級生になったらオーディション導入で実力派高坂麗奈に昨年だったら自動的に転がりこんだであろうソロを奪われた中世古先輩。後輩からも思いを託され、部内調和と自身のトランペットへの想いが交錯して葛藤をした中世古先輩。「ソロパートのオーディションをもう一度やらせてください」と再オーディションへ名乗りをあげた起立挙手、まっすぐな決意の眼差しにやられました。個人的にはここで名作確定。というかまだ10話なんかい!?という不思議な感覚。{/netabare}
終盤11話12話最終13話は、話毎のテーマや見せ場がしっかりとあってどれもが秀作回です。
{netabare}前半のネタ振りが効いて唸る場面が数多く、一例を挙げると久美子や麗奈の成長も見逃せません。11話で滝先生に「出来ますか?」と問われ、「はい、出来ます!」と即答した久美子。吹部に入部するかも怪しかった1話からは想像もできません。同じく、「オーディションの時は生意気言ってすみませんでした」と頭を下げた麗奈にも人間的な成長が見受けられます。{/netabare}
{netabare}後半に姉麻美子の登場シーンが増えるのもぬかりないですね。「上手くなりたい」と渇望するきっかけを与えてくれたのは間違いなく麗奈なのですが、そもそも楽器に触れたいと思うきっかけとなったのは麻美子でした。2話で葉月にマウスピースでの音出しをアドバイスをする中で幼少期に麻美子から手ほどきを受けた自分と重ねて吹部入部を決めた場面は地味ながら好きなシーン。姉妹のそれぞれの想いについては2期をお楽しみに!{/netabare}
ここまで物語の構成に重きを置いてレビューをしてきました。
また、長文にお付き合いいただきありがとうございました。
この作品、受け取り方は人それぞれの部分もあるかとは思うのですが、少なくとも作り手側の丁寧な仕事ぶりというところには皆さまご同意いただけるのではないかと思います。
海兵隊のビフォアアフター、音に向き合っている久美子の練習風景、これらは素人目にも音の違いをわからせました。
作画は言うに及ばずですね。声優さんも北宇治カルテットは皆知らない方ばかりでしたが、キャラに合った良い演技をされてたと思います。
そして、あらためて北宇治高校吹奏楽部にモブはいません。
1期ではセリフゼロですが、2期で物語を彩るキャラもしっかり映り込んでたりするので、ぜひ2期を観終わってから1期を振り返ってみてくださいね。
最後に細かい演出ですが、唸ったところを一つ。
主役は夏紀先輩でございます。
{netabare}■13話 三日月の舞演奏シーン 舞台裏の夏紀先輩と加藤葉月
演奏序盤。
舞台袖暗がりの中見守るバックアップメンバー
葉月「いいっすね」
夏紀「うん」
葉月「ぁ、あたし・・・」
夏紀「しっ…低音のとこだよ」
転じてあすかと久美子のカット。しっかりキメるユーフォ二人組。
楽譜のアップ、みどりには葉月からの、久美子には夏紀先輩からのメッセージ。
序盤の低音部分を無事乗り切って笑顔でハイタッチする先輩と葉月。とここまで。
{netabare}ポニテ先輩が葉月を遮ってまで聴きたかったパートとは?{/netabare}
遡って9話。ユーフォニアム奏者3人のオーディションシーン。
久美子モノローグ「夏紀先輩のオーディションは思ったよりじっくりとおこなわれた」
校舎映しでの音だけのシーンに転じる。久美子も見かけた先輩が練習してたパートはしっかり吹けてる。続いてのパートは打って変わってたどたどしい音が流れ場面終了。
{netabare}そのたどたどしくしか吹けなかったパートがそれでした。{/netabare}
自分が出来なかった箇所をしっかり成功させた後輩久美子を見守って、カトちゃんと笑顔でハイタッチできるポニテ先輩がどれだけ男前なんだ、とキャラに心をわしづかみにされたシーン。
さらに、低音パート成功シーンの裏にあるのは夏紀の失敗描写だけではありません。10話で、
夏紀「先生にはちゃんと見抜かれていたよ 自分の練習してないところ吹いてみてって言われてあとはボロボロ」「楽譜持ってる? 久美子ちゃんには最初に書きたかったんだよね~」
楽譜に書かれたメッセージに込められた想いと合わせて心を揺さぶる素敵な演出でした。
{/netabare}
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2019.02.06追記
《配点を修正》
いくつかあるなぜか繰り返し観てしまう作品のうちの一つ。
制作スタッフの丁寧な仕事ぶりが見て取れる。その上で自分のツボにかちっとハマる。
なかなか出会えませんが、出会えた時は素直にスタッフに敬意を払いたくなります。ありがとう。。。