sunnyday さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
氷菓の評価
本作は一言で表すのが非常に難しい作品です。
放課後のあの怠い空気というか、蒸し暑くてたまらない気分というか、今の季節にぴったりの空気を纏っているような気がします。
ただ、ミステリの謎が解けるように、曇り空から晴れ間が差してきて、彼らの中の知られざる屈託や清々しい情景が垣間見える時があります。それこそ、本作の面白さなのかも知れません。
<物語について>
本作はミステリの中でもいわゆる「日常の謎」と呼ばれるジャンルの作品です。つまり、日常の何気ない場所から謎を引っ張りだしてきて、それを解くというわけです。「日常の謎」では凄惨な殺人事件も、世紀の大泥棒も現れないし、正直長々とし過ぎてしまうところがあるのですが(事実本作の前半も少し冗長)、後半になるにつれてイベントも盛りだくさんですから、5話くらいまでは我慢して下さい笑。
本作の面白さは物語を覆う雰囲気による所が大きいので、合わない人はいると思います。
<作画・演出について>
流石は京都アニメーション。作画の鬼です。
本作は今から7年前の作品ですが、とてもそうとは思えません。飛騨高山を舞台とした背景の美しさはさることながら、人物の描写にも驚かされます。原作小説では奉太郎は地の文で自分の感情を喋ってくれますが、映像ではそうはいきません。ですから、ツタで好奇心を表現したり、表情だけのカットを付け足したりする訳です。トリックの説明の際は、少し演出が鬱陶しく感じましたが、丁寧な演出に惚れ惚れしました。
<声優について>
佐藤聡美さんが千反田の声で本当に良かったと思います。この方以外には思いつきません。あの「わたし、気になります!」で本作の成功は半分ぐらい約束されたと言っても過言じゃないです、本当に。
{netabare}ちなみに残りの半分は入須冬美役のゆかなさんです。{/netabare}
<音楽・OPEDについて>
BGMには超有名どころのクラシックがふんだんに使われてます。月光とか、G線上のアリアとか。原作者自ら選んでいるだけあって、とってもマッチしています。
OPEDで言えば、1クール目の「優しさの理由」が一番好きです。The青春!って曲調で、サビで飛騨の色々な場所とキャラクターが写るのが好きですね笑。
<キャラクターについて>
個人的には、入須先輩を推しつつ、奉太郎のように生きたいと思っています。
彼のモットー「やらなくてもいいことは、やらない。やらなければならないことは手短に。」は金言です。
<その他>
メモ(ネタバレ)
・5話まで -The niece of times-
{netabare}5話までの話では、千反田えるの叔父である関谷純と古典部の過去を古典部のメンバーが解き明かしていきます。<古典部シリーズ>1作目「氷菓」のお話です。
本作は日常の中に潜む謎を描くミステリなのですが、なんといっても演出が良いです。小説で表現されている感情の描写を大胆に映像化して、千反田の好奇心を目に見える形にしています。少し複雑で音声だけでは理解しにくいような所も、映像でしっかり補完できるようになっています。
5話までがとても面白かったので原作も読んでみた所、ある問題が生じました。それが「小説を先に読むか、アニメを先に読むか」という問題。どちらかをネタバレした状態で読まなければならないジレンマに苦悶しながらも、僕は先に原典にあたるのが道理だと考えて、6話からは先に小説を読んでから視聴したいと思います。{/netabare}
・11話まで -Why didn’t she ask EBA?-
{netabare}既に角川文庫から出ている古典部シリーズのうち5作目「ふたりの距離の概算」まで読み終わり、本作の残りを見始めました。愚者のエンドロール編で描かれているのは、ずばり「折木の屈託」。まんまと女帝、入須冬美に唆されて映画の結末を探ることになる奉太郎は、自分の才能を信じるか否かということで迷います。
この辺りでもやはり人物の表情の表現には唸らされます。折木が入須に、自分を探偵役にした真意を聞くシーンの奉太郎の表情が良かった。
あと酔っ払ったえるやばいです。{/netabare}
・17話まで -Welcome to KANYA FESTA!-
{netabare}クドリャフカの順番編は、文化祭での連続窃盗事件のお話。この辺りからトリックも巧妙になってきて、ミステリ要素も強くなります。
一番に驚いたのは、絵の書き込みの多さ。モブの動きが多すぎてクラクラする程です笑。文化祭特有の謎の高揚感がよく出てます。こんな文化祭やりたかったって、心から思います。
あとコスプレえるやばいです。{/netabare}
・最終話まで -Little bird can remember-
{netabare}18話から最終話にかけて、一話完結のエピソードが続きますが、それはある意味原作準拠だったりします。
今まではあくまで奉太郎が中心になる話が多かったですが(主人公だし)、ここではえるとか、里志とかにフォーカスした話があります。「手作りチョコレート事件」は初めはショックでした。いくらなんでも想い人のチョコ粉砕するか?そんな奴だったのか、お前…!って。ですが内容を噛み砕いて行くと、里志には里志なりの考えがあってのことだと分かります。まあ、それでも摩耶花が可愛そうだと感じますが。
最終話はなんといっても美しい。最後の場面、千反田が奉太郎に自らの境遇と陣出について紹介する場面では、画面全体が赤紫の夕焼けで染められていました。現実離れしたその光景は、彼らのこれからを祝福しているように思えてなりませんでした。{/netabare}
僕はこの作品で原作者である米澤穂信先生を知りました。米澤穂信先生を通して、ミステリの面白さを知りました。そして、何より本が好きになりました。
僕が本作を観終わったのはほんの数ヶ月前ですが、知らなかったミステリや、本の世界を知ることができたという、その点に関してだけでも、本作を製作して下さった京都アニメーションにはとても感謝しています。
本作の原作<古典部シリーズ>は、最新作「いまさら翼といわれても」を含む6冊が角川文庫に収められています。6冊目は6月25日に文庫になったばかりです。まだ読んでいない方は是非読んでみて下さい。きっと懐かしくなると思います。
このような美しい作品が、またいつの日か見られることを祈っております。
そのうち追記するかもしれません。