岬ヶ丘 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
心雨
雨の季節に見たくなる作品がまた一つ増えた。
率直に言ってとても雰囲気や情感に溢れ、人間描写も濃厚な作品だった。そういう作品が自分の中にまた一つ増えたことにとても幸せを感じる。
作品への第一印象はあまりよくなかった。年の離れた男女の恋愛話は珍しくはないが、個人的にあまり肌に合わずこれまで敬遠することも多かった。どこか訝しむ気持ちもありつつ、ノイタミナブランドを信じて見始めた本作。
しかしヒロイン・あきらがなぜ冴えない中年男性に恋をしたのかを知り、あきらの店長への思いの不純ではなく純粋さで真剣そのもの、それでいて不器用な姿に思わず応援したくなったり。そうか彼女は本気なんだということを理解したとき、この作品のに自分が深く魅入られていることを自覚した。
うだつが上がらないが人のいい店長・近藤の過ぎ去った青い日々。文学への想い、執着、そしてその代償として失ったもの。文学に真摯すぎるが故に立ち止まってしまった己からの再スタートもまた、胸にくる部分が多くあった。人生の交差点で立ち止まる少女と、人生の折り返しを迎えた一人の男に生まれる変化や成長を、繊細な心理描写と感情的な演出で表現していた。
本作のもう一つの重要なポイントである、あきらとはるかの友情もこれ以上ないくらい青く青く描かれていたと思う。あきらが部活を辞めて微妙な関係にある二人の空気感や、あきらのはるかや陸上への揺れ動く気持ちが痛いほど伝わってきて、どこか大人びた雰囲気のあきらもまだ17歳の女の子なのだということを感じさせる一幕だった。
演出面では魅力的なキャラデザや美しい街並み、音楽そして雨が印象的。セリフを最小限に留めているにも関わらず、とても充実した内容になっていたのは素晴らしかった。雨については雨模様とキャラクターの複雑な心模様とを重ね合わせて、情緒のある演出が光っていた。
少ないセリフの中でもキャラクターの台詞が胸に迫るのは声優さんの好演があってこそ。特に平田さんはこの手のダメ中年を演じさせると右に出る者はいないのではないかというハマりっぷり。
作画は少しレトロ感もありつつ、ため息がでそうなほど美しいキャラデザも作品の味になっていたように感じ、その点も他のアニメにない大きな魅力だった。
OPのポップな曲調ははじめは作品のテイストに合うのか少し首を傾げたが、爽やかなメロディと歌詞、かわいらしい演出もあって最終的には良曲だと判断。EDは雨の雰囲気を纏ったしっとりとしたバラードでこちらも良曲。雨の匂いがするような劇伴も素晴らしかった。
最終話の展開自体については概ね満足しているが、他のレビューにもあったようにできればもう1話使って丁寧にまとめてほしかった思いも拭えない。あきらとはるかの友情面の話に比べると、あきらと近藤の関係はそれまで積み上げてきた心理描写をもう少し活かした内容にもできたように感じるので、その点はやや残念だった。ただ最終話のラストの二人が青い世界で抱きしめあう心象風景は非常に綺麗で、カタルシスのある演出だった。この締めくくりでも決して悪くはないのだが、少し求めすぎなのかな。
二人に降り続けていた心の雨は止み、これから彼らが進む道が少し離れてしまうとしても、二人が過ごした想いと時間がそれぞれの轍となって、彼らの進む道標となりますように。これからの雨の季節が待ち遠しくなるような一作になった。
視聴日 18/4/1